【50000PV御礼】火曜日の魔術師 紅い月(ディジェム視点)

※遅くなりましたが、50000PVの御礼の話です。

 たくさん読んで下さって、本当にありがとうございます!

蛇足のような、補足のような……そんな話です。


 時間軸としては一年生の最後の試験終了後から二年生になる前の、とある休みの日です。

 ちょっとしんみりする内容かもしれません……。














 フィエスタ魔法学園の寮にある俺の部屋に、親友が遊びに来てくれた。

 ふと、疑問に思った俺は向かいのソファに座り、優雅に紅茶を飲んでいる親友――ヴァーミリオン……ヴァルにあることを聞いてみる。


「なぁ、前世のヴァルは何をしていたんだ?」


「何って……ずっとベッドでの生活だったよ」


 ティーカップをソーサーに置いて、ヴァルは苦笑する。


「でも、そのベッドの上で何かしらしてたんじゃないか? ヴァルのことだから」


 ヴァルは手先が器用だから、ベッドの上で何か作っていそうなイメージがあり、つい聞いてしまう。


「まぁ、そうなんだけどね。呪いって知ったのは今世だけど、前世では原因不明の病気って思ってたから、身体がキツくない時は確かに何かしらしてたよ」


「例えば、何してた?」


「例えば? そうだね……アクセサリー作りとか、学校もほとんど行けてなかったから行けない分、色んな本を読んだり、姉と妹がいたからあみぐるみを作ってみたり、テレビを観たり、スマホやタブレット、ノートパソコンとかでネットサーフィン……とかかな?」


「ゲームはしなかったのか?」


 前世で俺はゲームが好きだったから、ヴァルはどうだったのだろうと興味津々に聞いてみる。


「ゲーム? ゲームは姉と妹が俺の部屋のテレビに繋げて、色々なジャンルをプレイして観せてくれたよ。タイトルは知らないけど、この乙女ゲームも観せてくれたね」


「ヴァル自身はしなかったのか?」


「俺自身は身体の調子が良い時に、姉が勝手に俺の分の登録とアバターまで作って、やってみろって、オンラインゲームのロールプレイングゲームみたいなのはプレイしてみたね。あまり長くは出来なかったけど……」


「ロールプレイング……レイドとかあるヤツか?」


 ヴァルがするゲームがどんなゲームなのか気になって、聞いてみる。もしかしたら、俺がハマってプレイしてたゲームかもしれない。


「あー……あったかも。結構、人気なゲームで、たくさんプレイしている人がいるって姉が言ってたよ。俺はずっと家族か医者の先生、看護師さんくらいしか話さなかったから、ゲームではなかなかコミュニケーションが取れなくて、大体、ソロプレイか姉と妹、姉と妹の友人くらいしかレイドはしてないけど……。慣れてからは少しだけ他の人としたかな。身体の調子が許せる範囲でだけどね」


 懐かしいなぁと呟きながら、ヴァルは小さく笑う。

 その言葉を聞きながら、俺は前世でハマってプレイしていたゲームを思い出す。








 そのゲームは前世の世界で大人気のゲームだった。

 俺がプレイし始めた時は高校二年生の時で、アバターに装備出来る物や武器を戦闘で手に入れたり、モンスターを倒して得られるお金や課金したりして手に入れたりとかなり凝った仕様だった。

 ゲーム自体もクエストもジョブも豊富で、育成ががっつり出来て、同じジョブでも覚えた技や上げるパラメーターによって戦闘の幅が広がる、やりこみ要素満載のゲームだった。

 だから、軽い気持ちで始めたそのゲームに、俺はがっつりハマって、学校から帰宅後も休みの日もプレイしていた。

 課金は学生だったし、流石に両親にお小遣い以外でお金をもらうのは違うと思っていたので、どうしてもという時は短期のアルバイトをしたり、お小遣いの範囲でしていた。

 ちなみに俺の妹も学校の友人もプレイしていたので、休みの日で都合が合えば、一緒にクエストやレイドをしたりして、レベルや欲しい装備品、アバターのアイテムを手に入れていた。

