第2話ナンパされたような話(+1)

 スマホを片手に、旅先の都会の港を歩く。ちょっとスマホの地図から目を離した隙に、地下鉄に乗りたかったのだが大いに通り過ぎていた。時間は夕方、けれど、さほど暗くはない。

 ボクはかなりの方向音痴なのでスマホが旅先の命綱なのだ。尤も、この命綱も電池を喰うわ、地下では使えないだ、位置情報の誤りで変な所に誘導するわ、なかなか全面的に信頼できないのが誠に残念なのだが。

 今度こそ方角は大丈夫。次の角を左折、ね。

 安心して顔を上げると、目の前を道を塞ぐように男二人が歩いてきていた。

「さっきこっちを見て目を逸らしただろう。」

 古典的で高圧的な・・・ナンパ。そう解釈したくなるが、相手が着ている服は紺色の制服にレトロモダンな紺色帽子。そう、警察官だった。

 と、言うか、別にボクは目を逸らしていない。道を誤って周囲を見渡している折に、視界の端に物騒なパンダカラーリングな車は捉えていた気もするが、一切注視していない。自意識過剰も甚だしい。

「あぁ、職質ですか?はい、保険証でも大丈夫ですか?」

 とは言え、警察に喧嘩を売っても勝てやしないし、利もない。ボクはレッグポーチから財布を取り出し、そこから身分証明書となるものを引き当てる。

「運転免許の方がいいですね。」

 ボクに警察官に刃向かう意思がないことを向こうも悟ったのか、若干態度が軟化する。

「はい、どうぞ。」

 注文に応え、保険証の後に引き出した運転免許をボクは渡す。

 受け取った警察官はこちらに背を向け、無線でどこかと確認し出す。

「今日は何の目的でここに?」

 残った警察官が私に問う。

「・・・、旅行です。」

 「・・・」この間に逡巡したのは、大人の男性であるボク一人でキャラクター物のテーマパークに行くことを目的にここいらに来たことを言うべきか悩んだからだ。

「そうですか。」

 突っ込まれなくてよかった。

 などと言っている間に、無線通信も終わり、警察官が再び2人揃う。そして始まる荷物チェック。最初に漁られる私の登山用リュック。その中には、衣類と、明日の朝ご飯がわりのチーズケーキと、先ほど購入した海外のお菓子セット。

「お、これはお土産ですか?」

「お土産ですか?」

 と、それを見て若干テンションを上げて訊く彼ら。

「・・・、ボクのですが。」

 半分キレ気味に答える。

 そう、その海外のお菓子セットはファンシーなキャラクターのラッピングがされているのだ。そしてボクはそれに魅力を感じ購入し所持しているのだ。おまけにチーズケーキすらファンシーなキャラクターがパッケージに描かれている。

「・・・。」

 いい歳の男がキャラ物を所持している事で、気まずい沈黙に空気を包まれながら続けられる職務質問の荷物チェック。職務質問をされるのは別に良いが、人の荷物にコメントを一々されるのは初体験である。

 そんな最中、片割れは通行人に何かを尋ねられ若干渋りながらこの場を離れる。

 私が実は凶悪な人で急襲し出したらどうすんだろ・・・甘いなー・・・、と日常的にさっきまで穏やか風だった人に急に襲われるジャンルという意味で同業者的に物思う。

「これには何が入っていますか?」「ポッケットの中は何入ってますか?」

 続いていく荷物チェック。

「気になるのでしたら、全部見ていいですよ。協力するので。」

 今は変な物も変な本も持っている訳でも無し、言われるがまま、見ぐるみを剥がされていく。

「そのポーチは?」

「財布入ってますよ。」

 財布を出す。いつもなら「そうですか」で財布を仕舞うお許しが出るのであるが。

「その中に他人名義のカードとか入ってませんか?」

「入ってるわけないでしょ⁉︎」

 予想外すぎる質問にこちらが驚く。入ってたら職質なんて受けないってば、馬鹿野郎。

「すいませんねー。」

 と言いながら、露わにされる私の財布。

「すいませんねー。」

「いいです、慣れてますから。」

「よくされるんですか?」

 ご趣味を尋ねられているのかと錯覚しそうになる。

「えぇ、全国各地で。」

 好きでされているわけではないが。

「旅行が趣味なんですか?」

 こっちが趣味の質問か。

「・・・まぁ。職業的なやつですね。」

「仕事は何を。」

「看護師です。」

 全国彷徨く看護師とは一体。なんて、側から聞いていたら意味不明な会話なのだろうか。

 そうこうしている間に、荷物チェックは終わり、

「終わりました、行っていいですよ。」

 お許しが出る。

 ボクはささっと身なりを整え、振り返らずに曲がるべき角に向かって歩き出す。

 「スナフキン」「日本兵」「緑」等と揶揄される私の効率を突き詰めた結果生まれたファッションのせいで(そうじゃなかったら困る)職質を多々受けてきた人生ではあるが、今回の職務質問は中々に失礼度金賞の一回であった。


 


 

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