第14話 称号を好きに得る方法



 3日目のランダム出現場所も、やっぱり壮大な自然が真っ先に目に付く景色で。こんな場所には、冒険者たちは通らないんじゃないかなって山岳地帯だった。

 切り立った崖も多く存在しており、移動も大変そうだ。木々もまばらだが、それは標高の高い場所に出現したからっぽい。


 それでも少し移動して山を下りれば、森林地帯に出れそうだ。だからと言って、前回みたいに冒険者と出会えるかは不明だけど。とは言え、泣き言ばかりも言ってられない。

 咲良は覚悟を決めて、どちらに移動しようかとシェリーに相談を持ち掛ける。頼られた彼女は、任せて下さいと言わんばかりに『マップ機能』の新スキルをアピール。


 まぁ、そのスキルPを支払ったのは咲良なのだけど。とにかく昨日と違って、周辺数キロの地図はスマホ画面に映し出せると大威張りのシェリーである。

 それによると、少し西に進んだ場所にご丁寧に階段が設置されているとの事で。どうやら未踏の地では無かったらしい、その事実にホッと胸を撫で下ろす咲良である。

 つまりはここも、無事に“大迷宮”エリアらしい。


「よかった、こんな山の頂上まで誰も階段なんか造らないよね……つまりはそれも、“大迷宮”が勝手に作った建造物って事で間違いは無さそう」

「粗末な階段なので、人の往来はそこまで頻繁には無さそうですね。地図情報では、今の所は冒険者の使う前哨基地や、集落の類いは発見されていません。

 もう少し移動して回って下さい、マスター」


 Fランクの低級スキルだけに、『マップ機能』も万全では無いらしい。それでもなかった昨日より、遥かにマシと言うか頼りになるスキルを得て。

 咲良も了解と口にして、早速発見した階段を降りて行く。今の所はモンスターの類いは出て来ておらず、その点は魔石を稼げず寂しいかも。


 とは言え、昨日の大熊みたいなこちらの手に負えない敵が出て来ても大変困るけど。敵の指定など出来ない現状に、とにかくこちらが注意するしかないと言う。

 そう考えると、やっぱり『気配察知』系の先手の打てるスキルは是非とも欲しいかも。シェリーとそんな話をしながら、咲良はひたすら階段を下って行く。


 そしていつしか、話は夕方に遭遇した獅子堂ししどうと言う名の指導員の事に。彼は自らを“寄鬼やどりぎ族”と言う異界人だと名乗ったのだった。

 その習性と言うか本性だが、どうやら地球の人類とはかけ離れた容貌らしく。そんな彼らが地球で活動するのに、欲しているのが地球人の『表皮』らしい……。

 つまり、現状で奴は“人”の皮を被って活動中と推測出来る。


 もちろん現代において、人の『表皮』など簡単に手に入るモノではない。と言うか、人類に彼らの存在がバレれば、逆に全力で狩られる立場になってしまう。

 そんな訳で、なるべく合法にバレない様にと彼ら異界の“寄鬼族”が考えた結果。これまた別の世界の“契魔族”と渡りをつけて、新鮮な死体を回して貰っているそう。


 その候補が、違法に集められた行商人の集団らしい。そんな中で若者の人気が高いってのも、確かに頷ける話ではある。身に着けるなら、断然年寄りよりは若者が良いに決まっている。

 いや、そこは全力で拒否したい咲良ではあるけど……それにしても、親切にそんな裏側まで教えてくれた獅子堂の目論見の方が気になって仕方が無い。


 何となく分かるのは、獅子堂も好きであの百目鬼とどめき支社長に従っている訳ではないって事か。ひょっとしたら、咲良と同じく契約で縛られている可能性も。

 それならば、力を合わせる事も可能かも知れない。


 そんな可能性を感じつつも、その場はちょっと話をしただけでお開きに。向こうは顔繫ぎとこちらの対応を窺いたかっただけの様で、踏み込んだ話は一切無かった。

 咲良にしても、いきなり大事な打ち明け話をされても受け止めきれない。現時点では、何の力も持たないド素人の新人行商人に過ぎないのだから。


 異界の存在や交流にしても、つい2日前に知ったばかりである。もっと情報を集めて、自身も力を蓄えないと抗う事すら出来やしない。

 特に『クラン商会』についてとか、百目鬼とどめき支社長自身についてだとか。敵対勢力があったりすれば、もっと良いだろうし協力も仰げるかもだ。


 シェリーは異界の情報については、実はそこまで詳しくは無いみたい。地球の世界で言うコミュニティネットみたいな空間は、異界ではそんなに発達していないらしく。

 それでも『知識:サポートAI』のスキルを取れば、もう少しマシな情報を得られるかもと言って来る。スキルPがあり余る未来は想像出来ないけど、余裕があれば取ってみるのも悪くは無いかも。

