第19話 宝箱がミミックと言う定番パターンも
犬型のモンスターとの戦闘経験は、初日で結構稼いだとは言え。咲良にしてみれば、スピードで上回っている敵との対戦はあまり有り難くは無い。
体格や
現にこちらへと襲い掛かって来た狼のガーディアンは、サティのボウガンを空中で軽々と避け。その速度を維持したまま、咲良へと襲い掛かって来る。
そこに咲良のカウンターが炸裂、恐らく称号の『後の先』も良い感じに乗っかってくれたのだろう。太い鉤爪の薙ぎ払いの圧を顔面に受けながら、何とかそれを喰らわず済んだ幸運を噛み締めつつ。
咲良は尻餅をついた姿勢で、大慌てで敵の次の襲撃に備える。手応えはそれなりにあったけれど、戦闘経験の少ない咲良に倒せたかどうかは分からない。
そこにサティが、短剣を両手に体ごとぶつかって来た。そしてすぐ近くであがる、狼の悲鳴染みた甲高い鳴き声。そのすぐ後、吹っ飛ばされていく小柄なサティの体躯と言う。
それを見た咲良も、慌てて起き上がって大狼へと特攻を掛ける。
慌て過ぎていたので、魔法やスキルを使う暇も無かった
喉元に鋭い突きを素直に受けて、それが致命傷となってお亡くなりに。そんな事よりと相棒へと駆け寄る咲良だったけど、幸いにもサティに大した怪我は無かった。
何より興奮状態の少女は、私たちでやっつけたよとこの勝利に舞い上がっている様子。それを何とか
何しろ彼女の方が年上だし、いざとなれば売り物のポーションが鞄に幾らでも入っているのだ。仲間から代金を取るつもりも無いし、取れる手段は早めに取らないと。
シェリーがそんな2人を見兼ねて、2人でポーション1本回し飲みで丁度良いのではと提案してくれた。咲良は有り難くその案に乗って、小部屋で休憩する事に。
ちなみに狼ガーディアンは、ランク2の紫魔石を1個と狼の皮をドロップしてくれた。それから奥に設置されてある宝箱は、サティに開けて貰う事に。
何より少女は、任せてとヤル気に満ちているので。
「えっと、罠は……大丈夫、ついでに鍵も掛かって無いみたい。まぁ、ガーディアンが護っているタイプの宝箱は、高い確率で安全らしいんだけどね」
「へえっ、そうなんだ……確かに理屈は合ってるね、サティ。うわっ、中身も結構たくさん入ってるよ、これは当たりかもっ!?
どうやって分けようか、半分こが無難かな?」
サティはそれで良いと言うので、宝箱から中身を取り出しながら2人でなるべく公平になるように分配する事に。シェリーもそれに参加して、約10分間掛けての仕分け大会。
サティは革鎧とかマントとか、上質なショートソードとか銀の短剣などの実用品を欲していて。逆に咲良は、換金性の高い魔石や魔法アイテムに興味津々で。
魔石に至ってはランク3のも幾つか混じっており、さすがにそれはサティと等分する事に。逆にランク1の魔石と、それから魔玉と呼ばれる投げると爆破する石は咲良が貰い受ける事に。
それから黒曜石の手斧と、どうやら魔法が掛かっているランタンも一緒に貰って。魔法と言っても、簡単な死霊除けらしく価値は低いみたい。
スキル書やオーブ珠の類いは、残念ながら1つも入って無くて残念な結果に。サティの方は、他にもヘッドガードや革のベルトなども貰って早速お召し替えを行っている。
その嬉しそうな姿に、その持ち主は死んだ冒険者かもとは口が裂けても言えない咲良である。もっとも向こうも、そんな事は百も承知なのだろうけど。
それよりさっきの戦闘で、咲良は見事にレベルが上がってくれた。
名前:椿咲良 職業:行商人 ランク:見習い
販売力:F- 懲罰P:518
レベル:08 HP 25/32 MP 19/27 SP20/20
筋力:21 体力:23 器用:17
敏捷:18 魔力:12 精神:23
幸運:08 (+2) 魅力:08 名声:---
