第15話 儲かれば物々交換もアリ



 さっきの戦闘に関しては、反省すべき点も多い……シェリーに小言を貰いながら、咲良も確かにそう思う。思いっ切り先手を許したし、相手の術中に思い切りはまってしまった。

 あれで切り返し方法が無ければ、或いは敵がもっと狡猾だったらと思うと。咲良は為す術もなく、同僚の策略に嵌って殺されていただろう。


 今は現場から10分ほど離れた森の中で、休憩しながら商品のポーションを飲んでいる所。背にしたナップザックに『軽量化』を掛けて、足早に移動したので距離は稼げている筈。

 だからと言って安心は出来ないが、これ以上は咲良にもどうしようも無い。追いつかれないように願いつつ、周囲を警戒しながら休憩に勤しむのみ。


 それにしても、まんまと相手の計略にはまって良く生き延びられたモノだ。その点は評価しても良いと思う、まぁシェリーのサポートあってのモノだったけど。

 そして向こうの目論見には正直ドン引き、まさか自作自演で報奨金狙いだなんて。称号に関しても、『同族殺し』なんて厄介なモノを欲しがるとは頭がイカれている。

 そう思う咲良だが、実はあの後急に称号が生えて来ていた。



名前:椿咲良  職業:行商人  ランク:見習い

販売力:F-  懲罰P:518

レベル:06   HP 25/27  MP 19/22  SP16/16


筋力:17   体力:19   器用:14

敏捷:15   魔力:10   精神:19

幸運:08 (+2) 魅力:08   名声:---

スキル(0.2P):『運動補正』『旗操術』『旋風』『硬化』『安寧』『簡易鑑定』『軽量化』

スマホスキル:『会話:サポートAI』『マップ機能』

武器スキル:《ラッシュ》

称号:『奴隷販売員』『後の先』

サポート:『シェリー』F+



「シェリー、この新しく生えて来た『後の先』って称号だけど……さっきの戦闘で貰えたのかな、良く分からないけど得したと思うべき?

