第72話 報告・連絡・相談は大事

 無事にバイコーンの角を手に入れた俺達はそれぞれの家や魔法学園の寮、王城へと戻った。

 元の髪と目の色に戻して、俺の私室に戻るなり、ハイドレンジアやミモザが疲れているだろうに、俺に紅茶を用意してくれた。

 グレイやレイヴン、サイプレスもにこにこと安堵の表情を浮かべている。何で?


「やっと我が君のお顔が、いつもの穏やかな表情に戻られましたね」


 ホッとした顔でハイドレンジアが微笑む。


「……そんなに険しい表情だった?」


「険しいといいますか、王族のお顔でしたね。威厳と殺気を含んで、いつ怒ってもおかしくないくらいの。私達にはいつもより少し抑えめの笑顔を向けて下さるのですが、他の人には怖いくらい冷たい表情でした。でも綺麗なお顔に誘われて、虫が寄って来るんですよねー……」


 ミモザがお茶請けの甘さ控えめのクッキーを出しながら俺に言うと、グレイとレイヴンがうんうんと頷いた。

 俺は何とかホイホイか。というか食虫植物か。

 まぁ、少し警戒していたのは否定出来ない。

 面倒臭い魅了魔法を使う聖属性持ちは今回は来ないにしても、冒険者に絡まれたり、場合によっては面倒臭い貴族に見つかるかもしれないと思っていたので。


「ヴァル様の懐に入ると、こんなに安全なのかと思うくらいでしたね」


 サイプレスがにこにこと微笑む。

 その言葉を聞いたハイドレンジアがドヤ顔になった。いや、何で。


「色々と慣れない場所だから、警戒していたのは確かだよ。王城や魔法学園と違って、狭い場所ではないから、全方向を警戒していたし、皆も警戒していたけど、警戒の目はたくさんあるに越したことはないからね」


「でも、ヴァル様の新しい一面が見られて、私達女性陣はにんまりでした。初代様に似た口調のヴァル様は新鮮でした! いつもは嫌ですが、あのように挑発する時は、また見てみたいとウィステリア様とオフェリア様と話していたのですよ!」


 キラキラと目を輝かせて、ミモザが期待に満ちた目で俺を見つめる。

 そう言いながらも、ミモザは俺のことで怒っていたのは知ってるんだけど。とは言わず、俺は苦笑した。


「あの、ヴァル様。初代様、というのは……?」


 サイプレスが首を傾げて、浅葱色の目で俺を見る。

 あ、そういえば話してなかった。ミモザもあっと言いたげな顔をした。


「あー……初代様というのは、えーと、話が色々長くなるんだけど、サイプレスは今から用事はある?」


「ありません。ヴァル様のご事情をお聞きしても、私はヴァル様の元を離れる気はありませんので、遠慮なくお話下さい」


 穏やかに微笑んで、サイプレスは頷いた。

 サイプレスの状況の把握が凄い。


「じゃあ、遠慮なく話すよ」


 そう言って、サイプレスに俺の事情を説明した。






 遠慮なく説明し終わると、サイプレスの顔が崩れた。


「……遠慮なく、とは確かに言いましたが、これはあまりにヴァル様に対して、とてもひどくありませんか……ぐすっ」


 鼻を啜りながら、サイプレスがハンカチ越しに漏らす。

 感情移入し過ぎではないだろうか……。

 当事者の俺が引いてしまった。


「いや、泣いてくれるのは嬉しいんだが、泣き過ぎじゃないか?」


「何を仰っていらっしゃるのですか! どう聞いても、ヴァル様のご事情は聞くも涙ですよ!? その元女神というのも何なのですか、執着が怖いです。そりゃあ、平民の編入生のことをヴァル様が避けるのは当然ですよ。しかも、自分の身体を元女神とやらに乗っ取られそうなのに、それに気付かない体たらくときたら、平民の編入生は危機感なさ過ぎでしょう?!」


 ハンカチで涙を拭きながら、サイプレスがごもっともなことを言う。


「そうなんだよね……。本当に気付いてないんだよね……。違和感なかったのかな」


 乗っ取られたことがないから分からないが、元とはいえ、腐っても女神なので、魂が人間と違うはずで、元々魂が入っている身体に、更に異物が入るようなものだから、気付いてもおかしくないのだけど、感じなかったのだろうか。

 本人に話し掛けたくないので、聞けないが。

 ……余裕があれば、断罪する時に聞いてみよう。

 ちなみに、俺も魂は神だが、人間の身体に入っているけど違和感というのはない。理由は生まれた時からそうだったのと、聖と光の精霊王の祝福と加護、ハーヴェストの加護のおかげで問題なかった、と思う。

