第6話

男は両手に拳銃を持ち、残り弾薬を確認している。

そして倒れた四人に向かって構えた。

静寂。誰もなにも言わない。

だれも動かない。

そのまま時だけが流れる。

男がゾンビにかまれて倒れた四人に銃を構えている。

その意味をとうやは理解した。

他の者もそうなのだろう。

静かに見守っているだけだ。

どれほどの時が流れたか。

突然倒れていた一人が起き上がった。

最初にかまれた中年の男性だ。

見るからにゾンビとなった男は両手を前に突き出せて、一番近くにいた男に向かっていった。

銃声が響き、中年男は倒れた。

残り三人。

さっきまで人間だったものの頭を打ちぬいているのだが、それに対して異議を唱える者はない。

少しの間ののち、若い女性がゾンビの姿で立ち上がった。

男が頭を打ちぬく。

するとあとの二人も同時に立ち上がった。

ゾンビとなって。

男が二人の頭を打ちぬく。

二人は倒れた。

流れる血は人間と変わりがなかった。

「終わったな」

男が言った。

それだけだ。


いつの間にか男のまわりに人が集まっていた。

二十数体のゾンビ。

それらほとんどの頭を打ちぬいたのは、この男なのだ。

囲まれ、質問攻めになっていた。

とうやも近寄り、話を聞いた。

「ぜひお名前を」

「板垣健也だ」

「銃の腕前、すごかったですね」

「刑事なんでね。おまけに〇暴の担当だ。銃の訓練は怠らなかった」

〇暴の刑事。

いつも反社会的勢力を相手にしているのだ、この男は。

銃の腕前はもちろん、肝もすわっているのだろう。

ゾンビが迫ってきていても、極めて冷静に対処していた。

みんな拳銃の扱いには慣れていないし、ゾンビを見てパニックになっていた。

残念なことに五人死んでしまったが、この板垣健也という刑事がいなければ、いったいいくらの人間が犠牲になっていたことか。

この男がここにいてくれて本当によかった。

とうやはそう思った。

そんなことを考えていると、板垣がとうやを見た。そして言った。

「君は、名前は」

少し離れているとうやにいきなり話しかけてくるとは思っていなかったので、少し意外だったが、とうやは答えた。

「東雲とうやです」

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