第20話終わって始まった日の話(0)

 年が明けて、一悶着二悶着あって、此処を出る事となった。

 もう、どう計算しても此処を続けられる選択肢はない。自動車学校に車の運転免許を取りに行こうとした時点でもう事態は詰んでいたのだ。なんなら取りに行こうと思い至る過程の時点でこの終わりが決まっていたようなものである。

 まぁ、いい。もう、いい。ボクに出来る事は全部した。後悔はあるけど、それも仕方がない。

 看護師免許を取った記念に購入した、気に入っていて、大事にしていたL字の机も背伸びして買った椅子も、引越し祝いで買ったスプリングの効いた寝具も捨てた。残りは引越し先と拠点に振り分けて送った。この一年住んでいた部屋もさっき引き払ってきた。だから、最後の身辺の荷物を詰めたキャリーバックを引きながら、旅立ちに当たって新調した厚手の緑色のロングコートに身を包み、職場・・・までは入らず、職場の応接室へ行く。

 退職にあたって辞令交付的な式があるのだ。こんなものの意味は分からないが、尊敬していた直属の上司が「式典は出なきゃいけない。」などと言うから、仕方なく、日程調整して郵便処理にはしなかったのだ。そのクセその上司はボクが此処について見れば、通院で不在。逃げやがったのだろう。でも、良い。後悔するようなお別れだったが、別れの言葉は受け取っている。縁が続けばまたいつか、会えるだろう。

 辞令交付なんぞ入職当時にした位で、作法が分からずたたらを踏んでしまった。でもまぁ、良いだろう。式には出たのだ。

 此処の建物から出て、キャリーバックを引っ掴む。

「これからどこ行くの?」

 世話になった事務の職員が問う。

「まぁ、とりあえず、北の方に。」

 多分行き先はまだ雪が積もっている事だろう。

 二度とあんな土地で生活する気は無かったが、それも仕方ない。今のボクが働けそうな条件が揃った病院は直感で此処しかなかったのだ。

 やるしかないなら、やるだけ、ですか。

 不安もあるし、後悔はあるけど、未練はない。

 これでダメでも、あと数年で『約束』をした時が来る。大丈夫、大丈夫。あと少しの話なのだ。

 此処に来る時は、ようやく今までの人生が報われた気がしたのだが、終わってみれば、何一つ報われず、手に入れたものは失って、残ったモノは少しだけ。

 ほんと、酷い話だ。これだからボクの人生は嫌なのだ。

 別れとお礼を告げて、ため息一つ。

 イヤホンを耳に嵌め、ボクは駅を目指して歩き出す。

 

 此処から、ボクの人生が始まったのだった。

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トラブるナースの旅 ORIGIN 白都アロ @kanngosikodoku

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