 加護や祝福がなかったら、多分、俺の人間の身体が保たない上に、命もなかったかもしれない。

 このことを知ったのは、つい最近で、過去視の権能のおかげなんだが。


「違和感に気付く程、あいつは賢くないですよ、ヴァル様。学も同じ平民の俺よりないです」


 とっても嫌そうな顔で、グレイが呟く。

 八歳から約七年、魅了魔法を掛けられては自力で解いて、また掛けられるを繰り返し、チェルシー・ダフニーの近くに居させられたグレイだから、とても現実味がある。


「……………………そうなのか?」


 だからこそ、聞き返した。

 いや、だって、前にグレイから聞いたが、両親や一部の神官はもちろん、周囲の人間に魅了魔法を使って操り、グレイの母親のカナリーさんを人質にした上で、グレイに魅了魔法を掛けたくらいだ。策略家かな、と思うじゃないか。

 だからこその、あの、試験の結果だと思うじゃないか。しかも、秘密の店とやらで答えが書かれた用紙を二回購入し、二回とも最下位。

 わざとかな、と勘繰ってしまった。

 ウィステリアに対する悪意はストレートだったが、それ以外は違うかもしれないと思っていた。

 話も何処か噛み合わないから、わざとやってるのだろう、と。

 違うのか。


「ヴァル様はとても聡明なお方だから、裏の裏を読まれるのだと思うのですが、あいつは本っっ当に賢くないですよ。識字は何とか出来ますが、言葉の誤用が多いですし、語彙力がありません」


 実体験を基にグレイが言う。

 語彙力……確かに以前、意図を糸と勘違いしていた。だが。


「え、待った。一応、チェルシー・ダフニーも転生者なんだけど、前世の知識もあると思うから、てっきりそう演じていると思ったんだけど……」


「約七年、見せられてきましたけど、あれは演技ではありませんよ。自分の欲望には忠実ですが、勉強しようとか、珍しい聖属性持ちだから魔法をたくさん覚えようとかは一切ありませんでした。なので、魔力は高くないですし、魅了魔法しか使っていないので、魅了魔法を掛けられてる間も心の片隅では残念な奴と思ってました」


 グレイの言葉を聞き、俺を含む全員がげっそりとした表情になった。


「……我が君とは全くの正反対ですね。我が君は三歳の頃から必死に努力なさっていましたが、あの者は自分の能力に胡座を掻いているだけでしたか。そんな者が我が君に触れようとするのは不敬で不快ですね」


 あ、一番の過激派が呟いた。


「本当ですよ! 私もヴァル様を三歳の頃から見てきましたけど、正反対過ぎて、それでヴァル様の横に並び立てると思っているのが、烏滸がましいのも程があります!」


 一番の過激派の妹も同調した。

 更に静かだったレイヴンはもちろん、一番の新人とも言えるサイプレスも頷いている。


「あのさ、皆、怒ってくれるのは有り難いけど、とりあえず、落ち着こう? チェルシー・ダフニーのことは少し分かったから、俺も対策を考えるし、あんなのに俺が靡くことも落ちることもまずないから」


 俺にはウィステリアしかいないので。


「その対策ですが、ヴァル様のご事情を考えると、魅了魔法を可視化する魔導具は早めに完成させる必要がありますね。ですので、明日にでも、他の素材も頂けるのでしたら、すぐに取り掛かります」


 サイプレスが笑顔で俺を見て言った。

 これ、俺のこと以外にも、自分の趣味としての笑顔もいくらか含まれてるな……。


「分かった。明日の夜までには用意しておくよ」









 そして、次の日。

 フィエスタ魔法学園の放課後。

 いつもの王族専用の個室で、いつものメンバーが集まった。

 レイヴンは俺の臣下ではあるが、まだ騎士団の一員なので、シュヴァインフルト伯爵の下で訓練。サイプレスは王城の南館の一室で、魅了魔法を可視化する魔導具を作るための準備や自分の趣味のオリジナルの魔法を集めた魔導書作りをしている。

