第2話 貂蝉を呼べ!

「随分よくなられたと聞いています。しかし、貂蝉の事は、呂布が前から気に入っております。呂布は、馬中に赤兎馬あり、人中に呂布ありとまでうたわれておるくらい勇猛です。また相国(董卓の位)のおかげで蠱惑により不死身の身体を与えました。そのため彼は、かつての父丁原を裏切り殺害しました。利害関係で動く男なのです。貂蝉をお譲りにならないと利害関係で動かないとも限りません。ここは、奉先(呂布の字)殿に貸しを作るのです。彼に貂蝉をお譲りするというのはいかがでしょう?」

董卓は、イラついた顔をして言った。

「ワシは、何故アイツに貂蝉までくれてやらなければならないのか?またワシがよくとも、王允がそれでは納得しまい。王允は、ワシとうまくやりたがっておるのだ」

「しかし、呂布と仲違いするような事があって、離反するような事にでもなれば、戦力ダウンは否めません!」

「わかってる。わかってる。だが、貂蝉はいかんぞ。無理だ。あんないい女を呂布に渡せるか?ワシは一生後悔するぞ」

「なかなか万楽宮に出仕しようとしません」

「だがな、無理強いしてやる女は堪らんのだ。そんな女今の長安にいるか?」

そう言って、「ニヤリ」と笑った。何という猥褻な笑いだ?と感じた。

李儒は王允が、連環の刑を仕組んでいるのではないかと感じていた。連環の刑の中の美人の刑と言われるものだ。王允は連環の計の最初の計略として、貂蝉を使っているのではないかと感じていた。


そんなやり方は過去から幾度ともあった。隣国の斉の景公は、臣下が進言により魯の哀公に女性の歌舞団を送った。魯の哀公は、歌舞団に夢中になり政治を怠り、孔子は魯を出奔する事になった。

晋の献公は、虞を征伐する時に2人の美女と財宝を贈ってから、敵を油断させて滅ぼしている。越王勾践の配下である范蠡も、敵国の呉王夫差を腑抜けにさせるために「情人眼里出西施」(恋人の目には相手が西施に見える。あばたもえくぼ)という諺にも使われる西施を送り込んだ。西施が川辺で洗濯をしていたところ、あまりの美しさに引き寄せられてしまった魚が泳ぐことすら忘れ、川底へ沈んでしまったと伝えられる。

「では貂蝉をここに連れて来い。彼女に訊こうじゃないか?彼女が、どちらがいいと言うのだ?わからんだろう?未だに本音を聞けないままだ」

「貂蝉が、奉先(呂布の字)がいいというなら、またそこで考えてくださるのですね」

李儒は、恐れながらそう訊ねた。董卓がギロッと目を向けた。

「ああ。勿論」

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