第8話 解答編2

「教授が……犯人……」

「そんなはずはない、彼の者は何か勘違いをしているのだろう」

「全く、彼を疑うとはやはり子供か」


 指さされたライヘンバッハ教授……いや、モリアーティは帽子を目深にかぶってにやりと笑い、エバラ達に向き合って拍手を始めた。


「いやぁ流石だ、少年探偵団たち。流石ホームズくんが目を付けるだけはあるね」


 老紳士の落ち着きはいまだに変わらない。この状況では逃げることもままならないだろうに、慌てる様子すらないのだ。


「いかにも、アニサキス入りのサーモンを送ったのは私だ。しかし、それが何の罪になるのだね?鮭にアニサキスがいるのは知られている。気づかないで調理して出したコックの落ち度じゃあないか」


「そ、そうよ。産地によっては鮭にアニサキスがいるというのは、当り前じゃない」

「スケルトンアニサキスを見落としたのはコックのせいでしょ」


 会場も教授の言葉に賛同する声がほとんどだ。

 アウェイの空気でも既に勝利を確信しているエバラは、気丈に応戦した。


「教授が持ってきた魚が、北方海域にしか生息していないキングトラウトサーモンでもですか?」


「キングトラウトサーモンに、スケルトンアニサキスだと……?」

「アームドアニサキスの間違いではないのか?」


 先ほどのコックがサーモンの切り身とランプを持って証言をする。


「いいえ、アームドアニサキスは除去しております。その上でスケルトンアニサキスも付いておりました。」

「それを私が仕込んだとでも言いたいのでしょうか?そこのコックさんでも誰でも仕込めるのではないですか?」

「あなたはこのコックさんにこう伝えたそうですね『新鮮なので生食で』と」


 会場はすでに静まり返っているので、ここからは弁の立つびー作が変わる。


「聞いての通り、アームドアニサキスの付いた通常のキングトラウトサーモンと見せかけ、スケルトンアニサキスを仕込むことができた人物は……一人ではないかもしれません」


 そう仕込むだけなら他の人でもできなくはない。


「しかし、生で食べさせこの事件が起きる事を誘導できたのは、生食を勧めたあなただけです」

「しかし、料理マリネを指定したのは冬の女王様ではありませんでしたか?」


 そこにいたのかバトラーがモリアーティ教授に組み付こうとする。


「それを誘導したのもお前だったのさ、モリアーティ」

 バリツでモリアーティと渡り合うホームズ……しかし、モリアーティはそれを片手ですべていなしてしまう。


「おや、ホームズ君。今はそんな見た目なのか。なぁに、また会えるさ」


 二人の戦いのさなか、会場に潜んでいたであろうモリアーティ教授の協力者が一斉に煙幕を張る。

 視界が奪われている間に、モリアーティは城壁に空いた穴から外に出ていた。


「ではさらばだ、少年探偵団の皆さん。またいずれかの事件でお会いするかもしれないね」

「待つのな~」


 シーカーは強化された身体能力と、猫耳によって強化された聴力でモリアーティ教授を追ったが、時すでに遅し。

 教授は部下たちの用意した早馬に乗って遥か彼方に逃げ去っていた。

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