 まぁ、咲良の自己強化を優先が基本路線ではあるけど。


「ランク2の黒魔石で1スキルポイントだっけ、それでランク3だと5スキルポイント? 手っ取り早く、それをゲットする方法は無いのかな、シェリー?」

「魔石の獲得方法は、モンスターを倒すか宝箱から回収するか、持っている人から譲り受けるしかありませんね。魔石の色指定までは、完全に運なので無理でしょう。

 この前も言いましたが、黄色が一番多くドロップして価値も低くなります。その次に多いのが、エネルギー変換が比較的容易な紫と白でしょうか。

 紫はスマホやワープ魔方陣などの魔法エネルギーに、白は人の成長エネルギーに交換が可能です。黒魔石はその次で、ドロップ率は全体の1~2割程度でしょうか。

 赤や青魔石は、更に確率が低くなりますけど」


 シェリーは淀みなく説明をしてくれて、なるほど魔石には色々と使い道に応じて種類があるらしい。それによると、赤魔石は空間エネルギーに、青魔石は補修エネルギーに交換が可能らしく。

 一番価値が高く、それらを発見したら売るのも手だとの話。こちらは借金まみれの身なので、確かにそれを減らすのが自由への近道かも。


 望まぬ現状だが、まずはそうやってかせを外して行くのが最上の方法なのだろう。まぁそれも、この異界の地で生き延びれる力があればの話だが。


 さっき山の頂上からの移動中、下方に巨大な飛翔物を目撃して仰天した咲良だったけど。それがドラゴンに似た生物だと知って、異界の迷宮って半端無いなと改めて思い知った次第である。

 そんな生物が普通に跋扈ばっこしているのだ、命の保証など当然ありはしない。出来れば今日も、程良い強さのモンスターを倒して経験値稼ぎをしたいのだけど。

 先ほどの超生物が原因なのか、移動中は適当な敵に遭遇せずの結果に。


「先ほどの飛翔生物は、恐らく竜の亜種でしょうね……ランク的にはC+辺りでしょうか、昨日の大熊など比では無いと思われます。

 とは言え、“大迷宮”内で竜種との遭遇率は低くも無いのが現状です」

「うわっ、嫌なデータだなぁ……やっぱり護身用に、逃げ足や隠れ身に特化したスキルも1個くらいは持ってた方がいいのかな?

 まぁ、強い敵に効果があるかは疑問だけど」

「2~5Pで獲得出来るFランクのスキルだと、確かに確実性は薄れてしまいますね。Cランクの敵と対応するには、やはりCランクのスキルが必要かと。

 ただし、交換には50~100Pが必要ですが」


 50Pとか、破格には違いないがシェリーに言わせると地道が一番らしい。つまりはまずはFランクのスキルを充実させて、余裕が出来ればEランクへと上げて行くと。

 もちろん自身のレベルアップもそうだし、サポートAIの充実も同時に行って欲しいそうな。やるべき事は多岐に渡って、時間は無駄には出来ないとも。



 そんな小言を貰いながら、敵に遭遇する事なく山道を降り続けてはや30分以上。山道は階段になったり荒れた小路だったりと、迷宮の建設もいい加減で。

 それでもようやく標高が下がったせいか、小さな森が見えて来た。あそこに行けば、適当に相手出来るモンスターがいるかも知れない。


 そう思って歩みを急ぐ咲良だったけど、ふとした違和感で思わず足を止めてしまった。何だか視線を感じる、それも不穏な類いの嫌な絡み方をして来る類いの。

 咲良は決して武術の達人では無いが、その手の感覚は昔から鋭敏だった。例えば人混みに長くいると気疲れするとか、対面した人のオーラと言うか好不調が何となく分かるとか。


 今回もそんな感じで、嫌だなって感覚が森の木立ちから漂って来ていて。モンスターでもいるのかと身構えていたら、思わぬ方向から声を掛けられた。

 しかも、そいつは以前顔を見た事のある人物で、確か『クラン商会』の指導員の1人だった気が。まゆずみと言っただろうか、咲良の支社長への暴挙を止めた人物だ。

 そんな奴が、何故こんな場所に?


