第71話 素材集め

 無事に冒険者登録が終わり、証明書も貰えた。

 前世で読んだ漫画や小説にもあるように、冒険者はランク分けされている。

 全員、E級からスタートし、依頼や討伐を熟していくこと、その国の王や各領にあるギルドマスター等の推薦で一番上のS級になる。

 もちろん、全員がS級になれる訳はなく、依頼もランクが上がると難易度も上がる。

 S級は世界でそんなにいない。詳しくは知らないが、両手くらいの人数らしい。

 今日登録した俺、ウィステリア、オフェリア、ハイドレンジア、ミモザ、ヴォルテール、グレイ、アッシュはE級。先に登録していたディジェムとレイヴンはC級だった。

 渡された冒険者の証明書を見る。

 おお、これがギルドカード。

 カードに書かれているのは名前、ランク、職業、得意属性が書かれている。

 ん? 職業? 得意属性?

 職業って……第二王子? 王族? 魔法学園の学生? 

 不安になり、カードの職業欄を見ると、『魔法学園生』と書かれていたので、ホッとする。

 得意属性も全属性ではなく、擬態している火属性だったので、こちらも安堵する。

 とりあえず、魔法学園を卒業した後の職業はまた考えないといけないなと頭の隅に置いておこう。

 ギルドカードを空間収納魔法で収納し、依頼が書かれている掲示板から一枚、依頼書を取り、受付へ行く。受付の人が恐らく貴族の冒険者の対応をする担当らしき男性と女性の二人へと変わる。

 特に、先程、俺の地雷を踏んで、王都の冒険者ギルドの冒険者の半分を使い物にならなくしたので、受付も慌ただしく変わった。

 別に、普通に対応してくれたら、こちらも何もしないのだが……。

 何だろう、俺がクレーマーみたいというか、腫れ物扱いみたいになっているように感じるのは被害妄想なのだろうか。

 同じく、その雰囲気を感じたのか、ハイドレンジアとミモザが「不敬ですね……」とぼそりと呟いている。

 流石に第二王子とバラす訳にもいかないので、貴族に対応するように、営業スマイルを貼り付けて受付に声を掛ける。


「……この依頼を受けたいのだが」


 一瞬、敬語を使うべきか悩んだが、そういえば、先程の冒険者達には敬語使ってなかったし、何人かギルド職員も居たので、なしでいいかと思い、ちょっと偉ぶった言い方になってしまった。


