── Troisième jour ──

 目覚めてから四日経ち、現代の事も大方理解できてきた。


 現在、人類の総数は三十億を切っているそうだが、夜に外を出歩いてみたところ、そんなに人が減っているようには見えなかった。

 むしろ、休眠する直前と比べると明らかに活気が戻っているようにも思える。

 夜ですら街に光は途絶えず、彼らは自由を謳歌しているのだから。

 ……それもそのはず、彼らの殆どは人間ではなく機械人類アンドロイドだ。奴等が偽りの繁栄を演じている。

 普通の人間のみならず、若くして死した歌手も、病に倒れたコメディアンも再現し放題だ。

 もしも、あの頃──二半世紀半前の人間がこれを見れば、『まるで楽園のようだ』と称えるのだろうか?

 ……馬鹿馬鹿しい。


 かつて私が人間を嘲りつつも彼らの営みを慈しんだのは、吸血鬼わたしから見れば刹那にも満たない生を懸命に生きる、その姿に感じ入ったからだ。

 それは、永き生を生きる吸血鬼われらには叶わぬ生き方である。

 未来がより良いものになると信じ、そうなるよう祈りながら手渡されてきた、時を超える旅路。

 確かにあの頃は停滞していたが、今も人間が生きているという事は、かの苦難をも乗り越えられたのだろう。


 だが、その結果がこれだ。


 おそらく、これからも人口は機械人類アンドロイドに置き換えられていくのだろう。

 そしていつか、最後の人間が死した時。



 この星は、人間の真似事をする機械の星になる。

 氷河期よりもうすら寒い、孤独の星だ。



 きっと私はその中を生きるのだろう。

 血も吸えぬ食糧人間の形をした偽物機械人間の中に混ざった、ただ一人の異物吸血鬼として。


 そう、私以外の吸血鬼はとっくの昔に滅びていた。

 確かに、退屈から来る自死で徐々に数を減らし続けていたが、まさか誰一人として残っていないとはな。

 道理で、目覚めた日からずっと連絡用に飛ばしていた大気圏全域脳波会話アース・テレパシーの返事がない訳だ。


「虚しいな……」


 こんな時代に生きて何になる? 分からない。この分だと、私の血族に仕えていた者共の血筋も途絶えているだろう。

 このまま、私は──……


「こんにちは、ユーリさん。本日の分の特選牛乳をお届けにきました」


「………………」


 ……ああ、いたな。今の私と交流のある、風変わりな機械の少女が。

 悲観視を振り払い、私はいつものように自信に満ちた笑顔で少女を迎えた。


「今日もご苦労! さて、本日は私の屋敷にインターネット回線を通す手伝いをしてもらおうじゃないか!」


「回線……? ──歴史授業ライブラリ検索、該当箇所を発見しました。過去は回線という物を通す必要があったのですね。ですが、現在は対応デバイスがあれば即座にインターネットに繋がりますよ。ちなみに私も対応しています」


「なんだと!?」


 それはちょっと予想外だった。なんだ、未来も案外悪くないじゃないか。

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