 それ以外の学生でもある友人達と、ハイドレンジア、ミモザ、シャモアが個室にいる。

 その中で、アルパインとイェーナが昨日の出来事を説明した。


「――以上が、昨日起きた出来事ですわ」


 個室の執務用の机に頬杖を突き、浅く椅子に座っていた俺は溜め息を吐く。浅く座っていたことで、椅子から落ちそうなくらい、深く吐いた。

 友人達はソファに座って、同じく何とも言えない表情を浮かべている。

 ソファに座って、報告してくれたアルパインとイェーナも似たような顔だ。


「教えてくれてありがとう。アルパイン、イェーナ嬢」


「結論から言えば、行かなくても良かったような内容だよな……」


 ディジェムが苦い顔をしている。


「結論だとそうだけど、行かないと分からないことだし、相手のこれからの動向を把握するには行かないという選択肢はなかったと思うよ。俺でもそうする」


 そう言うと、アルパインとイェーナがホッとした表情をした。ディジェムと同じように思っていたのだろうな。


「この流れで聞くけど、シスル達は上手くいった?」


「はい! ヴァル様やヘリオトロープ公爵様、皆さんのおかげで、無事に婚約解消を撤回出来ました! 本当にありがとうございます!」


 キラキラと目を輝かせて、シスルは俺達に頭を下げた。無事にシスルの婚約者に戻ったリリーも同じように頭を下げた。


「良かった。ヘリオトロープ公爵と一緒にドラジェ伯爵にお願いをして良かったよ。おめでとう、シスル。リリー嬢」


 笑顔で告げると、俺の言葉を聞いたディジェムとオフェリアが更に苦い顔をした。


『お願いという名の脅しだろう』


 右肩に乗る紅が念話で突っ込んだ。


『え? 脅し? 何のこと? 俺とヘリオトロープ公爵はドラジェ伯爵の愛娘を助けた若者に何もお礼はしないの? 父親なのに? と綺麗な布に包んで言っただけだよ』


『だから、脅しだろう』


『紅でも同じようにするのは知ってるよ』


『……否定はせぬ。リオン達が言っても、駄目な伯爵なら、我も出ようと確かに思っていたからな』


 結局、紅もシスルを気に入ってるのは知ってるから、もし、万が一俺やヘリオトロープ公爵からのお願いが通じなかったら、紅が出ようとしていたのも知っているので、そういう意味でもすんなり婚約解消の撤回が出来て良かったと思う。

 伝説の召喚獣が出て来たら、ドラジェ伯爵も腰を抜かすどころではなかったはずだ。


「ロータスとピオニー嬢もお疲れ様」


 そう言うと、ロータスとピオニーも笑顔で頷いた。二人共、ホッとした表情を浮かべている。


「――じゃあ、二組の報告も終わったことだし、今から、前に話した俺の秘密を話そうと思うんだけど、いいかな?」


 俺の言葉を聞いたアルパイン、ヴォルテール、イェーナ、ピオニー、リリー、アッシュが固まった。


「え、ヴァル様。いきなり、ですか?」


「いきなりでもないよ、ヴォルテール。アルパインとイェーナ嬢の報告にも関連するからちょうどいいと思ってる」


 苦笑しつつ、アルパイン達を見回す。


「それに、話しておかないと、確実に巻き込まれることも分かったしね……」


 頭痛がするこめかみを抑えながら、溜め息を漏らす。


「先延ばしは流石にもう難しい。チェルシー・ダフニーが少しずつ動こうとしてるみたいだし……。本っ当に面倒臭い」


「最後のところ、感情込め過ぎだろ。気持ちは分かるけどさ」


 ディジェムが苦笑いをし、隣でオフェリアも似たような顔をしている。ウィステリアも似たりよったりな顔だ。


「そういうことだから、今ならまだ話してないから、離れることも出来る。どうする?」


「聞きますわ。どのようなご事情でも、ヴァル様はヴァル様ですわ。今までのことがなくなる訳ではございませんわ」


「そうです。俺は五歳の時にヴァル様に助けて頂きました。あの時から、俺は護衛で友人だと思ってます。これからも変わりません」


「離れるつもりはないですね。僕も護衛で友人だと思ってます。五歳の時から色々ご事情を抱えていらっしゃるのは見てきましたし、何より、僕もハイドレンジア殿やミモザ嬢と同じですから、ヴァル様から離れるなんて考えたこともないですね」


 イェーナ、アルパイン、ヴォルテールの幼馴染み組がニヤリと笑った。

 しかも、ヴォルテールがハイドレンジアとミモザと同じと言った。それはつまり、過激派だと認めたということだろうか。


「私もヴァル殿下とシスル様に助けて頂きましたから、ご恩をまだお返し出来ていません。離れる予定はありません」


「……ヴァル殿下以上に、私やピオニーを楽しませてくれる作戦を考えて下さる方を知りません。何よりピオニーとシスル様を助けて下さった方から離れるなんて、恩知らずとロータスお兄様に罵られます」


 ピオニーとリリーも離れないと言ってくれた。が、ロータスは妹を罵るのか? 

