第6話 浸潤
入院の日は母親を連れて大学病院に向かった。姉は派遣の仕事に行くと言ってついて来なかった。いとこの恵子さんとは病院で落ち合う手はずになっている。病院に着くと恵子さんはすでにロビーにいて、私と母の到着を待っていた。
入院の手続きを終えると、すぐに病室に案内された。まず、執刀医が病室に
そのあと執刀医の助手と研修医二名が来て、手術について説明をしはじめた。二名の未熟な研修医は、医師の背後で黙していたが、研ぎ澄まされた眼光は、知性と自尊心でみなぎっている。
「癌はS状結腸にあって、
腹腔鏡手術の安全性については、新田は半信半疑であった。腹腔鏡手術によって死亡したという事例が多いということを聞いていたからである。機器を扱う医師の技量にもよるため、開腹手術しか行わない病院も多いのである。とはいえ、この大学病院では、軽度の大腸癌手術は腹腔鏡手術を行うことが定められており、過去の手術例では死亡者がでていないことから、この大学病院の執刀医の技量を新田は信じた。
医師は、他の臓器にどのように転移するかについても説明した。
「転移の経路は大きく分けて三種類あります。リンパ行性転移、血行性転移、
新田にはもう一つ心配事があった。人工肛門にするかどうかである。肛門に近いところに病巣がある場合、人工肛門を装着する可能性があるからだ。S状結腸に病巣がある場合、人工肛門の対象になるのか新田にはわからなかった。が、医師の説明を受けた限りでは、人工肛門にすることはないようであった。
医師から説明を受けて膨大な書類にサインをした。執刀医達が退室した後しばらくして、麻酔科医が病室に入って来て麻酔の説明をしはじめた。全身麻酔の知識すら知らない新田は、麻酔科医の言うことが理解出来ない。従順に
そろそろ母親と恵子さんが帰る様子であったが、姉が来ることを期待していた新田は母親を連れて来たことを後悔した。認知症の母親は、ひとりでは家に帰れないのである。京王井の頭線渋谷駅のホームまで行けば、なんとかひとりで西永福の実家に帰ることが出来るので、恵子さんにお願いして京王井の頭線渋谷駅のホームまで母親を送ってもらった。
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