第4話 カフェで待ち合わせ


「立てるか慧?」

「はぁ、はぁ、ちょっと待って、まだ息が...」


千鶴と久しぶりに摸擬戦したけど、やっぱりスタミナが化け物だな。

俺はもう肩で息してるのに千鶴は平然としている。

これがスキル差か~と思いながら息を整える。


「ふぅ、大分落ち着いてきた」

「それにしても流石慧だな、やっぱりスタミナ切れになるまで押しきれなかったぞ」

「まぁこれでも師範代だからね。門下生にカッコ悪いところは見せられないよ」

「いや、それだけで私の攻撃を防げるとは思えないのだが...」


人間死に物狂いになればなんでも出来るものだ。

今の摸擬戦もひとたび気を抜けば一瞬で倒されていたので、普段使わない頭をフル回転させながらなんとか食らいつくしかなかった。


ちょっと千鶴のスキルは反則だと思う。

身体能力が上がるにしても限度があるだろう、俺も結構動体視力が良い方だと思ってたけど全然千鶴の刀が見えなかったし。


俺が千鶴とある程度打ち合えたのは昔から千鶴の刀を見ていたからだ。

もし初見で千鶴のような実力者と戦うことになったら一瞬で倒されていただろう。


「ほら、慧」

「さんきゅー」


千鶴が手を差し出してきたのでそれを掴んで立ち上がる。

う~ん、男前だ。昔は可愛かったのにいつの間にこんなにカッコいい女性になってしまったのか。


今の千鶴が悪いわけではないが、昔を知ってる分少し勿体ないと感じてしまう。

まぁこの男前な性格が受けるのか、千鶴は世の女性からお姉さまと呼ばれ慕われている。


ちょっと前にそのことを茶化したことがあるのだが、物凄い殺気の籠った目で見られたので直ぐに土下座した記憶がある。


「俺はちょっと休憩するから、皆は型稽古しててくれ」

「「はい!」」


ちょっと休んで回復はしたが、まだ疲れが残っているので道場の端により休憩する。

門下生たちも今の摸擬戦を見てやる気が出たのかいつもより真剣に稽古に取り組んでいる。

それを眺めながら飲み物を飲む。


「慧、明日なんだが昼くらいにカフェで待ち合わせしないか?」

「了解、いつものカフェか?」

「あぁそうだ、あそこなら待ち合わせに丁度いいだろう」


俺と千鶴がよく通っているカフェが近所にある。

パフェが結構美味しいカフェで高校の時はよく二人で通っていた。


なんか思い出してたらすげー食べたくなってきたな、絶対明日はパフェを頼もう。


「私はやることがあるからこの辺で帰るとしよう」

「分かった、じゃあまた明日な」

「あぁ、また明日」


そう言いながら千鶴は道場を後にした。

さて、俺も良い感じに休憩できたから俺も仕事に戻るかな。



「よし、今日はこの辺にしておこうか」

「「ありがとうございました!」」

「あぁ、お疲れ様」


しばらく稽古を続けていると終わりの時間がやってきたので稽古を終了する。

皆今日は一段と張り切って稽古をしていたのでいつもより少し疲れている様子だ。


そんな門下生を微笑ましく思いながら俺も片付けを行って家に帰る。

まぁ家に帰ると言っても道場と繋がってるから少し歩くだけだが。


しかし千鶴が話したいことって何だろうな?俺にも良いことだと言ってたけど全く予想が付かない。

あれか?ダンジョン関係の仕事を紹介してくれるとかかな。

それだったら悪くないな~。スキルは手に入らなかったけど、やっぱりダンジョンは好きだからダンジョン関係の仕事だったら喜んで引き受けるかも。

父さんと母さんがどういうか分からないけど。


そんな事をつらつら考えながら歩いているといつの間にか自分の部屋に到着していた。

部屋の中に入り着替えを持って風呂場に向かう。


やっぱり稽古が終わった後はまずお風呂だ。

稽古でかいた汗をお風呂で流すのは格段の気持ちよさがある。


さっと汗を流した後、リビングへ向かうと父さんがお酒を飲んでいた。


「この時間からお酒飲むと母さんに怒られるんじゃない?」

「慧、母さんは今買い物に行ってる、後は分かるな?」

「ふ~ん、黙ってても良いけど結局空き缶でバレるんじゃない?」

「ふっ、この空き缶は隠しておいてゴミ出しの時に紛れ込ませておくのさ」

「そんな上手く行くか?」

「俺は上手く行く気しかしないぞ」


なんか自分がさも頭の良いことを言っている風な感じを装いながら父さんがそんなことを言ってるが、このお酒を買ってきたのも母さんなので絶対バレると俺は思っている。


まぁ怒られるのは父さんだし関係ないか。

一度痛い目を見ればいい。


「そういえば今日千鶴ちゃんが来たらしいな」

「あぁ、そうなんだよ。明日ちょっと出かけてくる」

「そうか、青春してこいよ」

「うん?」


よくわからないことを言ってる、これは間違えなく酔ってるな。

父さんはあんまりお酒に強くないのによく飲むから、変なテンションで話しかけてくることがある。


こういう時はスルーするのが良いと長年の経験から分かっているので適当にあしらっておく。

その後母さんが帰ってきて夕飯の時間になったので家族三人で夕飯を食べてその日は就寝した。


ちなみに父さんが飲んだお酒の事は当然のようにバレて、しばらくお酒禁止令が出されていた。

あの時の父さんの顔はかなり面白かった。写真に撮っておけばよかったな~。



次の日起床した後、千鶴との約束まで適当にスマホをいじりながら時間を潰す。

ダンジョンニュースサイトは千鶴の攻略したダンジョン一色になっており、どのサイトを覗いても特集が組まれている。


流石最大手のクランだ、注目度が違う。

もし俺が探索者になっていたらどうなっていただろうか?


千鶴のように最前線を走る探索者になっているのか、美味しい食事を求めてダンジョン素材を回収する探索者になっているのか、たまにそんなことを考える。


まぁスキルが無いから探索者にはなれないのだが、妄想するくらいは許してほしい。

そんなくだらない妄想をしながらスマホを弄っていると時間になったので家を出てカフェへ向かう。


目的地であるカフェは近所にあり、俺の家からだと大体15分くらいで到着する。

ドアを開けて中へ入ると、既に千鶴が席についていた。


姿勢よく椅子に座りながらコーヒーを飲んでいるその様子は非常に絵になり、店内の女性の視線を集めていた。

何となく周囲を見回すと、千鶴の方を見ながら恍惚とした顔を浮かべている人もいる。


うん、あれは間違いなくファンクラブの人だ、面構えが違う。

大丈夫かな?俺これから千鶴の席に行くんだけど消されたりしないかな?


ちょっと千鶴の席へ行くのに尻込みしていると、ふと千鶴がふり返った。


「来たか、慧」

「あ、あぁ。お待たせ」

「私も丁度来たところだ」


千鶴が話しかけてくると、今まで千鶴のことを見ていた女性たちの視線が俺に集中する。

や、ヤバい、針の筵だ。

誰だあいつみたいな表情で見ないで欲しい。

え、本当にこの中で千鶴の席に行くのか?マジで?


「どうした慧?来ないのか?」

「い、今行くよ」


沢山の視線にさらされながら千鶴と同じ席に座る。

今日無事に帰れると良いな、とりあえず帰りは背後に気を付けよう

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