 思わず、ちらりとロータスを見る。彼は否定するように、必死に首を左右に振っていた。


「……私も、ヴァル様には家族と共に助けて頂きました。助けて下さった方に恩を仇で返すようなことなんて出来ませんし、友人が離れる悲しく苦しい気持ちを優しいヴァル様に味わって欲しくありません。私も離れるつもりはありません」


 アッシュも膝の上にある手をぎゅっと握って、俺を見て言った。彼の樺色の目が社交界デビューパーティーの時より、強い意志を帯びている。

 アルパイン達の言葉を聞いた、既に知っているウィステリア、ディジェム、オフェリア、ハイドレンジア、ミモザ、シャモア、グレイ、シスル、ロータスがホッとした表情をしている。


「ありがとう。長くなるけど、話すよ」


 俺も安堵しつつ、アルパイン達に事情を説明した。






 長い説明をし終わると、皆の顔が歪んでいた。

 その説明の中にはウィステリア、ディジェム、オフェリアのことも話している。


「……ヴァル様。これは、とてもひどくありませんか……。何で、平気なお顔が出来るんですか……」


 ハンカチを目に当て、ヴォルテールが呟いた。

 アルパイン達もハンカチを片手にうんうんと頷いている。


「意外と自分のことだから、平気なんだよね。人の事情を聞くと、辛かっただろうにとか、助けたいとか思うけど」


 自分のことだから、余計に無頓着になるんだろうなと思う。

 嘆いていても、何も変わらない。それは前世で痛感した。呪いで身体が思うように動かなくても、どうにか自分を奮い立たせていた。

 悲劇の主人公とかになるつもりは前世の時からない。


「ヴァル様、先程のわたくしの報告にも関連するという意味、分かりましたわ。チェルシー・ダフニーが言っていた、乙女ゲームというものですわね?」


「そうだね。俺やウィスティ、ディル、オフィ嬢の前世で知ったものだよ。この世界に似せて、その乙女ゲームは作られてる。その中に、俺やウィスティ、ディル、オフィ嬢、アルパイン、ヴォルテール、イェーナ嬢、ハイドレンジア、ミモザ、グレイが出てる。性格は違うけど」


「参考までに、どのくらい違いますか?」


 気になるのか、アルパインが袖で目尻を拭きながら問う。


「かなり違うね。アルパインはちょっと暑苦しい、頭が固い感じの熱血なハイドレンジアみたいな感じかな」


「……我が君、何ですか。その、ちょっと暑苦しい、頭の固い感じの熱血な私とは」


「柔軟性がない、規定通りにしか動かない、固い、出会ったばかりの頃のハイドレンジアに暑苦しさと熱血を足して想像すると、乙女ゲームのアルパインになるんだよ。今のレンの方が俺には合ってるけど」


 十三年前に出会ったばかりのハイドレンジアに暑苦しさと熱血を足したら、本当に乙女ゲームのアルパインになる。そんな側近だったら、俺は息苦しくて嫌だ。まだ過激の方が良い。


