第3話 どうやらレベルが上がったらしい
レベルアップの報告は嬉しかったけど、それ以上にショックな懲罰機能の搭載に。シェリーの予測によると、恐らくボーダーラインは1千Pでは無かろうかとの話で。
つまりは既に、懲罰ポイントは半分のラインを超えている訳だ。それだけあの悪徳社長は、咲良に殴られそうになった事を腹に据えかねているらしい。
本当に殴ったのなら話は分かるけど、肝っ玉の小さな奴である。それより、気になるのは懲罰の内容……とは言え、分からない事をずっと考えても時間の無駄ではあるし。
咲良はスキルへの考察へと、頭を切り替えてこの地での生存方法を模索し始める。『運動補正』はその名の通り、個人の運動性能の向上らしい。
ただで全員にプレゼントとは、
それどころか、簡単に死なれたら困る的な裏の意味も透けて見えてしまう。
何しろ咲良を含めた新米行商人たちは、借金と契約で縛り付けた“金の卵”に他ならないのだ。今後利益を永続的に産み続けられるかは不明だが、向こうはそう思い込んでいそう。
怖い推理だが、貰えるモノはちゃんと有効利用しないと生き残れないのも確か。その効果は身を
これを後6Pで、更に効果的に進めるとどうなる!?
「スキルって結構凄いんだねぇ……例えば初心者の私でも、スキルを取れば攻撃魔法とかも使えるようになっちゃったりして?」
『可能ですが、攻撃系の魔法はポイントがお高い設定になってますので……最初は2~5Pである程度使えるスキルを、幾つか見繕うのが最良かと助言いたします。
まずはスマホのスキル画面を開いて、ソートでスキルPの低い順に閲覧を選択して下さい。私的にお勧めなのが、『旗操術』『護身術』『疲労軽減』『マップ機能』『会話:サポートAI』『知識:サポートAI』あたりですかね……。
特に『会話:サポートAI』は、絶対にお得です!』
シェリーお勧めの『会話:サポートAI』は、
何しろ、いちいち画面を見なくても彼女の意向を把握出来るのだ。とは言え、他の候補スキルも割と良さそうな奴ばかりで、咲良は悩んでしまう。
悩んだ挙句、彼女は2つの安いスキルをピックアップ。まず1つ目は
先ほど少し戦った感じでは、今後もこの武器にお世話になるのは否めないだろうし。何しろ5百万のアイテムだ、有効活用しない手はない。
それからもう1つは、シェリーの圧力に押された形で『会話:サポートAI』を取得する事に。何しろ異界でたった1人なのだ、サポートAIとは言えコミュニケーションは大事。
右も左も分からない現状、彼女のサポートは命綱には違いなく。
約1時間の放置を謝り倒して、これからどうぞ宜しくとのヨイショも忘れない。何しろこの異世界は、咲良にとって未知な出来事だらけなのだ。
自分のステータスを、スマホで確認出来てしまう事を含めて。それから当然、こんな簡単にスキルなんてモノを取得出来てしまえるファンタジーと来たら!
