第18話 両親への説明

病院を出た後電車に乗り家まで帰ってきた。

時刻は丁度夕食時だ、ご飯を食べながら俺がスキルを手に入れたことを両親に話そうと思っている。


正直道場もあるしなんて言われるか分からないけど、例え止められたとしても探索者になるために絶対説得してみせると心に誓う。


「ただいまー」

「あら、お帰り慧。もうすぐご飯できるから食卓で待ってて」

「分かったよ母さん」


扉を開けてリビングに入ると、まずは母さんがそう言ってきた。

俺の母さんは今年で38歳になるのだが、正直20歳と言われても通じるぐらい若い。


たまに千鶴と母さんが話してる時があるんだけど、同年代が話しているようにしか見えなかったりする。


それに比べて父さんは年相応に老けているので、両親で買い物に出かけると父さんが変な目で見られることがあるそうだ。


前にそのことで父さんに相談されたことがあるんだけど、俺にはどうする事も出来ないので諦めるように言った記憶がある。


「お、慧。帰ってきたか、青春してきたか?」

「青春は分からないけど、まぁ楽しかったよ」

「そうか、青春してきたか」


父さんはこの言葉にハマってるのかな?

昨日も言っていたし多分そうなんだろう。


母さんの料理が完成したので配膳を手伝い、椅子に座る。


「「「頂きます」」」


食事を食べながらどう話しを切り出すか考える。

う~ん、とりあえず今日会ったことを順に説明していけばいいかな?


「そう言えば慧は今日千鶴ちゃんとどこに出かけてたの?」


そんなことを考えていると、母さんがそう聞いてきた。

丁度いい、この質問に答えながら今日会ったことを順に説明していこう。


「今日は千鶴とダンジョンに行ったんだ」

「「ダンジョン?」」


俺がそう言うと、父さんと母さんの声が被った。

まぁそうだよな、スキルを持ってない俺がダンジョンに行くのはおかしいよな。


「実は千鶴からスキルが手に入るかもしれないって話しを聞いたんだ、それを試すためにダンジョンへ行ったんだよ」

「じゃあ、あれか?スキル取れたのか?」

「うん、取れたよ」

「そうか...」


それを聞くと父さんは少し悩むような顔をしていた。

まぁそういう反応になるよな...。


「慧」

「なに、母さん」

「それで貴方はどうしたいの?」


そうだ、スキルの話をしていたけど肝心な事を言っていなかった。


「父さんと母さんには申し訳ないけど、やっぱり俺は、探索者になりたい」


母さんはいつもニコニコと笑顔の絶えない人であるが、今だけは凄く真剣な顔をして話しを聞いている。

あまり見たことない表情のため、少し緊張してしまう。


そのまましばらく見つめ合っていたんだけど、母さんがふと笑みを浮かべた。


「良かったわね慧、私は応援するわよ。貴方の好きなことをしなさい」

「母さん...」


母さんには俺が小さい時から探索者になりたいと言っていた。


だから探索者になれなかったときは凄くショックを受けた顔をしていたし、落ち込む俺を必死に慰めてくれた。


そんな母さんが凄く嬉しそうな顔でそう言ってきたので、少し泣きそうになってしまった。


「慧」

「父さん...」


すると次は父さんが話し出した。

正直母さんは応援してくれると思っていたけど、父さんはどうか全く分からない。


俺が探索者になりたいと言っても、道場を手伝ってほしいな~と昔からずっと言っていた。


だからもしかしたら父さん的には探索者になることに反対なのかもしれない。


「俺はな、お前に道場を継いで欲しかった」

「...。」

「だが、ふとした時にお前の表情が暗かったことも見ていた。道場を手伝ってくれて本当に、そう本当に助かってるけど、お前は探索者になりたいんだな?」

「うん」

「例え門下生が止めても探索者になるんだな?」

「なるよ」

「彩香ちゃんが泣きついて来ても師範代を辞められるか?」

「うっ、いや、うん、大丈夫だと、思う...」


彩香が泣きついてくる所なんて想像できないけど、もし泣きつかれた事を考えると少し心苦しくなる。


「そうか、なら探索者になれ!そして世界一の探索者になって来い!」

「父さん」


いつもはカッコ悪いのに、今日だけカッコいいじゃん父さん...。


「それで世界一になったら、舞鎖流を宣伝して門下生をがっぽり獲得してくれ!」

「父さん...」


一瞬前までは凄くカッコいいと思っていたのに、なんで最後は締まらないのかな...。


「慧、無理はしちゃダメよ?」

「うん、最初は初心者用ダンジョンを回るつもりだから、そんな危ないことはしないよ」

「そう、分かったわ」

「慧」

「なに?」

「明日からもう道場には来なくていいぞ、探索者になるには色々準備しなきゃいけないんだろう?お前はそっちに集中しておけ」

「ありがとう父さん」


最初は両親に話すことを少し不安に思ってたけど、それは杞憂だったようだ。

一番反対しそうだった父さんも、賛成してくれたしこれで俺は気兼ねなく探索者になることに集中できる。


ただ落ち着いたら門下生たちと少し話しをした方がいいかなとは思っている。

特に話すことの多かった彩香には事情を説明しておきたい。


じゃないと何だかとんでもないことになりそうな予感がする。

こういう時の勘はよく当たるので、落ち着いたら絶対に道場へ顔を出そう。


こうして俺は探索者になるために本格的に動き出すことになった。

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