「……あの時の私ですか。あれはすみません。本当に忘れて下さい、我が君」


「その頃のハイドレンジア殿を俺は知らないですが、そんな感じなら、ヴァル様と今のような友人関係にはなれなかったでしょうね。今のような関係で良かった……」


 とってもホッとした表情で、アルパインは胸を撫で下ろした。


「ヴァ、ヴァル様。ちなみに、僕は……?」


 ぐすっと鼻を啜りながら、ヴォルテールは俺を見た。


「女たらしで、常に女子生徒を口説き、侍らせていたよ」


「それ、僕もヴァル様も苦手なタイプじゃないですか……」


「だから、本当に俺も違う性格でホッとしてる。今のヴォルテールとは話が合うし、アクセサリーのデザインとか相談出来て、楽しいしね」


「僕も無理ですね。違って本当に良かったです。今のヴァル様との関係が楽しいので」


 ヴォルテールも胸を撫で下ろした。


「あの、わたくしは……?」


 そんな幼馴染み二人を見たイェーナが俺を見つめる。


「……イェーナ嬢は、ウィスティの取り巻きだよ」


 仲の良い二人を見ていた分、言いにくかった。


「そ、それは、ウィスティ様とお友達ではない、ということですの……?」


 イェーナが衝撃を受けたような顔で、俺とウィステリアを交互に見る。


「うん。しかも、途中でチェルシー・ダフニーの友人枠に入り、悪役令嬢扱いされるウィスティを第二王子達と断罪する側に立つ」


「何ということですの……。でも、良かったですわ。ウィスティ様とご友人になれて。ウィスティ様! わたくしは絶対にウィスティ様を裏切るようなことは致しませんから!」


 ウィステリアの手をぎゅっと握り、イェーナは力強く言い切った。


「ありがとうございます、イェーナ様」


 嬉しそうに微笑んで、ウィステリアは頷いた。

 そんな二人を見て、俺が穏やかに微笑んでいると、リリーがスッと手を挙げた。


「……ちなみに、その乙女ゲームのヴァル殿下はどんな感じなのですか?」


 リリーの問い掛けに、乙女ゲームを知っているウィステリア、ディジェム、オフェリア以外が俺を勢い良く見つめた。

 正直な話、言いたくないが、皆のことは話したのに、俺だけ言わないのは筋が通らない。


「……今の俺と百八十度違うよ」


「それは、つまり、どのような……?」


 過激派のミモザが代表して俺に問う。


「顔はそのままだけど、目付きの悪い、我儘で、陛下以上に仕事をしない、俺様王子様だよ」


「それは、中身がお顔と伴わない、顔だけ王子ということですか!?」


 ミモザが辛辣な一言を言い、ディジェムとオフェリアが吹いた。


「そうだね。だから、ああはなりたくないから、前世を思い出した三歳の頃から努力した結果が今の俺だね」


『……例え、前世を思い出さなくても、リオンがあの第二王子のような性格にはならないと思うが』


 紅が念話でフォローしてくれた。


「……その乙女ゲームのわたくしやアルパイン様達の性格より、ヴァル様の性格の方が衝撃でしたわ……。良かったです。今のヴァル様で」


「あの第二王子だったら、確実に今いる皆を助けられなかっただろうね」


 溜め息と苦笑いを混ぜて、肩を竦める。


「乙女ゲームのヴァル様の性格もですが、私としては女神様と双子になるはずだったことの方が衝撃なのですが……」


 アッシュがぼそりと呟いた。


「そうですよ! そちらの方が驚きです! ヴァル殿下がお美しいのは女神様と双子になるはずだったからなのですね?!」


 ピオニーが目を輝かせて言うと、リリーもじっと俺を見つめる。


「いや、それは俺も知らないけど……。とりあえず、話を戻すけど、乙女ゲームではチェルシー・ダフニーは魅了魔法を使わなかったし、あそこまで困った性格ではなかった。だからこそ、今のチェルシー・ダフニーには気を付けて欲しい。イェーナ嬢が報告してくれたように、心を揺さぶってから魅了魔法を掛けようとする可能性がある」


 グレイに魅了魔法を掛ける時に、カナリーさんを人質にすることで心を揺さぶりを掛けていたのだろう。だから、カナリーさんに止められたけど、紫紺も殺そうと思ったのだと思う。


「だから、出来れば、一人で行動するのは避けた方がいいかな。チェルシー・ダフニーと会話はもちろん、対峙するのが本当に面倒臭いから」


 疲れ切ったような顔をしていたのか、友人達から同情するような目を向けられた。


「よく分かりますわ。昨日対峙してみて、面倒と言いますか、疲れますわ。会話が成り立たないと言いますか、腹立たしく思いますわ」


「分かるよ、イェーナ嬢。だから、余計にチェルシー・ダフニーに安易に近付かないで欲しい。特に今は本当に面倒臭い元女神が入ってるから」


「ヴァル様がそこまで言う元女神というのを関わりたくないのですが、遠くでいいので見てみたいですね」


「後悔するからやめた方がいいよ、ヴォルテール。チェルシー・ダフニーに更に輪を二重三重に掛けて面倒臭いから。執着が気持ち悪い」


 閉ざされた世界で神の俺が味わった、元女神に似せて作られた人形を思い出してしまい、頭痛がする。


「そこまでヴァルに言わせるのが凄いよな。俺も覚えていたら良かったな」


「本当に後悔するから。しかも、別の世界に逃げたら呪ってくるような奴だよ?」


「あ、ごめん。それは嫌だわ」


 何を想像したのか、ディジェムがすぐさま謝った。


「だから、絶対に一人で行動するのは避けてね、皆」


 そう告げると、皆が頷いてくれた。

 ホッとしていると、どうやら、これはフラグのようだった。





 後日、俺は一緒に紅もいるが、諸事情で一人でいたことで、チェルシー・ダフニーの身体を一時的に乗っ取った元女神ミストと出くわすことになる。

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