“大迷宮”にしても謎だらけだし、更には咲良には販売員としてのキャリアなど皆無である。その辺の諸々をフォローして貰えるのならば、スキル2Pなど安いモノである。
シェリーの機嫌も格段に良くなったし、結果は良好だろう。
「改めて宜しくお願いします、マスター。これで私からのサポートは万全……と言いたいところですが、まだまだ知識や情報へのアクセスが不足しております。
私のバージョンアップには更なるスキルPが必要ですが、まぁそれは
大丈夫、スキルPの入手方法は多種多様にありますので」
「そ、そうですか……まぁ宜しくね? 私って異世界の探索も初めてだし、行商の販売員もした事無いし、ステータスの通りレベル2のルーキーだし。
全く、どれから手をつけたらって話だよねぇ?」
シェリーはそれに同意するも、自分がいれば安心だと太鼓判をドンと押す勢い。咲良は取り敢えずの指針として、近くの狩場で新しいもう1つのスキルを試そうかと提案する。
雑木林は結構広くて、歩き回るのに不便は無いが、向こう側は見渡せない程度の密度はあった。敵の数もそれなりで、シェリーによるとそれらは迷宮が産み出したモノなのだそう。
その存在の意味は、体内の異物除去役ではないかと推測されている。それとも適度な脅かし役か……奴らの落とす魔石は、迷宮に集まる冒険者達の大事な収入源となっている。
咲良もさっき幾つか拾ったが、モノによっては結構なお金になるとの事。モノと言うか、強い敵は良質な魔石を、雑魚モンスターはクズ魔石しかドロップしないとの事で。
それを聞いて、急にテンションが上がる咲良だったり。こんな異世界への突然の放逐に、不安が先立っていた彼女だったけど、旨味が充分にあるのなら話は別である。
元々は行商人など、全く自信の無かったお仕事だし。
だからと言って、いきなり冒険者稼業へと
シェリーの助言に従って、頼りになるスキルも得た事だし。まずはそのお試しにと咲良はさっそうと派手な色合いの
さっきまで戦いを繰り広げていた、敵の出現エリアへと自信満々で進み行く。まだ時間は半分以上残っているし、もう少しレベルアップもしてみたい。
そう言えば、宝箱も探しているんだった!
「さっき出会った冒険者の話によると、大迷宮の至る所に宝箱が設置されてるって……それって本当の事なのかな、シェリー?
そもそも、この“大迷宮”って一体何なの?」
「迷宮の定義については諸説ありますが、一般的にはそれは生き物だと仮定されています。植物を想像して下さい……彼らは蜜や果実で他の生物を招き寄せ、共存共栄に役立てています。
大きな意味で、宝箱や魔石の産出はそういうモノだと解釈されています」
「えっ……そうなのっ!?」
予想外の返事を聞いて、思わず素っ頓狂な声を上げる咲良。まさかそんな事があり得るのだろうかと、彼女は脳内で自分なりに想像を膨らませてみる。
ちょっと信じられない、そんな生物など存在するのだろうか……何しろシェリーの追加説明だと、“大迷宮”は国を3つも呑み込んだ大食漢の“生物”らしいのだ。
そんな場所で、人々は普通に生活とか出来るのだろうかって疑問もあるけど。“大迷宮”は未だに拡がり続けていて、周辺の国々はそれに戦々恐々としているらしい。
付け加えるなら、今いるこの場所はそんな大迷宮の西側では無かろうかとシェリーの言葉。完璧に特定が出来ないのを、彼女はとても悔しがっていた。
彼女の知識や情報は、現時点では大幅に規制されているそうだ。スキルを得るかお金を払ってアプリをダウンロードしない限り、その規制が外される事は無いとの事で。
確かに早めに、マップ系の情報は欲しいかもと咲良は思う。場所によっては、素人がうろつくべきでないエリアだってある筈だし。
ってか、明らかにシェリーはおねだりモードに入っている模様。自分の格と言うか機能を上げたいのが透けて見えるが、それは本能であり仕方が無いのだろう。
そんな話をしながら、咲良は幟を手に雑木林を進んで行く。視線を忙しなく彷徨わせ、宝箱とモンスターの接近に敏感になりながら。
程無く出会ったのは、生憎とモンスターの方だった。
「甲虫タイプのモンスターですね、危険ランクはFとなってます……飛行からの弾丸体当たりに注意していれば、恐らく楽勝でしょう。
主なドロップはランク1の黄色魔石です……頑張って下さい、マスター」
