第6話 ダンジョンへ

千鶴から話しを聞いた俺は急いでスペシャルデラックスパフェアラモードを食べてカフェを出た。

ただ店を出る時に、おそらくファンクラブ会員であろう女性から物凄い視線を向けられた。


正直初めての経験だった、視線だけで死ぬんじゃないかと思ったのは。


「それで、どのダンジョンに行くんだ?」

「あぁ、ここから一駅いった所にゴブリンの洞窟と呼ばれてる初心者用のダンジョンがあるからそこに行くぞ」

「了解」


ゴブリンの洞窟は聞いたことがある、ダンジョン内で出現するモンスターが全てゴブリンで固定されているダンジョンだ。


もちろん種類にバリエーションは存在するが、ゴブリン以外のモンスターは出現しない。

それにゴブリンは非常に弱いモンスターに分類されるので、初心者御用達のダンジョンになっているのだろう。


「あ、武器はどうするんだ?」

「私の小太刀を貸してやろう、十分だろう?」

「う、う~ん...。あんまり得意じゃないんだけど...」

「お前の得意じゃないは普通と違うから大丈夫だ」


そういいながら千鶴はさっさと歩いて行ってしまった。

最近小太刀は握ってなかったけど、まぁ少し素振りすれば大丈夫かな?


本当は刀を使いたかったけど、ダンジョンで武器を借りるには探索車証が必要になるし仕方ないか。


その後電車に乗り、豊田駅で降りる。

ゴブリンダンジョンは本当に駅の近くにあるため少し歩いただけで到着した。


「ここか~、久しぶりに来たなダンジョン」


遠目から見ることはあったが特に近づく予定もなかったので、ここまで近くで見るのは本当に久しぶりだ。


ダンジョンに入るには出現したゲートを通る必要があるんだけど、街中にあるドデカイゲートの存在感は半端ない。


「少し待て。よし、行くぞ」


千鶴は担いでいた刀袋から小太刀を取り出し、両腰に装備した。

そのまま二人でダンジョンへ歩いて行くと、門番の役割をしている職員と目が合った。


このようにダンジョンへ不意に入らないようにダンジョン開発省、通称MDDの職員が見張っている。


まず俺と目が合った職員だが、直ぐに隣にいる千鶴の方に視線が向いた。

そして徐々にその目が見開かれていき、驚きを露にしている。


まぁそうだよな、こんな初心者用のダンジョンに天心百花に所属してる千鶴が来たら驚くよな。


「ち、千鶴お姉さま...」


違ったわ、この人ファンクラブの人だ。

大物が来たから驚いたんじゃなくて憧れの人が来たから驚いた感じだ。


ついさっきまでは驚いた顔をしてたのに、俺たちが職員の目の前に来る頃には恋する乙女の様な表情をしていた。


「千鶴お姉さま、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「あぁ、この男とダンジョンに潜ろうと思ってな」

「あの、失礼かと思いますがどのようなご関係でしょうか?」


そうだよな、憧れの千鶴が男同伴でダンジョンに潜るとか言ったら気になるよな。

大丈夫、ただの友達だよ。だからそんな人を殺せそうな眼力で睨まないで欲しい。


「ふむ、どのような関係か....そうだな、私のフィアンセだ」

「フィ、フィアンセ!?」

「ちょ!?千鶴!?」


何言ってるんだ千鶴!?この人はお前のファンなんだぞ!その人に向かってそんなこと言ったら...。


「千鶴お姉さまのフィアンセ...?羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい」


ほら、壊れちゃったじゃないか。

目のハイライトも消えて俺の方を壊れたレコードのように羨ましいって呟いてるよ、めっちゃ怖いよ。


「違いますからね?俺と千鶴はただの友達ですから!」

「千鶴お姉さまを呼び捨て...?羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい」

「(ただの友達...か)」


あ、ダメだ。この人割とキまってるタイプのファンだわ。

これは俺が何を言ってもダメなやつだ、早急に千鶴から誤解を解いてもらう必要がある。


千鶴の方を向いて説得してもらおうと声をかけようとしたんだけど、なんで千鶴はそんな悲しそうな顔をしてるんだ?

え、俺今なんか傷つけるようなこと言ったか?


「ち、千鶴?出来れば誤解を解いて欲しいんだけど...」

「ん?あぁそうだな。すまない、冗談だ。本当は友達だ(今は...な)」

「そ、そうですよね!千鶴お姉さまは皆のお姉さまですもんね!フィアンセなんて居ませんよね!」


千鶴の言葉を聞いた職員は正気を取り戻した。

よかった、このままだと俺は呪い殺されてたかもしれない。


千鶴が有名になるのは良いことだし嬉しいと思ってたけど、まさかこんな落とし穴があるとは思わなかった。

ちょっとこれからは発言に気を付けて欲しい、いつか殺されてしまうぞ、俺が。


「探索者証だ」

「はい、確認しました。千鶴お姉さまなら大丈夫だとは思いますけどお気をつけて」

「ありがとう」


千鶴からお礼を言われた職員は幸せの絶頂といったような顔をしてる。

本当に好きなんだな千鶴の事が。


探索車証の確認も終わったので、千鶴の後に続いてゲートを潜る。

少し何かに阻まれる様な不思議な感触を感じながらゲートの先へ進むと、見事な洞窟が広がっていた。


「おぉ、本当にダンジョンの中だ」

「久しぶりに0階層に来たわけだが、やっぱりスキルは取れてないか?」

「そうだね、特に変わったところはないかな?」


ダンジョンは0階層から始まり、この階層にはモンスターが出現しない。

少し先に地下へと続く階段があるので、それを降りるとやっとモンスターが現れるようになりダンジョンの本番となる。


《ザザ・・・》


「ん?」

「どうした?」

「いや、何でもない」


今一瞬何か雑音の様な音が聞こえた気がするんだけど、気のせいか?

久しぶりにダンジョンへ来たから気分が高まってたのかな。


「そうか、では下に降りるぞ」

「分かった」


モンスターを倒してスキルを手に入れるために、俺は千鶴の後に続いて階段を下っていく。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る