第11話 軍師 陳宮(呂布)

           ※

(王允)

王允邸を呂布が訪問して来た。使用人が訪問の訳を聞く前にドカドカと部屋に入って来た。そして、王允に会うなり肩を怒らせ言った。

「結局、董卓の所に貂蝉を送るのですか?」

「もう無理だ。董卓から貂蝉を逃す事なんて出来ない。わかるだろう?奉先(呂布の字)よ。董卓を排除する覚悟がいる。おまえは、私の義理の息子になりたくないのか?」

「勿論、なりたいです」

「奉先(呂布の字)よ、貂蝉を得るにはおまえの父(義父)董卓の存在を無視する訳にはいかない。それは生きるか食われるかになる」

「はい、覚悟を決めております」


「昨日も袁紹からのスパイだと疑った宦官を1人捕縛し、手首を切り捨て生き血を私たちに飲ませたのだ。奴は獣だ」

それを思い出し、王允が少しえずいた。

「獣なんかに貂蝉を渡す訳にはいきません。彼女は天女です。相国(董卓の位)に何かに汚されてたまるものか!」

語尾には憎しみが含まれていた。王允は、この間の李儒にハニートラップを仕掛けた娘が、「天女」と呼ぶ呂布は本当はかなりお母恋おぼこいのではないか。

「正に今、天罰を董卓に与えるべきです」

そう言って、部屋の衝立の後ろから薄い髭を生やした男が出て来た。

「これはこれは、呂布殿でよろしかったですか?」

そう言って男は、恭しく拱手をして頭を下げた。

「紹介しよう。陳宮だ。知略に富み優れた軍師だ。仕える人物、場所を与えれば、必ず我が息子(義理)よ。蠱惑で不死身の身体を持ち、後は先を読める軍師、頭脳がいる。今こそ奉先(呂布の字)には、彼の能力が必要だ」

陳宮は曹操と別れた後、様々な場所で仕官の口を探したが、どれも上手く行かず知古の縁を頼って王允の所にやって来たのだ。


「公台(陳宮の字)殿、是非将来、息子(義理)となる奉先(呂布の字)の軍師となって貰えないか?」

王允の言葉に、少し気の進まない呂布の顔をチラッと見た。 それを察した陳宮がこう言った。

「呂布殿は、余り気乗りがしない様子ですが」

呂布が顔を上げ、慌てて左右に首を振った。

「余りに唐突な事だったので、自分の頭が追いつかないのです」

「なるほど。そうでしたか」

陳宮がそう言うと、王允に向き直った。

「王允殿、そろそろ反董卓実行計画をお教えいただきましょうか。それとも私は、いつまで部外者扱いされるのですか?話を聞かせて貰えないのなら、ここを立ち去るしかない」

王允が思ず苦笑いをして答えた。

「高台(陳宮の字)殿には、敵いませんなあ。さすがは頭脳と呼ばれるだけある」

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