第5話 ハニートラップ

女官たちも頭を下げ出ていった。

「えっ?」と李儒は思った。

変な緊張感が、李儒と貂蝉の間に残った。

「いつまでも万楽宮に出かける事が出来ずに申し訳ありません」 

美しい声をしていた。

「うっ、ううん。ぐ、具合が悪いのですか?」

喉に痰が引っかかって第一声がなかなか出なかった。

「どう思いますか?」

どういう事だ?李儒は、戸惑った。

「こちらに近付いて、もっとよく確認したらどうですか?」

そう訊ねて来た。李儒は、少し「ドッキリ」とした。董卓が夢中になり、その陰に隠れて呂布が足繁く通っていたのだ。身体の中に衝動が走った。ジリジリと一歩ずつ近付く。天蓋の幕に隠れ、貂蝉の姿がよくわからない。

「このままでは、天蓋で見えないでしょう?」

「ぐうっ」

思わず李儒の喉が鳴った。

「どうするの?このまま確認せずに相国に報告するの?」

「ひ、ひ、必要なら確認するさ」

そう言って降ろされた天蓋を開けた。余りの美しさに心臓が止まりそうになった。その貂蝉が、片肘を突いた格好で李儒の方を向いていた。そして淡いピンクの寝巻きに胸辺りが解け、チラッと白い胸とピンクの乳首が見えていた。

『さ、さ、誘っているのだろうか?』

頭の中が混乱していた。

生唾を飲み込み訊ねた。

「い、いつくらいになれば、万楽宮に来れるのだ?」

「さあ、どうかしら。相国(董卓の位)は、私を諦めてはくれそうもないのね」

そう言うと、上目使いで李儒を見た。

「ぐ、具合は、もういいのか?」

そう答えると、『何だ?このヌラヌラとした感じは?』

兎に角、2人だけでいると息苦しさを感じる。

「興味が無いの?」

そう答えると、見えていた乳房をゆっくり肌けた寝巻きの胸元を隠した。

このまま布団に忍び込んで行けばいいのか?混乱していた。引き込まれるように貂蝉に近付く。貂蝉が『どうしたの?』と言った表情で李儒を見つめる。貂蝉が、唇を尖らせキスを求めて来た。吸い付くように唇を合わせる。

溶けた。完全に内部から崩壊した。李儒が、吸い付いた貂蝉の唇を離さまいと布団の中に溺れて行った。


その様子を王允の友人の黄琬と王蓋が、聞き耳を立てながら様子を伺っていた。暫くして喘ぎ声が聞こえて来た。黄琬は、王蓋に急いで王允に「この事を伝えよ」と言った。喘ぎ声が、貂蝉から李儒に代わった。

「何が起こったのだ?」

黄琬が思わず呟いた。王允が急いでやって来た。王蓋が後を追いかけて来た。

「上手く行ったか!」

外で待つ黄琬に会うなり満面の笑みで、王允がそう言った。

「さすがに貂蝉に誘われて、断わる事の出来る男はいないだろう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る