第3話 摸擬戦
獲物を選び終わったようで、千鶴が小太刀の木刀を二本携えて戻ってきた。
千鶴は二刀流を得意としているのでそうだろうな~とは思ってた。
「制限はどうする?」
「私とお前だ、なくても良いだろう」
舞鎖流同士で摸擬戦をするときはある制限をすることがある。
特殊な武器を使うので、武器の習熟度が低いと怪我をしてしまうことがあるからだ。
ただ俺は一応師範代だし、千鶴も既に免許皆伝の実力がある。
俺としては制限付きでも良かったのだが千鶴は制限なしでやりたいようだ。
「分かった、じゃあ始めるか」
「あぁ!」
そう言いながら俺と千鶴は木刀の縁に巻かれていた紐を解く。
すると木刀の頭部分が外れてジャラっと鎖が伸びた。
そう、これこそが舞鎖流で使う武器「
見た目は普通の刀に見えるのだが、留め具を外すと鎖が飛び出してくる。
その武器を使って刀と鎖で攻めるのが舞鎖流になっている。
「彩香、審判頼めるか?」
「あ、はい。分かりました」
お互い少し間を開けて向かい合う。
いや~、久しぶりに千鶴と摸擬戦するけどこいつ隙なさすぎだろ。
一本芯が入ったように綺麗に立つ千鶴を見てると本当に厳しい戦いになることが予想できる。
「(流石慧だ、一見隙だらけのように見えるが不用意に近づくのは危ないと感が告げてる.....ふふふ、面白い!)」
あちゃ~、何が琴線に触れたのか分からないけど千鶴がすげー楽しそうな笑顔を浮かべている。
この顔になるとマジで遠慮なしになるからな~、俺がスキル無しってこと忘れてないか?忘れてないよな?頼むぞマジで。
「それでは、始め!」
彩香から号令と共に二人して飛び出す。
千鶴は小太刀だしリーチの差を活かして戦おうかな~とか考えていると早速鎖が飛んでくる。
俺がそれを木刀で弾くともう一方の鎖が飛んできた。
そうなんだよ、二刀流はこれがいやらしい所なんだよな。
通常の小太刀との戦闘であればただリーチ差を活かして戦えば良いのだが舞鎖流に置いてそのリーチ差はほぼ無いに等しい。
千鶴は二本の小太刀を巧みに使いながら鎖で攻撃し続けている。
うわ!ちょっと掠った!本気過ぎじゃないですか千鶴さん!
俺はなんとかその猛攻を防いでいると、いつの間にか小太刀の距離感になっていた。
「いくぞ慧!」
「お手柔らかに!!」
この距離まで来てしまったら腹をくくるしかない。
先程の鎖による攻撃に加えて小太刀による攻撃も交じり、より苛烈な攻めになる。
ほんとに、キツイ!!キツイって!
左右から鎖が来たと思ったら正面から小太刀の攻撃が迫ってくる。
ひとまず鎖はしゃがんで避けてから小太刀を対処する。
しゃがんだことで一瞬力を貯める隙が出来たので渾身の力で刀を振るったのだが千鶴はいとも簡単にそれを防いでしまう。
「やっぱり防いじゃう?」
「悪いな慧、その程度の力で私の態勢は崩せないぞ?」
前まではこの辺で勝負が決まってたんだけどな~。
千鶴が俺の攻撃を余裕で受け止められたのには理由がある。
それは千鶴が授かったスキル「覇者」によるものだ。
前に千鶴から聞いた話だと、このスキルはモンスターを倒すごとに恒常的に身体能力が上がっていくものらしい。
上昇幅は微々たるものだが、倒せば倒しただけ上がっていくのでダンジョン攻略最前線を走っている千鶴の身体能力はとんでもないことになっていた。
既に俺が渾身の力を以て振るった刀すら容易に受け止めているので、力押しすることは出来ないだろう。
まぁそれでも、まだやりようはある。
門下生たちも見てるし師範代としてカッコ悪いところは見せられないし、いっちょ頑張りますか。
・
・
・
二人が摸擬戦を始めてから十分が経過した。
その間二人は互角の戦いを繰り広げている。
そう、
「す、すげぇ...」
「これが師範代と千鶴さんの摸擬戦....」
その様子を門下生たちは唖然としながら見ている。
門下生の中には初めて師範代である慧が摸擬戦をしている所を見る者もおり、その強さに圧倒されていた。
「なんで師範代はあの攻撃を防げるんだ?」
「さぁ?この道場の七不思議の一つだぞあれ」
既に千鶴の攻撃は門下生たちの目には追えない速度で振るわれている。
対して慧の攻撃は目に見える速度でしか振っていないのに、何故か千鶴の攻撃を全て捌き切っていた。
「(左右からの挟撃、突き、打ち払い、切り上げからの鎖で攻撃...次の可能性はなんだ?)」
慧は確かに舞鎖流の武術を高いレベルで習得している。
ただそれだけではスキル持ちである千鶴に勝てる道理はない。
今この瞬間互角の戦いを繰り広げている理由として、慧の思考能力にあった。
慧は戦いながら次に来るであろう攻撃を予想する。
一つ二つと予想するだけであれば誰でも出来る。
ただ慧はあらゆる可能性を考慮して千鶴が取るであろう無数の選択肢を考え続けていた。
「(鎖の巻き付けからの足払い、いや蹴りか?ならそこに刀を置いておけば、よし!凌げた!)」
「(これも通じんか、今まで出してなかった手を使ったつもりだったんだが。流石慧だな)」
二人が摸擬戦を始めてから十五分が経過した。
未だ互角の戦いを繰り広げている二人であるが、ただ一点のみ互角ではない部分が存在した。
千鶴のスキルはあらゆる身体能力が恒常的に上がっていく、力や速度と言った部分は慧の思考能力をもってすれば凌げるものであったのだが、致命的に差が開いている部分があった。
「(マズイ、息が続かない....。頭も回らなくなってきたしこりゃ負けたかな)」
そう、スタミナという一点のみに置いて千鶴の方が圧倒的に上回っている。
普段ダンジョンに潜りモンスターと戦い続け、さらにスキルの恩恵でスタミナが伸び続けている千鶴に対して、慧は一般的より多いと言っても常識的なスタミナしか保持していない。
慧の動きが鈍くなり、その隙を付くように慧の防御を突破し首元に木刀を突き付ける。
「そこまで!」
「はぁ、はぁ、あ~負けた~」
「(結局スタミナ切れまで粘られてしまったな)」
こうして千鶴の勝利という形で摸擬戦を終えた。
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