第7話 江東に着く

「わ、わ、わかった」

王允らが、李儒の体を自由にした。

李儒が、少し考えると言った。

「わざわざ負ける無駄な戦はしない。子師(王允の字)殿。私にどうか命令をください」

頭を王允に下げた。

「わかった。一緒に上奏文を渡す日をXデーとしよう。それまでは、慎重に事を運ばなくてはならない。良いな?」

李儒は、何度も頷いた。すっかり李儒の男性器は小さくなっていた。


           ※

(孫策)

孫策たちは、長江から船に乗り江東に何とか辿り着いた。留守を預かっていた孫策と同い年の周瑜が、出迎えてくれた。孫策と周瑜とは小さい頃からの幼馴染で、常に孫策の事を将来の王として崇め支えてきた。

船から降りると、お互いについ笑顔になった。拱手をして無事の帰還と孫堅の死に対してお悔やみを述べた。

「伯符(孫策の字)様の父上の仇討ちをするために、劉表を討ちにただちに兵を上げましょう。こんな騙し討ちをするなんて天が許さないでしょう」

周瑜が、孫策の事を思って進言した。孫策が、首を左右に振った。

「そうしたいのは山々だが、今は兵力も足りない。兵を育てるには相当な時間もいる。また2年間は潜伏し兵力を増せというのは父からの遺言でもある。今は父の葬儀の段取りをどう行うのかということしか考えられない」

「そうですか」

そう言って、周瑜は非常に残念そうな顔をした。

「我々を攻撃するように指示したのは袁紹だ。我が父孫堅から伝国璽を奪えとプレッシャーを掛けられた劉表は、止むに止まれず戦をしかけてきたのだろう」

そう訊ねると孫策は、話しながら歩こうと体の前に右手を差し出した。周瑜も頷き歩き出した。

「しかし、最近の袁紹は行動が目に余る。かつての十八路諸侯の1人だった冀州牧の韓馥(かんふく)は、土地を収める度量もなく、袁紹に脅されると戦わずしてあっさり自分の領土を差し出してしまった」

「袁紹にしては、冀州は肥沃な土地で喉から手が出るほど欲しかった土地だ。戦わずに得たなんてまるでプレゼントみたいな物じゃないか」

孫策が、そう言って両手を後ろに組み頷いた。

「そうですね。我が君、聞きましたか?」

同い年の周瑜が、馴れ合いにならないようにわざわざ「我が君」という言葉を使っていた。

「何を?」

「兄弟関係だった袁紹と袁術が離反し合いゴタついています」

「理由はなんだ?」

「袁紹が、冀州を手に入れた土地は、袁術が元々狙っていた物だった。さすがに十八路諸侯の1人だったので袁術も遠慮していたのです。それなのに袁紹は、盟主だったという立場にも関わらず冀州をタダ同然で手に入れてしまった」




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