 後は……懲罰ポイントがちょっと上昇した程度で済んだかな?」

「そうですね、その辺は巻き込まれた形とは言え仕方が無いのかも……称号の機能は、『簡易鑑定』でご覧になっては如何いかがでしょうか。

 ちなみに称号は、ただで貰えて効果が永続する有用なスキルみたいなモノですね」


 それを戦闘の勝利で獲得出来たのは、喜ばしいイレギュラーかも知れない。ちなみに『簡易鑑定』で調べた所、後手での攻撃にダメージ加算がつく効果があるみたい。

 先手で魔法を撃ち込まれた際には、耐性アップ効果もつくとの事で。偶然拾ったにしては、なかなかの性能を持っているかも。


 それはともかく、改めて自身のステータスを見るとなかなかの充実具合だ。特にスキルが日に日に増えて、挙句の果てに武器スキルなんてモノも覚えてしまった。

 それがどんな物なのかを、後でチェックしておかないと。ちなみにスキル書から覚えた『軽量化』のスキルだけど、移動の際にはとっても楽で快適だった。


 この調子で、戦闘系のスキルも試してみたい所……何しろ、ようやく付近はモンスターの気配が漂うエリアに。岩の多い森の中で、視界はあまり良くは無いけど。

 のぼりを振り回すのに不便は無いし、捜し回って発見したのは幸いにもFランクのコボルトだった。群れの数も3匹と、そこまで脅威では無い感じ。

 シェリーの話だと、ゴブリンと強さはどっこいらしいし。


「ただし犬タイプの妖魔なので、敏捷性と咬み付き攻撃には注意して下さい。囲まれると厄介です、体格の差で強引にペースを掴む戦法が推奨されます、マスター」

「なるほど、多少強引でも体格差で蹴散らせと。了解、それじゃあ行ってみようか!」


 そんな訳で、森の中での戦闘開始である。時間は既に1時間以上が経過しており、残されたのはもう1時間半ていど。この狩り場で、1つくらいはレベルアップしておきたい所。

 行商に関しては、もう何となく諦めている咲良である。シェリーの『マップ機能』にも、近辺に人の生活している集落の類いは映っていないそうで。


 残念ではあるが、その代わり武器スキルの《ラッシュ》の威力はかなり凄い事が判明した。例えるなら普通の薙ぎ払い攻撃が、全力殴打の二段攻撃になる感じで。

 小柄なコボルトに使用すれば、《ラッシュ》の一撃で倒す事が可能な程。ちなみにこの武器スキルだが、スマホからの習得も一応は可能だとの事で。


 ただし、Fランクのスキルでも10P以上は交換に必要らしく。宝箱の発見が、どれだけラッキーなのかって話である。もちろん咲良は今回も、移動しながら宝箱探しに余念がない。

 移動するたびに、コボルトの群れは何度も発見には至るのだけれど。そうそう上手い話は転がっておらず、念願の3日連続の幸運にはあり付けそうもない。

 時間はまだ1時間は残っているので、努力は続けるけど。


「とは言え、やっぱり苦しいかなぁ……コボルトは結局、何匹倒したっけ? レベルが1つ上がってくれたから、それなりの数は倒したと思うけど。

 ちょっと休憩するね、シェリー」

「敵の討伐数は27匹ですね……魔石はランク1の黄色が23個、紫が3個に白が1個です。それから朗報が1つ、移動した結果マップに集落が映りました。

 マスターの左手に進んで、約10分の距離です」

「えっ、マジ……これは待望の、行商のチャンス!?」


 思えば行商人としてこの異界に送り込まれたのに、ここまでほとんどその機会が無かった。ほとんど人と出会わなかったので、仕方が無い事とは言え。

 これでは売り物を持ち歩いている意味も無いなと思っていた矢先、この知らせである。咲良は持参したペットボトルのお茶を飲み干し、勢い良く立ち上がってシェリーの示した方向へ。



 そして本当に10分後、確かに集落らしき場所を発見。砦のように5メートル級の木の柵に囲われているのは、“大迷宮”内なので仕方が無いのだろう。

 従って中は窺えず、どの程度の規模なのかは外からは分からない。それでも見張りの若者が立っていて、すぐに咲良を見定めて話し掛けて来てくれた。

 こんな時、目立つ法被はっぴと幟は超便利かも。


「なんだぁ、キテレツな恰好してよぉ……お前さん、どっから来た?」

「えっと、流れの行商人をやってまして……薬品や保存食、生活用品なんかを扱ってます。小1時間ほどで良いので、中で商売させて貰えませんかね?」

「あぁ、こんな田舎に行商人かぁ……ちょっくら待ってろ、村長に聞いてくらぁ」


 今の所は会話はスムーズ、途中で翻訳機が与太った気がしたけど。どうやら向こうのなまり言葉が、スマホの翻訳機能的には難解だったらしい。

 それでも数分後には村長なる者が出迎えてくれて、アッサリと砦内に通される咲良。何となく歓迎されてる雰囲気は、ここに訪れる旅人の少なさ故かも。


 村の中はとても質素で、二階建ての建物など皆無だった。村長の家からしてもそうで、出迎えた村長は白髪混じりのかなりのご老体で。

 それでもよく来たねとの言葉と共に、物々交換でも宜しいかと問うて来て。どうやらこの集落、他の町との交流もほぼ無くて貨幣を使う文化が無いらしい。


 それでも貨幣代わりにと示されたのは、色とりどりの魔石だった。さすが迷宮内の集落である、住民は周囲の探索で普通に魔石が拾えている模様だ。

 ひょっとして、宝箱も何度か回収出来ているのかも。示された魔石はランク3も結構混じっており、これは逆にこちらの売り物の価値が合わないかも?


