第16話 王匡討伐

「ああっ、うるさい!民など、シラミのような存在だ。放っておけばいい!あんな者たちに食べさせたら、せっかく蓄えた食糧など『あっ』という間に食べ尽くすだろう」

「し、し、しかし‥‥」

荀攸じゅんゆうがなおも食い下がろうとした。それを右手で弾くようにして叫んだ。

「文優(李儒の字)!この2名を牢屋に入れろ!」

百官の宦官たちの顔の色が変わった。

「お待ちください。この2名は頭脳明晰な人物たちです。この者たちに、こんな処罰すれば、民が太師(董卓の位)に付いて来なくなります」

蔡邕さいようが、慌ててとりなす。

「うるさい、黙れ!文優(李儒の字)、ぐずぐずするな」

李儒は、仕方なく指示に従った。

「今、関東の諸侯らは袁紹派と袁術派に分かれて互いに争うようになっている。ここの百官の中で、袁紹と袁術に通じている者がいるやもしれん。また朱儁しゅしゅんのような奴は絶対に許さん」

百官の前で、董卓が吠えた。長安遷都に反対していた朱儁しゅしゅんは中牟において献帝の奪還を狙って挙兵したのだ。王允は、顔がニヤケそうになった。実直で、義を重んじる朱儁しゅしゅんが挙兵したとなると、董卓の取り巻きの中でも、かなりの動揺が走るであろう。


儀式が終わった後、王允が董卓に呼ばれた。すっかりご満悦で満面の笑みで王允を迎えた。新たに太師になった董卓が言った。

「貂蝉を我が邸宅、郿城びじょうに連れて来い」

「かしこまりました。太師(董卓の位)殿」

そう答えた後、呂布がこれを聞いたらあせるだろうなと思った。郿城びじょうは、外壁が21メートルもあり、そんな所でXデーを実行しても、失敗に終わるだろう。確実に董卓を仕留められるXデーの実行を急がねばならない。

董卓は、袁紹の背後の幽州の劉虞や公孫瓚に官位や爵位を贈って袁紹への牽制とする一方で、娘婿の牛輔に李傕、郭汜、張済らを部下につけて朱儁しゅしゅんがいる関東に派遣した。


           ※

(曹操)

曹操の幕舎で今後についての閣議を開いていた。曹仁から報告がもたらされた。河内にいる王匡おうきょと諍い続きでそれを収める話し合いをするために送った使者の件だった。曹仁が、曹操の耳打ちする。

「何だと?!」

思わず曹操が、叫ぶように椅子から立ち上がった。

「送った和睦の使者を王匡おうきょに皆殺しにされただと!」

曹操が、顔を真っ赤にして近くにあった木を彫られて出来ていた鷹の像を叩き落とした。像の羽が折れた。

「王匡の娘婿にあたる執金吾の胡毋班はどうなった?」

「残念ながら、殺されました」

曹仁が、鎮痛な面持ちで少し怯えながら答えた。

「ば、ば、馬鹿な。娘婿だぞ?」

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