第14話 策略
新田は、入社した頃の漠然とした違和感を思い出した。ながらくそういった気配を匂わさなかったので、すっかり忘れていたのだった。
入社して二ヶ月たった頃、福山部長から会議室に呼び出された。
「新田さんの採用は実をいうと、債権回収責任者としての採用だったんです」
売掛金担当の一担当者としての採用のはずであった。上役達は、新田を
入社した当日から新田に対する加猛局長の言動がおかしかった。とにかく
加猛局長は、誰も就きたくない部長職を、低賃金で契約社員の新田に就かせようとしていた。しかも
せっかく低賃金で誰も就きたくない部長職を、定年まで勤めてもらえる人材を雇ったのに、癌の病気なんかで
加猛局長は、新田の病気についてわざと職場の者に聞こえるように言いふらしていた。
書類に社印を押印するためには、加猛局長の席に行かなければならない。新田が社印を押印しに行くと、決まって加猛局長は卑しい表情を浮かべながら言った。
「新田、もう癌は治っただろ。薬なんか飲まなくていいじゃないか。癌なんて酒飲んでりゃ治るだろ」
新田は、加猛局長の胸倉をつかみかけたが懸命にこらえた。
加猛局長は、新田に対して嫌がらせをしているのではなかったが、彼の発言は明らかにパワハラ行為であった。最大手のA新聞系列の広告会社で、まさかこのような卑劣な扱いを受けるとは思ってもいなかった。
加猛局長から大腸癌について触れられるたびに、新田は不快な思いをする。
―この会社には長くいられないな―
新田は、転職について真剣に考えはじめた。
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