第2話:認識

 あの時の手術以来、僕は、僕として存在している時と、AIとして存在している時がある。正確には、毎日夜の零時から一時間だけ、僕の意識は薄っすらとしている。


 毎日決まった時間というのは奇妙な話だが、どうやらその時間は、AIの意識が表に出ている時間らしい。

 もう一人の自分が棲んでいる感覚は、奇妙で違和感しか無いけど、まだどことなく現実感が無い。


 僕の意思とは関係なく勝手に学習するし、勝手に頭の中に情報が蓄積されていく妙な感覚もあった。

 そして、AIが知覚したものをどことなく客観視する一方で、自分の視点から理解したりもできる、といった感じである。肉体的な制御についても、基本的にこの一時間だけは僕の管轄外となっていた。


 ――僕は、もう一人の自分のことを、「彼女」と呼ぶことにした。


 彼女には、今のところ僕の声は届かない。


 直接呼びかけて試したわけじゃないけど、彼女のことをあれこれ思考しているのに、特に反応を示してはこないし、零時からの一時間は僕の意識がぼんやりしていることから、彼女もまた同様と考えると、交信はなかなか難しいんじゃないかと思ったからだ。


 彼女が見ているものをぼんやりと僕も見ることが出来るけれど、彼女が得た情報は知覚できても、彼女が感じていることは、まして感じているかどうかさえも、僕にはわからない。

 少なくとも、僕の目から見た彼女は、喜怒哀楽の感情を表現していなかった。


『……聞こえますか?』

「……」


 ある日の夜、突然、誰かの声が聞こえたような気がした。

 でもすぐに、気のせいだと思った。

 部屋には他に誰もいなかったし、深夜の寝静まっている時間で、部屋の電気を消して布団に入ったところだったからだ。

 そしてすぐに、奥深くへと意識が遠のいていった……。

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