第9話 別れの辞

「袁紹の行動には、何らかの野心を感じる」

「袁紹が、劉虞を同意を得ないまま擁立しようとした事は、余りにも勝手な行動だったと思います。劉虞自身、献帝に取って代わろうとはしていないと袁紹からの申し出を拒否しました。彼は誠に誠実な人物だと思います」

公孫瓚は、それを聞いて首を左右に振った。

「劉虞の異民族に対し恩徳を以た懐柔策は余りにも手緩い。そんな事では、益々漢室を軽視するに違いない。劉虞の政策は一時の功名は立てることは出来ても禍根を残すだけで長期的戦略としても良いものではない。大体、異民族というのは文化も風習も我々とは違うのだ。彼らは、根本的に制御し難いものなのだという事に気付くべきだし、服従しないことをもって討伐すべきだ。」

「だからといって、劉虞が鮮卑族に対して与えた恩賞を常に略奪するのはどういった事か?ただの強盗団のやる事ではないか?伯圭(公孫瓚の字)殿のやっている事は複雑怪奇だ」

そう劉備は毅然と言った。

「それに伯圭(公孫瓚の字)殿は、劉虞から会見を申込まれても、いつも仮病を使って無視している。劉虞殿の名声が高まるのを恐れ、何度も邪魔をしている。このままでは、いずれ劉虞殿と一戦を交えるのではないか?と、私は危惧しております」

公孫瓚は、つい無言になった。

「それに漢王室の血を引く劉虞殿とは、一戦を交える気はありません」

「出て行かれるのか?」

「大変世話になったのに申し訳ない」

椅子に座りながら頭を下げた。

「玄徳(劉備の字)殿は、母親と筵を編んでいたんだろう?」

「ええ。父が早くに亡くなり、母は大変苦労しました。貧しい生活の中にも私を厳しく育ててくれました。そして深い愛情を持って。しかし私は、未だに兵も揃わず、名を上げる事も出来ず、奸賊董卓を漢王室から追放する事も出来てません」

「それは同情すべき境遇だな。私は、自分の出自もあって、元から恵まれている役人の家の子弟や立派な人物を取り立ててやろうとは思わない。彼らを豊かにしてやったり、役職を与えたとしても、私のおかげだとは考えないだろう。そのような家系で生まれたら、その家の格として官職につくのは当然だし、名門の家系なら血筋のおかげだと思うだけだろう。そういう血筋の人間たちを寧ろ羨やみ、憎みもしている」

「だから、伯圭(公孫瓚の字)殿は、私を受け入れてくれたのですか?」

「あなたは、漢の末裔といえども私の出自は似ている」

そう言って、公孫瓚はニシャリと笑った。

「だから、玄徳(劉備の字)殿、何処に行こうとも必ず活躍して欲しい」

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