第17話 韓浩 (曹操)

「袁紹が、裏で糸を引いているのでしょう」

荀彧がそう答えた。

「袁紹は、私を東郡太守任命を天子に上奏しておきながら、私が王匡おうきょに送った使者を殺させたというのか?」

曹操からの問いかけに、荀彧の隣にいた郭嘉かくかが頷きながらこう言った。

「袁紹としては、潰し合いをさせて自分だけが無傷でいようとしていたのでしょう。これで王匡おうきょを討つ理由が出来ましたぞ。話し合いのための使者を斬り捨てるとは道理が通りません。そんな袁紹からの無茶な要求を突っぱねられない王匡おうきょに弱さを見ました。胡毋班の親族にも連絡を取り兵を派兵しましょう。将来的には袁術、袁紹も討たねばなりません。まずは手始めに王匡おうきょを討ち、彼からの兵士たちを取り込み勢力を拡大するのです。これは、千載一遇のチャンスです」


「よし、胡毋班の親族に直ぐに連絡しろ。王匡おうきょに私の方が袁紹よりも、恐ろしいことを思い知らせてやる」

そう言って曹操が、椅子に座り直した。

「かしこまりました」

曹仁、曹洪、夏侯惇、夏侯淵が声を揃えて返答した。郭嘉かくかが、ニヤつきながら夏侯惇を見てこう言った。

「また王匡おうきょの元には、韓浩という文武に優れた武将がいます。元譲(夏侯惇の字)殿は、既に懇意にされています。王匡おうきょ一族を打ち滅ぼした後、側近として迎えられたらどうでしょう?正に韓浩のような文武に優れた武将は、曹操様のお好きなタイプではないでしょうか?」


「ははは。奉孝(郭嘉かくかの字)よ。私の好みをもう知っているのか?」

郭嘉かくかが頷きながら言った。

「勿論でございます。仲康(許緒の字)殿のような勇敢で、熱い知将を好まれます。そして、東郡太守(曹操の位)と同じように元譲(夏侯惇の字)殿も同じ趣向をされています。それは、東郡太守(曹操の位)を敬愛しているから似てくるのでしょう」

「ははは。そうなのか?元譲(夏侯惇の字)?」

「はい。申し訳ごさいません。東郡太守(曹操の位)よりも先を越してしまいました」

「構わんよ。有能な人材がいると聞けば、会って話を聞きに行くのはいい事だ。これだと思う人間にはなかなか出会えない得難い物だ。限られた人材の中でヘッドハンティングするしかないだろう。それが例えそれが敵であれ、味方であれ」

曹操が、そう言ってニヤリと笑った。


「韓浩は、正にそういった人材なのです。確かになかなかの人物です」

「そうか。そのような人物なら我が軍に是非欲しいものだ。元譲(夏侯惇の字)、おまえに対応を任せる」

曹操が再び立ち上がると叫んだ。

「大勢が整い次第、王匡おうきょを討つ!」

「おう!」

全員が鬨の声を上げた。

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