スキル(3.4P):『運動補正』『旗操術』『旋風』『硬化』『安寧』『簡易鑑定』『軽量化』『気配察知』
スマホスキル:『会話:サポートAI』『マップ機能』
武器スキル:《ラッシュ》
称号:『奴隷販売員』『後の先』
サポート:『シェリー』F+
そしてシェリーと話し合って、『気配察知』のスキルを習得する事に。これで下手に不意打ちを受ける事も無くなって、安全度は飛躍的に上がるだろう。
残ったスキルPは、念の為に貯金をしておく事に決めてある。E級以上の使えるスキルも欲しいし、いざという時に状況に応じてスキルを取得すると言う手もある。
そんな事を考えている隣では、サティが新装備を体に馴染ませようと、ちょこちょこ歩き回っていて可愛いかも。それじゃあ出発しようかと咲良が言うと、元気な返事が返って来た。
それから思い出したように、咲良はシェリーに『マップ機能』でナビをお願いと提案するのだけれど。F級スキルはそこまで便利ではないと、迷宮内では上手く働かないと言い返されてしまった。
「何となく、出口の場所しか分かりませんね……さっきの分岐まで引き返して右手に進んでください、マスター」
「了解、前哨基地に近付けても出口が無いと話にならないもんね。それじゃあそっちに進むでいいかな、サティ?」
「いいよっ、次からは私も前衛で戦えるから頼ってね、サクラ。もう少し、この地下遺跡を探索して回ってもいいかもね?」
2人での探索で宝箱を引き当てて、少々ハイになっているサティを宥めつつ。咲良はシェリーに言われた道順で、薄暗い地下のルートを辿って行く。
そして分岐を進もうとした途端に、新たに取得した『気配察知』に引っ掛かる感覚が。それに何となく感心しながら、サクラは相棒と共に戦闘準備を始める。
さっき宝箱から拾った魔法のランタンは、どうやら紫の魔石を燃料に魔法の効果を発揮するようだ。ついでに灯った光も、なかなか明るくて懐中電灯より役立ちそう。
そしてその灯りは、新たに出現したゾンビに
それから次のスケルトンの群れも、同じく戦闘の練習かなって感じで手応えはほぼ無かった。それでも数は多かったし、魔石と骨素材を回収する事も出来たし。
もっともサティに言わせれば、そんな骨の欠片には高値は付かないそう。魔石もランク1しかドロップしてないし、数が多いだけの賑やかしみたい。
それらを倒しながら、シェリーのナビを信じて進む2人である。
そうして30分程度が経過して、そろそろこの地下遺跡の出口も近付いているとシェリーの報告。今日の行商時間だと、既に2時間近くの経過となっており。
戻る時の事も考えないと、不味いかなって時間帯となって来ている。つまりはあと1時間で、このエリアの行商だか探索だかを綺麗に終わらせる算段をしないと。
幸いにも通路はしっかりとしていて、割と人通りも多いのか灯りの設置も増えて来ていた。そんな雰囲気を感じて、2人でもうすぐ出口だと盛り上がっていたら。
不意に通路に扉付きの小部屋を発見して、アレッとサティが驚いて報告するに。扉についてる覗き窓から中を確認すると、室内に宝箱が設置されてるとの事。
明らかに怪しい部屋が、こんな出入り口に近い場所に出来ているのはかなり不自然である。
「う~ん、どんな罠だろう……敢えて安全重視でスルーするって手もあるけど、私たちで対処が可能なら思い切って開けてみるのも手だよね。
どっちが良いかな、サティ?」
「私の開錠スキルは全然低いし、罠感知も同じ位だけど……取り敢えずは挑戦してみて、駄目だったら素直に諦めようか、サクラ」
シェリーは危険が高いとの判断で、スルーに1票を投じていたのだけれど。賛成多数で、行ける所まで頑張ってみようと室内へと踏み込む2人となって。
なかなか豪華な小部屋だけど、サティは恐らく最近出来た部屋では無いかと推測しているみたいだ。でないと前哨基地に近いこんな場所を、冒険者が見落とすのもおかしいと。
