第6話 捜査パート3 調理場2

 事情聴取を終えて、三人は状況証拠を整理し、仮説を考えていた。

「う~ん、例えば春と秋の女王の腹痛がフェイクで、結託して夏と冬の女王を失墜させようとしていた」

「だとすると、回りくどいし本当にお腹痛そうだったのな」

「夏の女王様も腹痛があるらしいし、冬の女王様だけ腹痛がないのは逆に意味が分からへん」

 と言うのも、手当に当たっていた医者の話によると、病に臥せっている二人は発熱があり、仮病とは思えないとのこと。


「でも驚いたね、春の女王様の平熱が十六度で、秋の女王様の平熱が二十度」

「夏の女王様は三八度だから、うちらとおおむね同じやけど」

「冬の女王様はマイナス二〇度以下らしいのな」


 異世界は常識が違いすぎる……。普通に推理しようと思ってはダメだ。


「常識が通用しない世界なのに、お料理だけは普通だったのよね」

「確かに!宮廷料理って感じじゃないけど、美味しそうやった!」

「でも、冷蔵庫とか無かったからあんまり冷たくなかったのな」。家で作る時は、マリネ液に浸けたらキンキンに冷やすから、アレだとまだまだ美味しくないのな……」


 ん?冷蔵庫がない……生魚料理……。

「エバラ、ちょっといい?」

「何?」

「調理場で調べて欲しいことがあるの」


 事の真相にたどり着けそうな仮説をエバラとシーカーに伝え、三人は証拠集めのために二手に分かれた。


 まず動いたのはシーカーだ。

 夏の女王様の胸についたブローチを取り上げ、一目散に走り出す。

「鬼さんこちら~手の鳴る方へ~」

「ちょっと探偵さん!?それを返してくださいまし!」

 返すわけには行かない……これも仮説の立証に必要なことなのだ。シーカーは城内をめちゃくちゃに走っている。


 所変わって再び調理場、エバラとびー作はここにいた。

 毒物が見つからないため、衛兵は場内の捜索にかれ、ここにはコック達が残されている。

「今日のタイムスケジュールとお料理の出した順を教えていただけますか?」

「はい、この度は一〇時前から式が始まり、まずはカプレーゼとマリネを順にご提供しました。その間に国王や来賓の祝辞があり、お昼過ぎ……一三時ごろでしょうか、それまでは歌や踊りなどのショウがありました」


「マリネが先なのは単純にコースの順番ってことですか」

「はい、それもありますが、ライヘンバッハ卿からいただいたサーモンは、冷凍ではなく生鮭でございましたので、痛む前にお食べいただこうかと」


「生鮭を持ってきたのは参列者さんなのですね」

「えぇ、箱に立派な鮭が一匹寝かされておりました。『新鮮なので生食も大丈夫、痛む前にお出ししてください』との言伝でした。午後は観劇をお行いながらメインのソテーとパスタ料理、そしてソルベをお食べいただいたところで事件が起こりました」


 おおよその流れを聞き終わったとき、エバラの声がこだまする。

「びー作!出たよアニサキス!予想通り、サーモンお皿にいた」

「そ、そんなはずは……アームドアニサキスは取り除いたはずなのに」


 そう言ってコックは棚から紫色をしたランプを取り出し、ランプに火を灯す。

 そうすると、アニサキスに色が付き目視できる状態となった。


「これは南方の海にだけいるスケルトンアニサキス……何故北方の海にいるキングサーモントラウトにこれが……」

「これは本来キングトラウトサーモンには居ない寄生虫なん?」

「えぇ、スケルトンアニサキスは七〇度以上の熱と寒さに弱いので、常にマイナス二〇度くらいの氷の張った北方にはおりません。

北方の魚には、極寒に耐えるアームドアニサキスが居りますが、ライト無しで目視できるため取り除けば生で食せます。

一方、南方の魚は目で見えないスケルトンアニサキスなので火を通し、このランプで最終確認をします」


 本来いないはずの種類のアニサキスがいた……。

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