 ところが向こうは、儲けに無頓着と言うか全く張り合いの無いお人好し振りを発揮して。そもそも、魔石に価値があるなんてあまり考えていないのかも知れない。

 咲良も特に、ボッたくる事なんて全く考えてはいないけど。一番向こうが興味を示したのが、釘や針金や包丁の類いだって事実に肩透かしを食らってしまった。

 ちなみに2番人気は、お菓子やスナック類と言う。


「ええっと、これらはウチの商品の中ではそんなに価値も無いんですが……」

「いやいや、ウチの集落には鍛冶屋がないけんのぅ……魔石と交換でええなら、全部持って行って下され。この食いモンも、子供達が喜ぶじゃろうて。

 もっと無いんかの、何ならとっておきの品も差し上げるんで」


 そう言って村長が奥の間から持って来たのは、何と金のコインだった。昔に集落の近くに湧いた宝箱の中から、偶然回収した品らしいのだが。

 純金だとしたら、恐らく10g程度の重さはあるかも知れない。シェリーによると、地球で換金したらボられても5万円程度にはなるんじゃないかって話で。


 そこから交渉はヒートアップ、と言うより咲良が一方的に商品を積み上げていく恰好だったけど。まずは最初の宝箱から回収した、石の斧や鎌や骨の矢じりなどの武器一式。

 これらは普段の生活にも利用出来るしと、ナップザックに入れて持ち歩いていたのだが。向こうにも気に入って貰えて、持ち歩いていて良かったとホッと胸を撫で下ろす。


 次いで昨日回収した、小奇麗な服や肌着も向こうには喜ばれた。迷宮の住人たちは、衣類の再利用には頓着しないようだ。過去の持ち主も不明なら、それも当然かも。

 ついでに売り物の保存食15食分と、それから水が20ℓ分。ポーション類は間に合ってるそうなので、毒消し薬を9本分ほど付け加えて。


 それから向こうが最も喜んだ、釘や針金やガムテープや布テープ、それにロープ類や包丁やカッター類を差し出して。ほぼ百円ショップで揃えた品々だが、数だけはそれなり。

 ついでにペンやメモ類やライター、お菓子やスナックを付け加えて。お陰でナップザックは軽くなったけど、代わりに魔石をたんまりと頂く事が出来た。

 それから金のコインは、戻っての換金がとっても楽しみかも。


「次来る時は、工具類をぎょうさん持って来てくんさらんかのぅ。のこぎりや鍬が5セットは欲しいんじゃが、そちらで揃うじゃろうか?」

「ええっと……次にいつ来れるかが、約束出来ないのはアレですが。来れた時の品揃えは、なるべく充実させておく事を約束します。

 今後もどうか、『鬼魂商会』を宜しくお願いします!」


 そう力んで口走る咲良の目の前では、集落の子供達がスナックを夢中で頬張っていた。普段食べ慣れていないだろうに、目を輝かせて食べてる姿は心がホッコリするけど。

 次の約束を確約出来ない現状が、何とももどかしくて仕方が無い咲良である。同時に行商がまとまった時の感動は、社会貢献をしたかのようなときめきようで。


 『奴隷販売員』の立場をすっかり忘れて、これからも頑張ろうって思ってしまう単純な咲良だけど。シェリーもそれを後押しして、一緒に頑張りましょうと盛り上がっている。

 太っ腹な村長は、金のコインと一緒にランク2~3の魔石も支払いに持たせてくれた。これはまぁ、次もどうぞよろしくの側面もあるかも知れない。


 そう言う信頼や約束が、世の中を動かしているのかもと咲良は思う次第である。こうして異界と接したのも何かの縁、そこでの自分の役割をしっかりとこなして行こうと。

 改めて、見送られて集落を出て行きながら誓いを立てる咲良であった。ちなみに金のコインは、シェリーの能力では換金は出来ないとの事である。

 つまり、今回の保存食や水の支払いは自動的に咲良持ちに。


「えっと、それじゃあ結局は赤字になるのかなぁ? 今までの魔石の換金で、何とかなったりはしないの?」

「そうですね、今日の魔石の稼ぎと昨日までの分で、何とかチャラって感じですか。つまりは明日の入金は、当てにしないで下さいって事ですけど。

 金のコインの換金に全てを掛けて下さい、マスター」





 ――つまり来週の食い扶持は、全てそこに掛かっているみたい。





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