「了解っ、さっきも戦ったからその辺は大丈夫……ところで、その黄色魔石って何?」
さっきも敵を倒した際に、幾つか入手した色のついた石なのだけど。話によるとこの魔石は、大きいほど価値があるそうな。更には色によって、用途が変わって来るとの事。
迷宮での主な収入源には違いないそうで、周辺の地域から多くの冒険者をおびき寄せる大きな原動力みたいである。それが分るだけで、咲良も戦闘に張りが出て来ると言うモノ。
少なくとも、タダ働きでは無い安堵感は大きい。しかも経験値を得られて、レベルアップが可能な世界と言う。それがスマホで管理されるってのが、ちょっと納得出来ないけど。
そんな訳で、戦闘にも力が入るのは致し方が無いのだけれど。取得した『旗操術』スキルが良い感じに働いてるのか、さっきより明らかに幟の操り具合がスムーズになっている。
結構な勢いで飛来して来るラグビーボール大の甲虫を、華麗に布の部分で
敵は呆気なく活動を停止して、粒子となって消えて行った。
後に残ったのは、シェリーの予見通りの黄色い小粒の石だった。彼女によると、それはランク1の換金するくらいしか使い道は無いクズ魔石だそうだ。
つまりは、価値的には一番低いそう……弱い敵だったので、ある程度予想は出来たけど。残念な結果には違いなく、とは言えチュートリアルには丁度良いのも確か。
そんな会話をサポートAIとしながらも、なおも雑木林を探索する咲良である。目的は最初と変わらず、迷宮名物の宝箱の発見に他ならない。
そう思って進んでいると、いかにもどこかに設置されていそうな気もするから不思議。異世界の常識は、そして冒険者の仕事は、大半の時間がそんな探索作業に相違ないそうな。
或いは、それを邪魔するモンスターの掃討か。
それから30分が経過して、今の所それらしき物体は見当たらず。相次ぐ戦闘で気を張っていたが、改めて見回すと雑木林はまるで保養地のような
ひんやりとした空気が心地良く、様々な樹木が日陰を提供してくれている。木々の配置も等間隔で、まるでお互いが他の樹木のテリトリーに気遣っているような感じ。
見掛ける木々の種類も、日本で見掛ける広葉樹や針葉樹にそっくりだ。
全く同じかどうかまでは分からないが、森の匂いや雰囲気はほぼ一緒とみて間違いない。生態系こそ違うが、それは主に生物のサイズ感の一点に
弱肉強食のサイクルは、間違いなくこの地でも作用している。
「……そこら辺で鳴いてる鳥や普通サイズの昆虫は、迷宮が生成した生き物とは違うんだね。植物もそうなのかな、異世界って本当に常識が通用しないみたい。
いや、説明がつかないのは大迷宮の存在そのものなのかな?」
「ところ変われば常識も異質になるのは、マスターの住む世界も一緒ですよ。こちらの住人に、あまりスマホや技術機器を見せびらかすのは止めて下さいね?
突っ込まれて
なるほど、それもそうだと咲良は思い直す。確かに向こう世界の科学技術は、こちらの世界では異質に見えるだろう。いや、こっちの世界の生活基準を詳しく知っている訳では無いけど。
ゲームや小説などでの定番は、中世の欧州程度の生活レベルが多かったような。そして剣や魔法とうろつき回るモンスター、不死生物や竜や神様が実在する世界。
ここがそうだとしたら、かなりドキドキ物だと咲良は思う。さっきすれ違った冒険者たち、彼らの装備から察するにそう派手な勘違いって訳でもあるまい。
そんな世界で、これから毎日3時間の労働を強いられるのだ。
今はシェリーのサポートが保証されて、少しはマシになった状態。更にスキルの使用に目途が立って、戦闘にも多少の自信が持てるように。
現に、出現したモモンガ型の敵を、咲良は
その上、旗布の空気を引き裂く際の抵抗感が綺麗に無くなっている気がする。スムーズに幟を操る事が出来るようになって、明らかに殲滅速度も上がっている。
先ほどの冒険者たちの様に、パーティでの行動では無いのは心細いけど。シェリーのサポートを受けつつ、慎重な動きで雑木林を進んで行って。
その甲斐あって、無事に木々を抜け新たなエリアに到達出来た。
――そしてそこには、寂れた感じの廃墟が拡がっていた。
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