第7話

「東雲とうや君か。いい名だ。みんなこわごわ銃を撃っていた。当然だろう。銃の扱いも初めてだろうし、ゾンビを見るのも初めてだし。だからゾンビの頭に当てられた人は、ほぼいなかった。君をのぞいてね。俺が見たところ、君だけがゾンビの頭に何発か命中させていたようだった。もちろん銃なんて、撃ったことはないんだろう」

「ええ。初めてですが」

「まれにだがそう言う人がいるな。カンがいい。肝が太い。生存能力が高いと言うかなんというか。とにかく突然のことに、なんとか対処できる人間だ。頼りになるな。これからもよろしくな」

「頼りになる?」

「女の子が言ったろう。ホラーゲームを始めるって。最初がゾンビと戦うゲームだ。もう終わったが。でもこれですべて終わったと思うかい」

「えっと」

「多分終わらないだろう。また何かある。あの女の子がまだゲームを続けるはずだ」

「ひっ!」

「えええっ」

「そんな」

「まだあるのか」

みな口々に驚きを伝えているが、板垣の言う通りだ。

これでホラーゲームとやらが全て終わって、無事に帰れるとはとても思えない。

それを聞いて、絶望の声がいくつか聞こえてきた。

板垣が言った。

「もしゲームが続くのなら、続くとは思うが、冷静になること。怖がらないこと。みんなで協力し合うこと。そういったことが大事だな。死にたくないのなら」

そのとおりだ。

さっきの例なら、怖がって慌てふためいたら、ゾンビじゃなくて生きた人間を撃つことになる。

それであの女子高生は死んだ。

誰が撃ったのかは今もわからない。

女子高生を撃ちましたと名乗り出る者もいない。

わかっていて黙っているのか、自分が撃ったことに気づいていないのか。

それすらとうやにはわからない。

と言っても、今更「お前が撃ったんだろう」と追及しても、得るものは何もない。

あとはこの板垣が言ったこと。

とうやは生存能力が高いと言うこと。

身体能力は高いと言う自覚はあるが、生存能力が高いと言う自覚はまるでなかった。

もちろんこれまでの十七年の人生において、命がけの事態と言うものを経験したことはないのだが。

男が言ったので、何人かがとうやのことを見ていた。

なんとも言えない顔で。

男はそう言ったが、おそらくみなには実感はないのだろう。

とうや自身ですらないのだから。

ないのは当たり前だ。

気づけばとうやは、まだ拳銃を握っていた。

みなが板垣に拳銃を与えたために、今拳銃を手にしているのはとうやと板垣の二人だけとなっていた。

とうやはなんとなく持っていた拳銃を、床に置いた。

それを見て板垣が言った。

「さあて、次はどうくるかな」

すると声がした。

やはり頭の中に直接幼女の声が。

「張り切ってゾンビを二十体以上も用意したのに、死んだのは四十五人のうちたったの五人だけぇ。四十人も残っているわけね。少なーい。少なすぎる。ムカつく。ほんとムカつく。そこの刑事とかいうおっさんのせいね。あんたがいなければもっと大勢死んだはずのに。まあいいわ。次のゲームはもう少し死ぬようにするわね。楽しみにしててね。せいぜい頑張ってね。少しでも長く生きれるようにね」

そう言った後、幼女は頭の中から出て行った。

声は五、六歳にしか聞こえないが、言っていることと話口調は、それよりも上の年齢の少女がしゃべっているかのように、とうやは感じた。

それとあの幼女は、数字に少しこだわりがあるように思えた。

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