第4話 突然の訪問

「どうしたのだ?」

そう何事かというので顔で家の者に訊ねると、王允の息子の王蓋は李儒を見かけて慌てて拱手し挨拶した。

「お久しぶりです。どうかされましたか?李儒殿」

「子師(王允の字)殿は、おられるか?」

「ええ。いますとも」

「では、貂蝉はどうだ?」

李儒がそう言ってニシャリと笑った。

「どういう意味ですか?」

「相国(董卓の位)が、万楽宮に来れるのかと訊ねている」

「まだ具合が悪い様子です」

王蓋が、そう言って眉間を曇らせ答えた。

「もう待てないぞ。どんな様子か、今すぐ貂蝉に面会させよ」

「えっ?今すぐですか?」

王蓋が、そう言って動揺したような表情を見せた。李儒が素早く「何か様子が変だ」と察知した。

「何だ、面談するのに都合でも悪いのか?」

「い、いえ、そうではなくて」

王蓋は、李儒を邸宅内に案内すると、一室に通された。


「少しこちらでお待ちいただけますでしょうか?」

王蓋は、そう言って頭を下げ部屋を出て行った。

李儒は、何かおかしな雰囲気を感じ取っていた。緊張感が走ったというか、不穏な空気感が存在した。10分ほどしてトイレをしに部屋から廊下に出ると、使用人が慌ててこちらに近付き「どちらへ行かれるのですか?」と訊ねて来た。

『まるで監視されているようだな』と感じた。

「いつまで待たせるのか?トイレに行きたくなったのだ」

「大変申し訳ありません。今暫くお待ちください。トイレはこちらです」

そう言って使用人が中庭を挟んで向かいにあるトイレを案内した。立ち小便をしていると、離れから馬に跨がって走り去る武将の姿が目に入った。

「奉先(呂布の字)?!」

李儒は、見てなかった物としてトイレを済ませて部屋に戻ると、王允がやって来た。

「大変お待たせしました。文優(李儒の字)殿」

「子師(王允の字)殿、何処に行っていたのだ?」

「所用が御座いまして、失礼をいたしました。では貂蝉の所に案内します」

王允から貂蝉のいる所に案内された。やはり、案内された場所は離れだった。扉を開け中に案内されると、香の匂いが立ち込めた。寝屋には、天蓋が幕を降ろし貂蝉の姿がよく見えない。その手前には、女官が待っていた。

「先程まで、誰かいたのか?」

「まさか、誰もいませんよ」

「そうか。赤兎馬に似た馬が停まっていたような気がするだが」

李儒は、敢えて呂布という名を直接出して訊ねなかった。余りにもお互いにとって差し障りのある名前だったからだ。

「私がいたら、色々な話もしずらいでしょう。これにて失礼致します」

そう言って、王允が離れの部屋から出て行った。

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