第17話 帰宅

「け、慧君...」


俺がそう宣言すると、真由が驚いたような表情を浮かべていた。

まぁそれも当然だろう、医者でもない俺が真由を治すなんて言ったところで信じられないよな。


心なしか真由の顔が赤い気がする。

もしかしたら少し怒らせてしまったかもしれない。


でも俺は本気だ、ダンジョンでモンスターを倒しまくって、真由に呪いを掛けている奴を見つけ出して絶対に真由の呪いを解いてやる。


そうと決まれば少しでも行動は早いほうが良い。

家に帰って親に説明したり、講習会の申し込みをしたりしなければならないので少し早いが病室を後にすることにした。


「じゃあ真由、今日は早いけどもう帰るよ」

「う、うん...今日はありがとうね?」

「あぁ、また来る」


さぁ、真由を救うためにいっちょ頑張りますか。



SIDE:千鶴


真由が珍しく願いを口にしたので、退院したら三人でダンジョンへ行こうと約束をしていたら急に慧が真剣な顔をしながら黙り込んでしまった。


「慧?」

「慧君?」


私たちが呼びかけても考え事に集中しているようで、全く反応しない。

いきなりどうしたのだろうか?思わず私と真由は顔を見合わせる。


「どうしたんだろうね?」

「さぁ、分からんな...」


まぁ慧の真剣な表情を盗み見ることが出来るので悪くはない。

もしかしたら何かスキルが話しかけてきたのか?


慧はスキルと話すことが出来ると言っていた。

ダンジョンの中でも、不意に黙る事があったのでおそらく今も何かスキルから言われて話しているのだろう。


「そういえば、今日は何処のダンジョンに行ったの?」

「今日行ったのは豊田にあるゴブリンダンジョンだな」

「あ~、あのゴブリンしか出ない初心者用ダンジョン?」

「そうだ、慧はスキルを持っていなかったから、スキル未所持者でも入れる初心者用ダンジョンに行ったんだ、あそこが一番近いしな」


スキル未所持者はスキルを取るためにダンジョンへ入る必要がある。

しかし高難易度ダンジョンにスキル未所持者が入っても無残に死んでしまうだけなので、基本的には初心者用ダンジョンに指定されている場所へ入る事が推奨されている。


「そうなんだね、どうだった?」

「流石慧と行った所だな、臆することなくゴブリンと戦っていたぞ」

「見たかったなぁ」

「今度動画を撮って来ようか?」

「あ、うん。お願いできる?」

「任せておけ、最高にカッコよく撮ってくる」

「ありがとう千鶴ちゃん」


そんなことを話しながらしばらく慧を眺めていると、伏せていた顔を上げて真由の方を見つめる。

その瞳には強い決意が宿っているように感じられる。


「なぁ真由、少しだけ待っててくれ」

「な、なにを?」

「俺が必ず、真由を治して見せるから」

「っ!?」


やはり何かスキルから言われたんだろう、そうじゃなければ慧がこんなことを言うはずがない。

真由の病気がどれだけ難しいものか、昔から真由と共にいる私たちは知っていた。


だが慧のスキルであればもしかしたら本当に真由の病気を治すことが出来るかもしれない。


そして突然そんな宣言をされた真由は顔を赤くして驚いていた。

まぁ気持ちは分かる、私もこんな真剣な顔をした慧にこんなことを言われたらときめいてしまう自信がある。


そんなことを考えていたら、いつの間にか慧は病室を後にしていた。

真由は未だにボーっとした表情で虚空を見つめている。

時折にへらっとした笑顔を浮かべている、あれは真由が何か妄想をしているときの顔だ。


多分真由の脳内では教会でベルがなっているのだろう。

ここは邪魔しないように大人しくしておこう。


少しすると真由が妄想の世界から帰ってきた。


「千鶴ちゃん...」

「どうした?」

「慧君、カッコよかったね...」

「あぁ、そうだな」


慧は基本的にいつもカッコいいが、今日は一段とカッコいい時が多かった。

カフェで探索者になることを宣言した時、ゴブリンと戦っている時、そして真由に宣言した時。


全て間近で見ていた私は心臓に悪かった。

こう、凄くドキドキした...。


「ねぇ千鶴ちゃん」

「なんだ?」

「慧君と何か進展とかあったりした?」

「いや、残念ながら何もない」

「そっか~...」


今日あった事を思い出していると真由がそう聞いてきた。

ただ残念ながら私はしばらくダンジョンに潜っていたので、これといった進展はない。


それを聞いた真由は少し残念そうな顔をしていた。


実は私たちはある約束を交わしている。

お互い、幸せになるための約束だ。


その約束をしてからもう長いこと経つが、未だに進展はない。

でもどうしてだろうか?そう遠くない未来で何かが変わりそうな気がする。


「お互い頑張ろうね千鶴ちゃん」

「そうだな、頑張ろう」


そう言いながら私たちは夜遅くまで語りあかした。

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