 その後、妹は乙女ゲームにハマってしまって、そちらをプレイするようになり、俺に色々内容を教えてくれていたし、悪役聖女が推しになったが。

 そんなある日、がっつりハマっていたゲームの攻略情報等が載っていたサイトで、ある噂が流れた。


 魔術師のジョブで、凄いのがいる。その魔術師をパーティーに入れてレイドをすると、的確な攻撃、声掛けで短時間でレイドボスを倒せる上に、レアアイテムが手に入る時があるらしい。


 そんな噂が流れ、何故か俺はどんな奴なのか気になって、探すようになった。

 ちょうど長期の休みの時だったので、予定がなければ一日中、そのゲームをしていた。

 毎日、ゲームをしてもなかなか見つからず、攻略情報サイトで目撃情報を探したりして、その凄い魔術師は火曜日によく見かけるということが分かった。

 その攻略情報サイトでは【火曜日の魔術師】という二つ名が付くようになっていた。

 その火曜日に俺は念入りに探していると、その凄い魔術師のジョブの奴――【火曜日の魔術師】をやっと見つけた。

 見つけた時はちょうど、その【火曜日の魔術師】が他の人と戦闘をしている時で、それを遠くから俺は見ていた。

 仲が良い人同士だったのか、ボスではなくただのモンスター達と戦っていたのだが、とても良い連携をしていた。

 サクッとモンスター達を倒した、【火曜日の魔術師】に俺はキーボードで文字を打ち、声を掛けた。

 そいつのアバターは赤い髪で、黒い目をした男のアバターだった。装備品はアクセサリーは分からないが、魔術師のローブ、杖を持っているのが画面越しに見えた。見る限り、どれもレアアイテムだ。


「あんたが、攻略情報サイトで噂になってる凄い魔術師の……【火曜日の魔術師】か?」


『え? 噂、ですか?? どんな噂でしょうか? それに、【火曜日の魔術師】って何ですか?』


 相手は混乱した様子の文字で、丁寧に返して来た。


「魔術師のジョブで、凄いのがいて、その魔術師をパーティーに入れてレイドをすると、的確な攻撃、声掛けで短時間でレイドボスを倒せる上に、レアアイテムが手に入る時があるらしいって、攻略情報サイトで噂が出てた。その魔術師は火曜日によく出没するから、【火曜日の魔術師】って二つ名で、攻略情報サイトで言われるようになってた」


『え、何ですか、その中二病な二つ名……。自分の名前が続いたら、更に中二病度が上がるじゃないですか……』


 【火曜日の魔術師】らしい人の文面が凄く悲しげに見えた。

 言われて、相手の名前を見ると思わず画面の前で俺は麦茶を噴いた。

 相手の名前は『紅い月』と表示されていた。

 続けて読むと、【火曜日の魔術師 紅い月】

 中二病と言われると、確かに! としか言えない。ニヤニヤが止まらない。この人、面白い。


「面白いな、あんた。その名前、自分が決めた名前じゃないのか?」


『家族が初めにプレイしていて、面白いから俺もやれって、登録とアバターを家族が作った状態で渡されまして……。名前も既に決められた後でした』


 凄いお膳立てだな。その家族、本気だな。

 名前は確か、登録の時しか決められないから、変えられないか。

 ちなみに俺はシンプルに『クロ』だ。


「そうだったのか。何か、大変だったな。えっと、紅い月さん。というか、噂、知らなかったのか?」


『攻略情報サイトは見ないですし、あまりプレイ自体も出来ないことが多いですし、家族と家族の友人以外とあまりパーティーを組んだりもしなかったので、噂も二つ名もクロさんから言われるまで知りませんでした』


 攻略情報サイトを見ないで、レイドボスを短時間で撃破するのか、この人!