「おやおや、こんな異界の地で出会うとは奇遇だな! まずは順調そうじゃないか、さすが若いだけあるな……もっとも、君の同輩はずっと出向を拒否しているそうだが。

 アドバイスしといてやると、懲罰ポイントが1千を超えると酷い目に遭うぞ。お前は現在幾つだったかな、見習いのデータは指導員で共有してるんだが。

 友達なら、何とか仕事に出向くよう説得したらどうだ?」

「……こんな場所で偶然に出会うなんて、こっちが本気で信じるとでも? 何の用事ですか、直接の敵対行動は“契約”で禁じられてる筈……うわっ!?」

「ははっ、確かにそうだな! だが“契約”にも抜け道はあってな……例えば行商人同士のいざこざには、明確な罰則は存在しないのさ。

 そんな訳で、お前の相手は布瀬ふせが行うので宜しくな!」


 そう言われた時には、咲良は暗闇に視界を遮られて視力を失っていた。恐らく魔法だと思われるが、どこから飛んで来たのかとんと不明である。

 まゆずみ指導員の話だと、魔法を飛ばして来たのは布瀬と言う同時期デビューの行商人らしい。一緒に面接を受けた中の、中年男性にそんな名前の者がいたような?


 慌てている咲良に、続いて熱波と気分の悪さが襲って来た。シェリーが敵の現在位置と、魔法で狙い撃ちされていますとサポートの助言を放ってくれて。

 お陰で現在の状況は分かったが、反撃方法までは分からない。


「目潰しは闇系の魔法ですね、その後に炎の玉飛ばしと毒付与の呪文を続けて喰らいました。相手は魔術師系のスキルで固めてますが、恐らくレベルは高くない筈です。

 威力も弱いし、すぐにMPも尽きるでしょう!」

「悪く思うなよ、若いの……こっちも生活が掛かってるんでね。同族を倒すと特殊な『称号』を得る事が出来て、今後の活動に有利らしいんでな。

 しかもお前の遺品の鞄や法被を持ち帰れば、たっぷり報酬も貰えるって話だ」


 なるほど、そう自分の指導員にそそのかされて今回の襲撃に至ったらしい。シェリーがそれを受けて、『同族殺し』の称号は有名ですねと蘊蓄うんちくを垂れて来て。

 しかも遺体からの鞄の回収は、30万円以上のボーナスが貰えるらしい。向こうも金を掛けて揃えた備品を、異界で放置は痛過ぎる出費なのだろう。


 しかし、その遺品を自作自演で作ろうって根性には恐れ入る……殺人の忌避きひ感がない人間は、社会的に不適応だと思うのだが。その標的になっている咲良からすれば、尚の事である。

 シェリーの的確なサポート力に、途端に安心感が戻って来た咲良。慌てずポーチの毒消し薬を、暗闇の中で手探りで服用して。これで毒状態は解除され、毒でポックリの線は無くなった。


 ついでにHPを回復するか悩むが、シェリーはまだ半分以上あると太鼓判を押してくれて。敵も必勝コンボと信用していた作戦が、意外に効果が無いと焦っている雰囲気。

 MP補給で遠隔攻撃を続ければ良いモノを、焦って肉弾戦に前へと出て来たようだ。戦闘経験が浅いと、こんな致命的なミスを起こすのは仕方が無い。

 焦っているのはまゆずみも同じで、お前の位置はバレてるぞとの助言も。


 時既に遅しで、近付いて来た襲撃者相手に咲良は容赦のない反撃を見舞う。そもそも目潰し魔法も、恐らく数分程度しか効果が無いのだろう。

 その焦りもあったらしいが、サポートAIの優秀さを向こうの中年男性は知らなかったようだ。結果、殴り合いでは咲良の方に圧倒的な軍配が上がった。


 勘弁してくれとの弱音染みた悲鳴も、段々と弱くなって行き。その頃には目潰しも解除され、殺人目的で襲って来た布瀬とか言う名の襲撃犯も地面に倒れて虫の息。

 正当防衛とは言え、殺人犯になりたくない咲良はそれ以上の暴行は控える事に。何か言葉を掛けてやりたかったが、戦闘の余韻で興奮していて上手く口に出せず。

 結局投げ掛けたのは、真っ当なやり方で稼げとの台詞のみ。





 ――その言葉が、相手の胸に刺さったかは疑問ではあるけど。







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