成る程と思う咲良だけれど、何と言うか小部屋に入っての圧迫感が凄い。それ系のスキルを持っていないのに、プレッシャーを感じて変な汗まで掻き始める始末で。
何が原因だろうと
その声には、宝箱のチェックをしようと近付いていたサティも驚いたようで。立ち止まった瞬間、宝箱が向こうから正体を現わしてくれた。
ミミックが、目の前の少女に咬み付こうと大口を開けて挑んで来る。
悲鳴を上げながら尻餅をつくサティと、思い切り『後の先』頼りにカウンターを仕掛ける咲良。その戦法は今回も上手く行って、箱の中へと幟の突きが見舞われる。
その瞬間にあがった
シェリーが慌てないで、武器に魔法を掛けてとアドバイスを飛ばしてくれる。その頃にはサティも戦線に復帰して、フォローにと斬撃を飛ばしてくれるけど。
やっぱり宝箱姿のモンスターに、斬撃系の攻撃は効果が薄いみたいで。逆襲の毒のブレスに、2人揃ってダメージと毒状態をプレゼントされてしまった。
とんでもない強敵だが、幸い向こうの移動可能な範囲は少ない模様だ。それでも逃げ出すと敵は『引き寄せ』を使いますと、シェリーの忠告は相変わらず鋭い点を突いて来る。
それよりサティが、戦闘で溜まったダメージでかなり不味い状態みたい。咲良はベルトポーチに差し込んでいた毒消し薬とポーションを、少女に投げ渡して服用を指示する。
それから自分も、取り敢えず毒消し薬だけは何とか飲み干す事に成功。これで継続ダメージは防げたが、敵のタゲを取っているのでそれ以上の回復は厳しいかも。
それよりポーチを漁っていた時、指先に丸いモノに触れてある作戦を思い付いた咲良。シェリーに小声でその案の遂行を提案すると、向こうもスンナリ乗っかってくれて。
格上相手に、最善の策だと褒められてしまった。
とは言え、そのアイテムの使用はぶっつけ本番なので上手く作用するかも不確定でとっても怖い。それでも接近戦でああも暴れられては、長物の幟を使う咲良はとっても不利には違いなく。
最初にまぐれで決まったカウンター以降は、ずっと押され気味で打ち身の数が酷い事に。敵の噛り付きを防御出来ているだけ、まだマシだとシェリーも忠告に忙しそう。
そんな感じで踏ん張っていたら、何とか回復の終わったサティが戦線に復帰して来てくれた。とは言え、少女の装備もこの格上の硬いモンスターに対峙するにはとっても不利。
それでも相手の注意を一瞬奪うには、ナイスサポートだったには違いなく。己の回復を後回しに、咲良は敵の隙を見据えて魔法の掛かった幟をミミックの口へと突き入れる。
今度の攻撃は、最初の一撃程のダメージが上がらなかったのは織り込み済み。それより大事なのは、ミミックの口が幟を咥え込んで完全に閉まっていない事。
その隙間に向けて、咲良はポーチから取り出した魔玉(炎)を思いっ切り投げ入れてやる。シェリーの話では、魔力を流して爆発しろと念じて投げれば良いとの話だったけど。
その使用方法で合ってたようで、次の瞬間にはくぐもった爆砕音が。
そしてミミックは、内側からの魔玉(炎)の爆破で見事に消滅してくれた。宝箱から偶然入手したこの魔法アイテムは、どうやらかなりの威力だった模様である。
少なくとも、格上相手の戦いで充分にダメージを与えられる程度には。と言うか、さすがの硬度を誇るミミックも、内側に関してはそうでは無かった模様である。
嬉しい事に、ミミックは消滅と同時に結構な宝箱をその場に吐き出してくれた。ランクの高い魔石やら、武器や防具やスキル書もある模様で分配作業も大変そう。
サティも驚き顔で、そのドロップ品に見とれている。
――それよりも、冒険の仲間がいるって良いなと思わず思う咲良だった。
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