 一緒に戦ってみたい。


「あのさ、もし良ければ、俺とフレンド登録してくれないか? 一緒にパーティー組んで、ボスを倒したりしないか?」


 思わず、何回かする予定だったコミュニケーションとかをすっ飛ばして、つい、勢い良く声を掛けてしまった。

 マナー違反にならないか焦ってしまう。


『えっ、あの、俺と、フレンド登録ですか?』


 紅い月さんの戸惑いが文面で凄く伝わる。この人、凄く気さくで、誠実そうに感じる。俺としては好印象だ。


「ああ。あんた、何というか、親近感というか、話してて楽しいから、友達になりたい。フレンド登録、ダメか?」


『凄く嬉しいのですが、本当に? あの、プレイする時間が限られてるので、一緒にプレイする時間が短くなりますけど、それでもいいですか?』


 滅茶苦茶、誠実な返事が来た。この人、絶対良い人だ。

 時間が限られているってことは、紅い月さんは社会人だろうか。だから、火曜日にプレイしているのだろうか。

 それでも俺は紅い月さんとプレイしたい気持ちが強くて、キーボードを弾いた。


「もちろん! 俺は大体、夕方から夜にプレイしてるから、その時間に合えたら、是非一緒にプレイしたい!」


『……分かりました。俺で良ければ、是非。拙いプレイをするかもしれませんが、宜しくお願いします、クロさん』


 何処までも誠実な文面で、好印象しか抱かない。

 この人、現実では男女問わずモテるんじゃないだろうか、と思ってしまう。


「こちらこそ、宜しく! 紅い月さん!」





 それから俺と紅い月さんは火曜日の夕方から夜に掛けて、一緒にプレイするようになった。

 プレイして思ったことは、紅い月さんは初見でもボス、レイドボスを少し戦っただけで、相手の動きを正確に見抜いて、弱点を突くところが噂の所以だった。

 前衛の騎士とか剣士ではなく、後衛の魔術師のジョブにしたのも、相手と味方を客観的に見て、動きを把握するためのように感じた。

 だから、短時間でレイドボスを倒せるのだろう。

 たったの一回の戦闘で、阿吽の呼吸のような動きをしてくれた。

 魔法剣士のジョブで、がっつり前衛で戦うのが好きな俺としては、後衛で支援魔法と弱体魔法、攻撃魔法をタイミング良く掛けてサポートしてくれる紅い月さんとの戦闘はやりやすく、凄く楽しかった。

 噂の通り、レアアイテムの出現率は高くて驚いた。

 紅い月さんと何度も一緒にプレイしていく毎に、気さくに話し掛けてくれるようになり、ちょっとした身の上話もお互い出来るようになった。

 俺は高校の話をしたり、妹が乙女ゲームにハマって、内容を教えてくれるといった他愛ない話をした。

 紅い月さんは社会人だと思っていたが、原因不明の病気を患っていて、なかなか動くことが出来ないらしい。

 一週間の中でも、比較的火曜日が動きやすいらしく、ゲームをプレイしていたらしい。

 それで、火曜日に出没率が高いのかと納得した。

 年齢も俺の一つ上の十八歳で、もうすぐ十九歳になるらしい。

 年上なのに俺にも言葉が丁寧なのは、原因不明の病気のせいで学校にも行けず、家族と医者、看護師しか会話をすることがないらしく、どう話していいのかが分からないかららしい。

 そんな身の上話でも俺に重く感じさせない程、紅い月さんは気さくで優しく、マナーが悪い人に対しては意外と毒を吐く人だった。

 そのギャップが面白くて、一緒にプレイ出来る火曜日はとても待ち遠しかった。





 が、それから半年後、事態が変わった。

 紅い月さんが火曜日でも、ゲームに来なくなった。

 原因不明の病気が悪化したのだろうか。

 心配になったその時、紅い月さんのお姉さんと名乗る人からゲームのメッセージ機能でメッセージが届いた。


『先日、弟、紅い月が亡くなりました。生前、クロさんとゲームをプレイするのが楽しくて、楽しくて仕方がないと笑顔を見せてました。弟とプレイして下さって、本当にありがとうございました』


