第7話 予兆

「おぉ、ここが第1層か。あまり0階層と変わらないんだな」

「そうだな、基本的に0階層と同じようなフィールドが広がってる」


階段を降りてキョロキョロと辺りを見回すが、ザ洞窟と言った雰囲気だった。

ここからモンスターが現れるのか、気を引き締めて行かないとな。


「慧、先に小太刀を渡しておく」

「サンキュー」

「二本いるか?」

「いや、一本でいいや」


千鶴から小太刀を受け取り、左手で持つ。

千鶴のように二刀流も使うことは出来るのだが、一刀流の方が使い慣れてるので例え小太刀であっても一本の方がしっくりくる。


一度鞘から小太刀を抜き、少し素振りを行う。

やっぱリーチが短いし軽いから少し違和感があるが、まぁ問題ないだろう。


「うん、大丈夫かな」

「わかった、ではゴブリンを探そうか」

「了解!」


いよいよモンスターと戦うことになるのか、やっぱり探索者を夢見てたから凄くワクワクするな〜。

動画とか写真では見たことあるけど、実際にモンスターをこの目で見たことはない。


俺と千鶴がダンジョンを歩いていると、早速前方にモンスターの姿が見えた。


俺の腰ほどの背丈で緑色の肌、腰巻に棍棒を持っている姿はまさしくゴブリンだ。


「おぉ!ゴブリンだ!」

「運がいいな、中々早めに見つかったぞ」


ダンジョンの中は結構広く全ての通路にモンスターがいるわけでもないので、見つからないときは本当にモンスターが見つからないといった話しは聞いたことがある。


確かにそう考えるとこんなに早くゴブリンに出会えたのは運がいいかもしれない。


「何か戦う時の注意点とかあるか?」

「無い」

「無いの!?」


初めてモンスターと戦うので千鶴に注意点を聞いてみたがどうやら無いらしい。

本当か?大丈夫かな、俺スキル持ってないけど.....。


「慧であればゴブリン程度問題なく倒せる、安心しろ」

「わ、分かった」


まぁ昨日も摸擬戦をした千鶴が問題ないというのだから倒せるのかな?

とりあえずゴブリンの方に近づいてみる。


「ギャ?」

「お、こっちに気が付いた」


足音が聞こえたのか、背を向けていたゴブリンがこちらに振り向いた。

うん、写真で見た通り中々凶悪な顔をしている。


「ギャギャ!!」


俺を認識したゴブリンは棍棒を振り上げながら走ってきた。

走ってきたんだが.....なんか遅いな。

もっと俊敏なのかと思ったけど、こう、トテトテといった感じで走ってきている。


うん、これなら大分余裕があるな。

俺は前傾姿勢になりながら小太刀の柄に手を置き抜刀の構えをする。


そしてゴブリンが小太刀の範囲に入った。

もちろん刀身が短いのでゴブリンも棍棒を振り上げて俺に攻撃しようとしてきているのだが、それより俺が刀を振るう方が早い。


俺は鞘から小太刀を引き抜き一閃する。


「ふっ!」

「グギャ!?」


刀身はまるで吸い込まれるようにゴブリンの首元を走り、切り飛ばした。

首を切られたゴブリンはその後黒い霧となって消滅する。

後に残っていたのは極小サイズの魔石のみだった。


「ふぅ、ちょっと緊張した」

「見事な太刀筋だな、やはり得意じゃないというのは嘘だろう?」

「いやいや、全然だよ。刀ならもっと綺麗に斬れるし」

「(やはり化け物だなこいつは.....)」


俺は小太刀を納刀したあと、ゴブリンが残していった魔石を拾う。

初めて本物の魔石を持ったが結構綺麗なもんだ。


この魔石はどうやるのかは知らないけど電力を生み出すことが出来るらしい。

ダンジョンが現れる前は火力発電やら水力発電やら原子力発電が主流だったが、ダンジョンが現れて以降は魔石発電が主流となっている。


どれだけ小さくても一定の電力を生み出すことが出来るので、その需要は尽きない。

この極小サイズの魔石であっても、駄菓子屋で10個くらいお菓子を買うことが出来るだろう。


なんか駄菓子の事考えてたら久々に食べたくなってきた、帰りに駄菓子屋へ寄って帰ろう。


「それで慧、スキルは獲得できたか?」

「あぁ、ゴブリンを倒したことで頭がいっぱいになってたわ、ちょっと待ってな」


確かスキルを獲得すると何かアナウンスみたいなのが流れて使い方が分かるんだよな?

…….。全然何も聞こえないけどもしかしてスキル取れなかった?


《ザザ・・・ザザ・・・》


「うん?」

「どうした慧?」


なんかまた雑音みたいなのが聞こえてきた。

なんだろうこれ、音もどんどん大きくなってるし。


《ザザ・・・アクセス開始》


「うぐ!?」

「慧!?」


突然凄まじい頭痛が襲ってきた。

ちょっと立ってられないくらい痛くて体がふらついてしまう。


《接続シーケンス実行中・・・対象との同調率30%、40%、50%・・・》


とんでもなく頭が痛いが、何か声がずっと聞こえてきている。

あまりの痛さに倒れそうになったが、どうやら千鶴が支えてくれているらしい。


「慧、大丈夫か!?慧!!」


《70%・・・管理者権限の申請・・・棄却を確認・・・再度申請・・・一部承認を確認》


なんだ?何が起こってるんだ?意味の分からない言葉がずっと頭の中で響いている。

スキル獲得するのってこんな頭痛がするものなのか?


でも千鶴の時はそんなことなかったよな.....。


《90%・・・対象を鑑定・・・戦闘能力B・思考能力S・・・モデルを対象に合わせて再構築・・・成功》


ヤバい.....あまりの痛さで意識が遠のいてきた。


「慧!しっかりしろ!!」


千鶴の声がさっきより遠く聞こえる、ヤバい....このままだと....。


《100%・・・接続シーケンス完了・・・システムチェック・・・成功・・・システムオールグリーン・・・支援型AI「learuler」起動します》


その時、ふっと今まで襲ってきた頭痛が消え去った。

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