第7話 憂慮
入院一日目の夜食はカレーライスだった。この食事を終えた後は、しばらく食事が出来なくなる。その間は点滴で栄養を摂取することになるのである。
点滴を行ったのが、看護学科を卒業したばかりの新人看護師であったため、悲惨な目にあった。点滴の針を刺すのに三回も繰り返したのである。血だらけになるわ痛いわで散々な目にあった。刺し終わった後も痛みを感じたので、他の看護師に頼んで反対の腕に針を刺してもらった。看護師のなかには、ベテランの看護師もいるのだが、大学病院では附属大学出身の看護師が多いため、概して若い年齢層の看護師が多かった。
病棟の廊下を歩いていると、看護師長に呼び止められて
入院中は暇だと聞いていたので、小説を数冊持っていったが、とても読む気にはなれなかった。手術をすることがはじめてであったので怖かったのである。ひたすらテレビばかり見ていた。ニュースを見ていると、どの番組でも連続幼女誘拐殺人事件で死刑判決を受けていた、死刑囚の死刑が執行されたことを頻繁に報じていた。そのようなニュースを見ていると、なんとなく手術について不吉な予感がしてくるのである。
手術は三日後の午後に行われた。母親、姉、恵子さんが見舞いに駆けつけた。姉は当初行きたくないと駄々をこねていたが、恵子さんが説得してやっと来たらしい。恵子さんの話では、姉は院内で三時間も新興宗教のお祈りをしていたらしい。しかし、新田からすれば有難迷惑なことであった。一度だけ、姉のそのお祈りというのを見たことがあった。それは、座ってはお辞儀をして立ち、座ってはお辞儀をして立つ。それを何度も繰り返すのである。あの儀式を院内でやっている姉の姿を想像すると、新田はやるせない思いであった。
午後、体温と血圧を測って手術室に運び込まれた。助手の医師や看護師がひとりずつ新田に挨拶をした。その後、執刀医がやって来て「昨日眠れたか」と新田に尋ねた。「一睡もできませんでした」と言うと、執刀医は「あはは」と甲高い声で
手術台の上に寝かされると、なぜだか気分が落ち着いてくる。恵子さんから「全身麻酔は五秒経つと意識がなくなる」と聞かされていたため、新田は数字を数えることにした。
麻酔科医が「これから麻酔を流しますからね」と言ってから数字を数えはじめた。一、二、三、四、五、六まで数えた時、名前を呼ぶ声が聞えてくる。
「新田さん、新田さん、聞こえますか。手術が終わりましたよ」
新田が六まで数えてから頬を叩かれるまで、三時間も経過していたのである。手術は無事に終わったようだ。
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