 そのメッセージを読んで、涙が止まらなかった。

 もう、紅い月さんとプレイ出来ないのが、悲しくて堪らなかった。


「……もし、もし、来世があるなら、今度は画面越しじゃなくて、実際に一緒にたくさん遊びたいよ、紅い月さん……」










 そんな前世のことをヴァルとの会話で思い出した俺は、核心に近いことを聞いてみた。


「あのさ、ヴァル。ちょっと聞きたいんだけどさ、【火曜日の魔術師 紅い月】って知ってるか?」


 紅茶を飲もうとティーカップを持ったヴァルの手がピタリと止まる。

 俺のにやけが止まらない。


「……その二つ名は嫌だなぁ……。その人、中二病を患ってるんじゃないかな」


 ヴァルが少し毒を吐いた。ヴァルは苦笑しながら、紅茶を一口飲んだ。

 本当に、紅い月さんもヴァルも面白い。


「そうなのか? 攻略情報サイトでは凄い魔術師らしいぞ。レイドボスを短時間で倒したりするって噂だぞ」


「その人、ただ周りの動きを見るのが得意だっただけだと思うよ。原因不明の病気を患って、身体が自由に動けない分、周囲の機微を気にし過ぎて得た変な特技だから。一緒に戦ってくれる人がいないとレイドボスもボスも倒せない、弱い魔術師だよ?」


 困ったようにヴァルは答えた。

 開き直ってる……。俺にバレたのが分かって、観念したんだろうな。


「その割には的確なサポートが凄いって話だぞ。レアアイテムも出現率高いらしいし」


「レアアイテムは本当にたまたまだよ。その人が何かしたとかはなかったし、そもそもレアアイテムの出現率を高くするなんてチート、外を知らない弱い魔術師が知る術はないよ」


 そうなのか! 滅茶苦茶、レアアイテムが出るから、聞かなかったけど、何か裏技を知ってるのかと思ってた。

 前世の疑問が今世で知るとは思わなかった。


「ところでさ、何で紅い月って名前なんだ?」


「え?」


 気になったことを俺か聞くと、ヴァルは驚いたようで珍しいオッドアイの目を見開いた。


「あー……俺の前世の名前がアカツキって名前で、姉が安直に“紅い月”って綺麗だし、俺っぽいよねって付けたんだよ」


 困ったように笑って、ヴァルはもう一口紅茶を飲んだ。

 前世のヴァルの顔を知らないが、確かに、今のヴァルを見ると、その名前は名は体を表すの通りだなと感じる。

 俺が納得して、ニヤニヤしていると、ヴァルが反撃を仕掛けてきた。


「そう言うクロさんは何で、“クロ”さん?」


 にっこりと、傍から見ると人当たりの良い、親近感のある、当事者の俺からすると血の気が引くような笑みをヴァルは浮かべた。

 俺は飲んだ紅茶が少し気管に入り、咳き込んだ。

 バレてないと思ってたのに、バレてる!


「……その、俺の前世の名前が玄斗クロトって名前だから、シンプルにクロにしたんだ」


「そうなんだね。ディルの前世の名前も、ディルっぽいね」


 ふわりと嬉しそうに笑うヴァルを見て、前世の、紅い月さんのお姉さんの言葉を思い出す。

 こんな笑顔で前世の俺とゲームをプレイしてくれたのかな。そうだと嬉しいな。


「なぁ、ヴァル。今世はさ、色々とヒロインやら元女神やらで大変だけどさ、前世のゲームみたいにレイドみたいなのが一緒にたくさん出来るといいな」


 この前、一度、ダンジョン探索の授業で一緒だったけど、凄く楽しかった。

 ヴァルの後衛からの支援はまさしく前世の紅い月さんと同じ戦い方で、本当に懐かしくて楽しかった。あの授業の時は気付かなかったが。


「そうだね。たくさん、出来ると俺も嬉しいな」


 俺の言葉に、一瞬、目を丸くしたヴァルは凄く嬉しそうに笑った。

 ……その攻撃力半端ない笑顔をいつも目の当たりにしているウィスティ嬢に尊敬の念を抱きつつ、俺も破顔した。



 今世のヴァルは、前世のように呪いで身体が弱くなく、命を落とすような様子もなくむしろ健康で、何より俺と手合わせしても余裕でついて来る。

 そんな親友の元気な姿が、俺はとても嬉しい。


「だからさ、ヴァル。俺は全力でヴァルを支持するからな」


 だから、どうか、俺やフェリア、ウィスティ嬢達と一緒に長く生きてくれ。置いて行くな。


 小さく祈るように呟いた俺は、ヴァルと前世のゲームの話に花を咲かせた。

 


 

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