青春アンソロあとがき

千羽稲穂

青春アンソロのあとがき

 文字の上だけは正直でいよう。現実では何と言われようと、人と出会うとその人へ向けた上っ面を顔にはめこむし、綺麗な言葉を塗りたくる。本心はどうしたって、声で言葉を紡ぐと隠れてしまうから。しゃべりだすと、「これって本当のこと?」と後から考えると頭をかしげたくなることばかり。本当のことを書いたら書いたで、「書き直し」と訂正が入る。その人は私を思い通りにしたいだけ。私は、その人に寄り添えないだけ。そんな世界がとっても嫌いだった。「本当」「正直」よりも、相手の価値観や綺麗さに添うことが美徳とされ、本当の自分の綺麗さを見失っていたり、考えもしない、ある意味では強く、ある意味では、空っぽな人たちが嫌いだった。私だって同じだ。だから、結局そういう自分がまるごと嫌いだってことに気づいた。嫌いを変えるために理想像を作り上げて、本心とは違うことを言っていると気づいたときの自分が一番醜く感じた。本心はどこにもなくて、正直な言葉や、真実なんてないことを知っていて、それでも激しく怒りや苛立ちを常に感じていた。どうすることもできずにもがいて、夜に紙に書き散らした。嘘つき。嘘つき。嘘つき。そんな嘘つきな素を、どうして認めてくれないの。いいや、嘘つきを変えなきゃいけないんだ。でも、どうしてもできない。幼い頃の養育環境であったり、私の身体に流れる血脈であったりするところに、逃れられないから。相手に求めるな、では自分を嫌いな人はどう自分を認めればいいのだろうか。相手から否定されたとき、遠くの誰かがツイートでこういう人はいけない、と遠回しに否定したとき、裏でこそこそ悪口を交わしあっているときにふと自分に刺さったとき、どう自分を認めて変えられるのだろうか。

 人ってそんなに強くない。少なくとも私は、そんなに強くない。弱くて、弱くて、いろんなものに逃げてしまうし、でも、そんな私を認めてほしかったりした。どれだけ醜くても、気持ち悪くても、生きてしまっている現状がわけがわからなかったから。青臭いって思うかもしれない。必死に生きて、必死に悩んでいるから、だからこそ出てくる言葉を、「そういえば若い時はそんなことで悩んでいたな」とか、嘲笑を浴びせないでほしい。せめてこれを読んでいる人たちは否定しないでほしい。青いことは、悪いことではない。むしろ、それを余裕をもって高みの見物して見下していたり、若いなと吐き捨てることに対して、どうしてそういうことができるのか不思議でならなかった。大人、というものに、大人の世界に苛立ちを感じていた。抗っていた。この抗いを、「反抗期」だと名付けて、抗っているものの大きさを取り違えないでほしかった。傷つきやすいのは「経験していないから」と人生経験玄人みたいな、青い時代を忘れてしまっている大人になりたくはなかった。感傷的なことも、苛立ちも、反抗的な眼差しも風化させたくなかった。ほんの少しのことで揺らぐ心の機微を、めんどくさい、と一蹴してほしくなかった。素直に、ずっとまっすぐに見つめていることを嘘だと言ってほしくなかった。持ち運んでいるものは、ずっと、ずっと綺麗なものなんだって、私は信じているから。そして、私はそういうものを持っている人たちを認めたい。

 だから、私は若いことも、馬鹿なことも、必死になってズレたことを考えていることも、全部認めてくれる、青春小説が好きになった。

 私の定義する青春は少し違っている。誰しも想像するのは、きらきらした青春だ。部活に注力して仲間と団結、良い子と一緒に帰り道を歩き、そして恋が実り、部活も大成する。夏の思い出。花火をしたり。良き仲間、良き恋人、楽しげな声。心が温まるかつての思い出はそういったことが多いのではないだろうか。

 ありえない。誰もが誰もそんな青春を送っているわけはない。恋は実らない。教室では空気だ。クズになり果てることだってある。いじめにあう。かつての青春の思い出が大人になった今を苦しめることだってあるはずだ。全部ひっくるめて、青春だ。どんな青春があってもいいはずだ。言葉は嘘にも成りえるけれど、認めてもくれる。

 小説は、許してくれる。どんな人だって。どんな境遇だって。どんなに理想的であっても、どんなに絶望的であっても、違う人生を見せて、存在を示してくれる。

 言葉は救いだった。物語は個人を承認してくれる。青春小説は間違いを、正しいと言ってくれた、認めてくれる言葉や物語がたくさん詰め込まれていた。人によって、「青春」は違うからこそ、人それぞれの「青春」の承認がある。このアンソロは、そうしたアンソロに仕上がっていると嬉しく思う。少なくとも、主催者の私は充分救われたので、今度は青春アンソロジーを読む誰かが救われてほしい。勝手に救われて、勝手にわけもわからず生かされてほしい。そして、どこかで、出会おう。感謝なんていらない。あなたの存在が認められる、一助となっているだけでいい。ふとしたきっかけで、こういう作品があったな、と記憶の片隅に身を置いていると幸甚だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青春アンソロあとがき 千羽稲穂 @inaho_rice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