第26話 講習会4

名前を呼ばれたので前に出る。


「スキルは...うん?鑑定?」


あ、そっか。俺MDDからのメールで警告されたから鑑定って書いて出したんだった。

教官が今見ている資料も、おそらくその時に記入したものだろう。


「お前スキル鑑定なのに戦闘職希望なのか?」

「そうですね」

「ふ~ん?まぁそういう酔狂な奴も居ない訳じゃないからな、分かった」


どうやら俺みたいに戦闘向けスキルじゃないのに戦闘職になる人もいるらしい。

そんな話しをしていると、後ろでざわめきが起きていた。

この会場でも戦闘系スキルじゃないのは俺だけだったし気になるのかな?


「それでお前の得物は刀か?」

「そうですよ」

「使えるのか?」

「まぁボチボチ自身はありますね」

「そうか、まぁ今まで見ていたから分かると思うが適当に攻撃してこい」

「分かりました」


教官からそう言われたので刀を抜いてラフに構える。

俺は基本的に戦う時はしっかり構える事はしない。


一応正眼に構えるのが正式な型になるんだけど、俺にはどうしても合わなかった。

こっちの方が程よく力も抜けて動きやすい。


「むっ(こいつ、かなり出来るな...)」


俺が刀を抜くと教官の目が鋭くなった。

まだ戦っては居ないけど、教官レベルの探索者になるとやっぱり分かるのかな?


どうしようかな、隠鎖は使わないで戦ってみようかな。

純粋な剣技だけでどれくらい通じるか試してみたい。


「それじゃあ行きますね」

「あぁ、来い!」


その言葉を聞いた俺は教官に駆け出した。

教官は先程までの摸擬戦と違い盾を前にしてどっしりと構えている。


さてどこから切り崩そうか。

ただ刀を振るだけではあの盾に阻まれる事は目に見えてるので、ここは少し奇策に出てみようかな。


俺は教官に駆け寄り、刀の範囲に入った瞬間に姿勢を思いっきり低くした。

ほぼ倒れているといってもいい。


その状態で教官の足目掛けて刀を振るう。


「くっ!」


どうやらその動きが予想外だったらしく、少し驚いた顔をしながら持っていた剣で防がれてしまった。

まぁ防がれちゃうよね~。


でも、まだまだこれからだよっと。


俺は倒れた体をもう片方の腕で支えながら、その腕を軸にして体を回転させ教官の盾目掛けて蹴りを放つ。


ガンッ!と音を立てて盾に弾かれてしまったが、その反動を利用して起き上がりながら教官に刀を振るう。


「(こいつ、マジかよ。これで戦闘スキル持ちじゃないとかすげーな)」


教官は未だに驚いたような顔をしているけど、攻撃はしっかりと防いでいる。

くっそー、やっぱり身体能力差はどうしても覆せないか。


う~んどうしたものか、とりあえず突きでも放ってみるか。


俺は教官に切りかかると見せかけて急に突きを放ってみた。


「うぉっ!!」

「あ、惜しい」


流石の教官も今のは予想外だったらしい。

慌てて首を傾けながら突きを避けていた。


教官の顔の横に刀が入ったので、そのまま体の方へ振り下ろそうとしたのだが、教官の持っている剣で弾かれてしまった。


「お前、危ないことするな」

「でも教官の身体能力なら避けられますよね?」

「だからって普通こんなことしないぞ?」

「そうなんですか?」

「そうだよ、はぁ、スキルが鑑定だからって少し舐めてたわ。お前、相当出来るな?」

「まぁこれでも小さい頃から学んでますから」

「じゃなきゃこれ程出来ないだろうな、気が変わった。少し俺が攻めるから防いでみろ」

「え?」

「じゃあ行くぞ?」

「え?」


嘘だろ、さっきまで教官が攻めるとかなかったじゃないか。

どうして俺の時だけ攻めてくるんだよ。


教官流の冗談なんじゃないかと少し期待したけど、どうやら本気で攻めてくるようだ。

俺が突きを出した後話していたので全然距離が空いていない。


その状態でいきなり攻めてきたので驚いたが、教官も手を抜いてくれてる様で対処は容易かった。


「ふむ、これくらいの速度なら余裕か。じゃあギア上げてくぞ?」

「なんか趣旨変わってませんか!?」

「さあな」


教官がそういうと本当に剣を振るスピードが上がった。

そして教官は心底楽しそうな顔をしている、さっきまではあんなにつまらなそうな表情をしてたのに...。


今は生き生きしながら剣を振るっている教官を見て俺は確信した。

この人バトルジャンキーの類だ。


たまにいるんだよなこういう人!

大丈夫か?俺戦闘スキル持ちじゃないこと忘れてないか!どんどんスピード上がってるけど!!


まだ千鶴ほどのスピードじゃないけど、それでも目で追うのが辛くなってきた。

このままだと防げなくなるのも時間の問題だ。


次はどこから攻撃がくる?考えろ、よく考えろ慧。


《対象の戦闘を観測・・・次に来る攻撃を予測します・・・右、正面、左、右》


そんなことを考えてたらレーラがまた訳の分からないことを言い出した。

攻撃の予測?そんなこと出来るのか?


そう考えてた時期が僕にもありました。

次の瞬間にはレーラが言ったように右から攻撃が来た。


それを防ぐと次は正面、その次は左、右と教官が剣を振るう。

マジじゃん、マジで予測してるじゃんレーラ。


《次の行動・・・斜め右下から切り上げ、蹴り、頭突き》


うっそだろ体術織り交ぜて来るのかよ...って本当にやってきた!!


「(これも防ぐとかどういうことだ?すでに対応できる範囲は超えてると思うんだが...いくら武術を習っているからって対応できるものか?いや、あり得んな)」


《次の行動・・・盾を使った突撃、盾の薙ぎ払い、剣での突き》


レーラが予測してくれることである程度教官の動きに対応できていたのだが、そろそろ俺に限界が来ていた。


やっぱり当面の課題はスタミナだな。

もう足が結構きつい、多分盾の突撃は避けられるけどその後は攻撃を食らう気がする。


千鶴に負け続けた俺が言うんだから間違いない。

俺の体はもう休めと言っている。


そして教官の盾をバックステップで避けたのだが、教官はそれを追いかけてきてレーラがいうように盾で殴りつけてきた。

もちろん俺のスタミナはもう切れているので、まともに食らってしまう。


「ぐはっ!」

「あ?」


い、いてー!金属の盾で殴られるのってこんな痛いのか!?

大丈夫か?俺の腕折れてないよな??一応出来る限り衝撃を逃がしたけどそれでも痛いものは痛い。


「お、悪い。大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです、めっちゃ痛いです」

「す、すまん、まさか避けられないとは思わなかった」

「俺まだ探索者じゃないですからね?スタミナが追いつきませんよ」

「そ、そうだな、すまん」


教官も流石にマズイと思ったのかすげー焦った顔をしている。

少し腕を動かしてみた感じ、折れてはなさそうだ。

軽い打身程度かな?


「大丈夫そうか?」

「そうですね、折れてはなさそうです」

「そうか、良かった...。いや、すまんかった」

「もう勘弁してください」

「あぁ、お前の摸擬戦はこれで終わりだ」


よ、よかったー。

これでまだ戦うとか言い出したらどうしたもんかと思った。



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