『リオンは王族なのだから、別に偉ぶった言い方でいいじゃん。リオンは優し過ぎだと私は思うよ』


 短剣に擬態している蘇芳が俺に念話で言う。


『優しく接するかは人によるよ』


 そう蘇芳に念話で返していると、受付の男性と女性の顔が赤くなってしまう。営業スマイルでも駄目なのか。俺の家族や友人達にする笑顔の十分の一くらいなのに。


「は、はいっ。こ、こちらですねっ!」


 震える声で頷き、少しだけ立ち直ったらしい受付の男性が俺から依頼書を受け取った。


「ええっ?!」


 受け取った依頼書を見て、受付の男性が声を上げた。

 その声に、他の冒険者達がこちらを見る。


「……先程から、冒険者ギルドの受付の方は、相手を不快にさせるのが得意なのでしょうか?」


 ハイドレンジアが俺の横からすっと現れて、冷たい笑顔で受付の男性に言う。


『……主従揃って、冷たい笑顔がそっくりだな。長い付き合いになると、似るのだろうな』


 右肩に乗る紅が溜め息混じりに俺に念話で言った。その声音に怒りが滲んでいて、隠せていない。


『……そう言う紅も俺に似てるからね。君も受付の人達に怒ってるのは知ってるよ』


 深いところで繋がっているから、紅が何に怒っているのかが分かる。


「も、申し訳ございません。あの、こちらを受けられる、ということで宜しいでしょうか?」


 受付の男性は何故か、俺ではなく、ハイドレンジアに問い掛けた。


「……受けられるのですよね? 我が君」


 ハイドレンジアが俺を見て尋ねると、受付の男性がハッとした顔をする。


「そうだな」


 俺が頷くと、ハイドレンジアは優しい笑みを浮かべる。


「我が君、手続きは私がしておきます。我が君は離れてお待ち下さい」


「分かった。程々にしておけよ、レン」


 ハイドレンジアの笑顔を見て、何をするのか分かり、溜め息混じりに頷く。

 ウィステリア達と共にその場から離れると、ハイドレンジアとミモザが受付に残った。






「……いつも思うが、ヴァルの側近と侍女は過激だな……」


「まぁ、三歳の頃からの付き合いで、俺と紅が助けたからね。雛の刷り込みのようなものだよね」


 だからなのか、二人は紅に対しても、尊敬というか、憧れの父親を見るような眼差しで見ている。

 紅がお父さん……想像すると格好良いよね。

 特にハイドレンジアとミモザの父親であるホルテンシア伯爵は典型的な貴族で、とても残念だった。

 実の父親から虐げられていた二人は俺達に助けられて、それも間近に、イケメンで格好良い紅がいたら、この人がお父さんだったら……と誰でも思う。

 なので、ハイドレンジアとミモザは紅の言葉をよく聞いている。それで俺が嫉妬……ということもない。紅もハイドレンジアもミモザも家族だと思ってるし、そこまで俺は狭量じゃない。


「助けられたら、まぁ、無条件で刷り込まれるよな。というか、ヴァル。三歳の時に二人を助けたのは初耳なんだが……」


 ディジェムの言葉にオフェリア、ヴォルテール、レイヴン、グレイが俺を見る。建国記念式典後にお互いのことを話していたウィステリアと、たまたまフォギー侯爵のことで俺に直談判しに来たアッシュは三歳の時に助けたことを知っているので、にこにこと微笑んでいる。


「俺と紅で、こそこそ色んな情報を片っ端から集めてたからね。その時に、レンとミモザの状況を知ったんだよ。それで紅と一緒に、二人を助ける算段を立てて助けたら、俺の側近と侍女になってくれたんだよ」


 ということにした。

 ウィステリア、ディジェム、オフェリアは乙女ゲームで二人がどんな状態だったというのは知っているが、ヴォルテール、レイヴン、グレイ、アッシュは知らない。なので、それらしい内容にしてみた。

 流石に詳しくは本人達がいないところで話すのはどうかと思うので、簡単に説明した。


『本当に簡単に説明したな』


 紅が念話で突っ込んだ。

 いや、だって、詳しく話したら、ハイドレンジアもミモザも落ち込むじゃないか。二人共、お互いのせいでお互いの身が危なかったって、思い出して未だに落ち込むし。


『二人のことを思うと、簡単な説明になるのは分かるが……』


 ざっくりだと思われても、俺はこれ以上は二人がいない時には話さないつもりだ。俺が話すことではない。

 そんなことを思っていると、ハイドレンジアとミモザが戻って来た。


「我が君、お待たせ致しました。依頼書の受付、終わりました」


「ありがとう、レン。ミモザ」


 穏やかに微笑むと、ハイドレンジアとミモザの顔が赤くなった。あれ?


