第3話 卑猥なヒキガエル

李儒は、思わずゾッとした。

「もう呂布の事はいい。そもそも貂蝉が、ここに来ない事には話にならないだろう?貂蝉自身が、どう考えているかもわからないのに、呂布に結婚しろとか、どうだとかそんな事言えるか?」

全くそんなつもりもないくせに、董卓は平気で息をするように嘘をつく。

「そうなんですが、私の真意をわかってくださいますか?呂布を、とにかく敵に回してはいけないと言っているんです」

必死に董卓の説得を試みる。

「呂布に投資してやったからどうだ?物をやったからどうだではないのです。やり続けないと。呂布の気持ちが離れないようにしないとダメなのです。奴は金で平気で父親である丁原を殺したのです。そんな事が再び起こらないと言えますか?」

李儒の言葉を聞きながら、董卓はまるで檻に入れられた尻尾のない虎のように左右に頭を振りながら歩いた。

「呂布には、今まで沢山の物を与えて来たぞ」

「わかっています。し、しかし、それはこれからも続くので‥‥」

「ええい!やかましいわい!」

遂に董卓が怒り出した。

「とにかく貂蝉をここに連れて来い。分優(李儒の字)、それから呂布に譲るかどうするかを決めようじゃないか」

董卓は、同じ宦官の仲間なら王允も急かされて、貂蝉に万楽宮に行けと命令するかもしれないと考えたのだ。養父である王允を、突っつかないとダメだと思った。

「少し寝る」

そう李儒に言って、踵を返した。

「寝て起きて、ワシの持ち物がピンコ立ちしていたら、また続きをやるからな。覚悟しろよ。ヒヒヒ」

卑猥なヒキガエルのような笑い方だった。卑猥なヒキガエルがどういう物かわからないが、恐らくこんな感じなんだろう。想像がつく。足元を飛び跳ねるくらいの大きさなら踏み潰す事も出来るが、董卓くらいの大きなになれば、そうも出来まい。


李儒は、呂布の件で素晴らしい助言をしただけなのに、逆に貂蝉を万楽宮に呼ばなければならないという馬鹿げた責務を受けてしまった。イライラして来た。誰のために助言したというのだ?今の董卓に話を聞いてもらおうとするなら、貂蝉を連れてくるしかないのだろう。李儒は、急いで王允の邸宅に向かった。

「失礼するよ!」

李儒は、一声かけると同時に庭に入って来た。

「王允殿!」

「これはこれは、李儒様。お待ちください。今、取り次ぎますから」

使用人の男が中から出て来て、李儒を制止した。

「子師(王允の字)殿に、可急の用なのだ。そこを開けてくれ」

「なりません」

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