第9話 飾られた武器の話(+1)

 とある僻地の病院の休日。スタッフ数も患者も少ないので、詰所でうだうだしていたのだが。暇だったのでこの病院の防犯システムについて興味本意で現地の看護師に聞いてみた。

「倉庫の奥に刺股(先端がYの字の殺傷能力が皆無なものを指す)があるけど、使ったこともないし使い方もわからないし、一本しかないよ。」

 との事。

 まぁ、そんなのはどこの病院も似たり寄ったりで、基本的に病棟にないし、あったとしても予算ケチって一本しかないし、おまけに大切に大切に金持ちの貴族が中世の鎧を飾るが如く、刺股が壁に掛けられ壁にかざられている程度の存在だった。当然実践で使える者も使い方も誰も知らなかったし触れた事のあるスタッフすら絶滅危惧数だ。尤も、倉庫で埃を被るくらいなら詰所にいてもらう方がもしかしたら威圧できるのかもししれないが。

 そして、話はここからである。

「これってどうやって使うんだろうねぇ。」

 確かに、調べたことすらなかった。

「ようつべ先生に聞いてみますか。」

 タップされるスマホの赤い長方形マーク。

 以前どこかの施設で男が大暴れした時に警備員が取り押さえている映像だ。なるほど、男一人に対し、刺股を装備した警備員数人が参戦し、磔にしている。

「やっぱり一本じゃすぐに抜けられるもんねぇ。だめだぁ。」

 そうですね。私だったら一本相手であるならば掴んで強く引っ張ると見せかけて押して相手のバランス崩させるか、足で蹴り上げるか踏みつけます。

 そもそも非力な女性看護師(非力ではない者も往々に存在するが)が扱う機会が多そうだが、それなら尚更抜けやすい。

「一本での戦い方、調べてみましょうか。」

 ポチッとな。

 暴漢と使用者、一対一。襲いくる暴漢。使用者はuの字の部分を相手に当て、力を入れて押した後、一瞬の動きで刺股を反転、持ち替えてIの字の部分で一撃相手の腹に叩き込む。当然悶える暴漢さん。そこを、刺股で追撃していく。

 動画を見、病院で看護師が患者をボコボコに料理する姿を想像して爆笑するボク。

「これぇ、私たちがやったら怒られるよねぇ。」

 そうですね、最悪医療事故報告書に加えてお巡りさん来ちゃいますね。

 他にもいくつか動画を見るも、同様の相手の損害を厭わない動画が複数認められる。病院でこれをやれと・・・。笑いすぎて良い加減に腹が痛くなってくる。

「やっぱりやるならシュッてやってグッてやるしかないねぇ。無理だぁ。」

 諦める先輩。

 そうですね。刺股チャンスの際は、相手に肉体的に滅ぼされるか、相手を滅ぼして社会的に滅ぼされるか選ばなければなりませんね。

 そんな、やっすい給料で人生の生殺与奪を考えさせられるのが、僕らの職場なのだ。

 恐らくこの病院では刺股君に活躍の機会は来ず、永遠に倉庫の隅で埃を被って眠り続けるのだろう。

 居るだけで価値があり眠り続ける刺股に対する若干の羨ましさを感じながら、この話は終わるのだった。

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