第2話
女の家
なかなかの豪邸
チャイムが鳴る。
さっきのカフェの二人組がモニター越しに映る。
二人
「ごめんくださいませ。」
女
「入る気は無いのよ?」
先輩
「お話だけでも……。」
新人
「お願いします!」
女、仕方なく中に入れる。
入った瞬間、手際良く女を縛り上げる二人。
女、あまりの早業に付いて行けず声が出ない。
先輩
「驚かれますよね。」
新人
「申し訳ございません。」
女
「あ、貴方達、さっき喫茶店に、い、居たわよね……?」
新人
「それが私達のやり方でして。」
女
「お金なら、ビタ一文やらないわよ!警察呼ぶからっ!」
女、威勢良く縄を解こうとするが全然解けない。
動けば動く程、縄がめり込んで痛い。
先輩
「あまり動かない方が良いかと。レンジャー仕込みなもので。」
新人
「ちょっと無理があるかもしれませんが、落ち着いてください。」
女
「私をどうする気?」
先輩
「私(わたくし)達に出資して欲しいのです。」
女
「する訳ないでしょ?」
新人
「私達は奥様の財産全てを頂戴する訳ではございません。」
先輩
「奥様の出せる範囲で、少額で結構でございます。」
女
「……。」
新人
「頂戴しましたら速やかに解放致します。」
先輩
「ただし、私達の事を口外されてしまうと殺す事になります。」
先輩、あの時の優しい笑顔。
ゾッとする女。
新人
「十年間、誰にも口外しない事をお約束頂ければ、もうお会いする事はありません。」
先輩
「奥様の事は全て把握しておりますので、何卒宜しくお願い致します。」
女
「そ、それって、脅し!?わ、私は屈しないわよ。」
新人、鞄から手帳を取り出す。
指でページをなぞりながら読む。
新人
「アキラ君、百万、ラブホ。ジュン君、三百万、ラブホ。シゲオ、五百万、ラブ活。」
新人、他にも読み上げようとする。
手帳を奪いたいが、手を後ろで縛られているので口で何とか取ろうとする女。
上手く行かず、顔から倒れる。
先輩、そんな女を優しく起こす。
先輩
「奥様が誰に貢ごうと関係ありません。ですが、私は奥様のお身体が心配なのです。」
新人
「昨日なんて凄いですね!シゲオさんの他にゴンゾウさん、サブロウさん……
全部で十人もお相手を……。これはお稼ぎになりましたね。」
手帳を片手に驚く新人。
先輩、咳払い。
新人、ハッとし黙る。
女
「……こんなおばさんでも。爺さんからしてみれば、若いねーちゃんなのよ。」
新人
「なるほど。だけど若い子からしてみれば、ただの貢ぎさんですよ。」
先輩、鞄で思い切り叩いて新人を黙らせる。
俯いたまま正座で大人しくなる新人。
女、思わず笑ってしまう。
女
「これもあんた達のやり方なの?」
先輩
「ご想像にお任せします。」
先輩、ぎこちない笑顔。
女、ますます笑けてくる。
先輩
「まぁ、あれです。
見返りがない虚像より、今ここに存在している私達に出資しませんか?
と言う提案です。」
女
「この事は言わないから断るって言ったら?」
新人
「それは困ります!」
女
「どうして?」
新人
「……先輩が抜けられなくなるからです。」
先輩、焦って新人を封じようとするが新人は構わず続ける。
新人
「この指示役は先輩の恋人なんです。
ノルマ越えなかったら先輩が暴力を受けるんです。」
女
「あんた達、止めた方が良いよ。こんな事。」
新人
「止めて欲しいんです、私も。だから約束しました。
指示役、私には優しいから……。」
女
「何て?」
新人
「一年通してノルマを達成し続けたら、先輩を解放するって。」
女
「貴方に何の得も無いじゃない。」
新人
「先輩は……私の事を見捨てなかった唯一の人だから……。
次のターゲットになっても良いんです、私。」
俯いて消え入りそうな声で話しだす先輩。
先輩
「……貴方が解放されればそれで良い。貴方が解放された方が嬉しい。」
女、ケラケラ笑う。
女
「良く出来た与太話ね!傑作よ。」
女を睨み付ける新人。
女
「あれ?お客様は神様です設定、どこ行っちゃったの?」
先輩、腕まくりをして女に根性焼きの跡を見せる。
女
「こんなのメイクでどうにでもなるわ。」
先輩
「触ってみますか?」
先輩、新人に縄を解くよう合図する。
渋々縄を解く新人。
女、先輩の腕を触る。
手で擦っても滲まないどころかリアルな凹凸が分かる。
女、俯く。
先輩
「申し訳ございませんでした。」
先輩、新人の頭も無理矢理に下げさせる。
新人
「………すんませんでした。」
先輩
「失礼致します。」
二人、帰ろうと立ち上がる。
女、二人の足を掴んで止める。
女
「私もね、同じ跡があるの!」
二人
「えっ?」
女
「……私が断ったらどうなるの?」
先輩
「……。」
新人
「ペナルティーが発生します。……先輩、殺されるかもしれません。」
女、眉間の皺が少し寄る。
新人
「貴方のお家、客観的に見てくださいよ。
どう考えてもこの地域で一位二位を争うレベルの豪邸。」
女
「……。」
新人
「しかも、貴方には旦那の稼ぎ以外の大きな収入もある。旦那にバレたくないお金。
現金で隠し持ってる。」
先輩
「もう良いよ、ありがとう。」
新人
「指示役は、隠し場所も確認済みです。」
女
「……。」
新人
「それなのに手ブラなんて!殺されに行く様なものじゃないですか!」
女
「……。」
先輩
「そんなの奥様には関係ないでしょ?」
新人
「……。」
女
「分かった。幾ら出せば良い?」
先輩
「貰えません!」
女
「……金持ちの嫁って大変なのよ。しかも、ボンボンと結婚しちゃった女は。」
二人
「……。」
女
「誰にも愚痴れないまま、ずっと家政婦。ずっとタダ働き。ずっと大きい赤ちゃんのおもり。」
女、寂しく笑う。
女
「確かに虚像だけどね。綺麗な執事を金で雇ってるのよ、ただの万年家政婦が。
面白いでしょ?」
先輩
「……だけど」
女
「爺さんだとしても女として見られてるんだと思えばね、どうにかなるものよ。」
新人
「……。」
女
「大きい赤ちゃんと違って、皆、丁寧に優しく扱ってくれるしね。」
新人
「……申し訳ございませんでした。」
女
「海外出張から帰って来たら魔法は解ける。だから、貴方達にあげるわ。
出資してあげる。」
二人
「……。」
女、二階に上がる。
女を目で追う二人。
女、バックを持って戻ってくる。
開けると百万円の束が十セット、合計で一千万円が入っている。
全て新札な事もあってか、重ねても十センチ程。
女、鞄の中を眺める。
女
「一千万って、実際こんなものなのよ。」
新人
「普通に入ってても違和感ない……。」
女
「一生懸命に体張ってもこの程度。」
先輩
「……。」
女
「あんた達の鞄に半分ずつ入れなさい。それなら自然だから。」
二人、深々とお礼をして去る。
女、清々しい表情で見送る。
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