2,ある王子の悩み お題:個性

 個性。などという言葉は、簡単に人の武器となる。南部国〔ダクシナマハーラタ〕でも個性を尊重しろ、階級制度を無くせなどといった声を多数聞く。そんな中でも、第二王子であるアルジュナは自らの個性を押し殺し続けていた。いや、彼の場合は身分的な意味合いではなく個人的な意味合いで。

 王子として立派な振る舞いを見せなければ、戦士としての誇りを高く持たなければ。母が望む、“いい子”でいなければ。そんな呪いにも似た言葉を何度も何度でも自分に浴びせ続けた。結果として残ったものは容姿端麗、品行方正、誰がどう見ても年不相応な少年の完成だ。

「……これで良いはずなのですが、どうして、どうして-…」

 ——僕は、こんなにも息がしづらいのでしょうか。

 慣れたはずの行動に、どうやら妙な疑問が生まれていたようだ。水中で息をするような苦しさを生む行為のその答えには、夜空にぽっかりと浮いた月ですら答えてくれそうになかった。

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