「……何で、赤くなる」


「い、いえ。普段の我が君の色ではなく、違う色なので、慣れなくて……。申し訳ありません」


 右手で顔を覆い、ハイドレンジアが床に崩れた。隣ではミモザが既に崩れている。

 俺の笑顔の免疫が一番ある二人がこれだと、金髪碧眼の姿でうっかり微笑むことが出来ない。やっぱり仮面がいるのだろうか。

 ディジェム達が何とも言えない、同情の視線を俺に向けて来る。


「……とりあえず、素材集めに行こうか……」


 溜め息混じりに俺は王都の冒険者ギルドを出た。











 王都の冒険者ギルドを出て、更に王都を出た俺達はバイコーンが生息している場所へ向かう。

 冒険者ギルドでハイドレンジアが受付の人達から得た情報だと、バイコーンは王都の東にある森に生息しているらしい。

 生息しているらしいというのは、遭遇率が低いからなのだとか。

 バイコーンは二本角をした馬で、ユニコーンの亜種といわれる。また、ユニコーンは純潔を司るのに対し、バイコーンは不純を司るとされる。

 ユニコーンは純潔な女性を好むように、バイコーンは男性を好むらしい。

 ……ということは。


「……なぁ、ヴァル。言ってもいいか?」


「あんまり言って欲しくないけど、ディル、何?」


「ヴァルがいるから、バイコーンに遭遇すると思うのは俺だけか?」


 ディジェムの言葉に、全員が同情の視線を向ける。

 バイコーンも俺の地雷を踏む気か。


「……その時は、さくっと一瞬で終わらせるよ」


 にっこりと笑みを浮かべると、ディジェムが青褪めた。

 それこそフラガラッハを使えば、一瞬だ。


『僕の全体攻撃、皆が引くんじゃない?』


『一瞬で倒せば、素材として考えたら、傷だらけより高値で売れるんじゃないか?』


『いや、まぁ、そうなんだけど。僕の全体攻撃、クラウ・ソラスの全体攻撃より精神的に引く気がするんだけど……』


『俺は楽なんだけど。それに、閉ざされた世界のディル達は引いてなかったと思うけど』


 神の俺は何度も見たことがあるし、閉ざされた世界にいたディジェム達は引いたりしていなかった。

 むしろ、楽だな、と言われたこともある。


『リオンはね! 僕は嫌だよ。僕のせいでリオンが引かれるの』


『ゲームが好きなリアやディルは目を輝かせると思うけどなぁ』


 フラガラッハの全体攻撃は、二人がプレイしたことがあるゲームにもありそうな全体攻撃だし。


「何というか、俺が言うのもおかしいが、ヴァルに引っ掛かったばっかりにバイコーンも哀れだよな……」


 まだ現れていないバイコーンに同情するかのように、ディジェムが可哀想な子を見るような目で俺を見る。


「俺は引っ掛けてない。ディルも綺麗な顔なんだから、君に引っ掛かるかもしれないよ」


 じろりとディジェムを横目で見て、溜め息を吐く。

 俺やディジェム以外の男性陣も美形な顔が多い。

 何せ、乙女ゲームの攻略対象キャラクターのヴォルテール、隠しキャラクターのハイドレンジア、グレイがいる。アッシュ、レイヴンは攻略対象キャラクターではないが美形だ。

 どうせなら、俺ではなく、全員の顔に引っ掛かればいい。それだけで、俺の精神的なダメージは軽くなる。紅も人型になれば、バイコーンも更に食いつくのではないだろうか。彼も美形だし。


『我は無理だぞ、リオン。我の魔力でバイコーンが怯える。今は消しているから問題ないが、慣れぬ人型だと、我の魔力が確実に漏れるぞ』 


 俺の思考を読んだ紅が念話で否定した。

 そうなのか。非常に残念だ。

 そんなこんなで、バイコーンが生息しているらしい王都の東の森を徒歩で向かう。

 本来は馬車で行くらしい。

 定期的に王都から各領地へと往復する馬車で、その道程なら、何処でも降ろしてもらえる。もちろん、護衛付きだ。

 運賃はその距離に応じてではなく、どの距離でも同じ金額の運賃を支払う。

 降りる場所によっては損ではあるが、魔物や野盗に出会したりするので、安全面を考えると護衛付きの馬車の方が良い。

 俺達はその運賃を渋った訳ではなく、王都と東の森の距離が意外と近いので、徒歩で行けるからという理由だ。

 その間に出会すかもしれない、魔物や野盗を倒すのは俺達の人数、力量なら問題ないと思う。

 帰りは転移魔法で王都まで帰れば良い。

 世間話のような話をしながら歩いてると、王都の東にある森に着いた。


「……ここにバイコーンがいるんですね」


 ウィステリアが緊張した面持ちで森の奥を見つめる。


「いるらしい、だけどね。確か、角に魔力を溜めて、幻惑を見せる……だったっけ?」


「そうですね。その幻惑は大切な人に見えて、惑わせ、その間に男性を襲うと言われてます」


 レイヴンが俺の問いに頷く。


「大切な人に見えて惑わす?」


 それはつまり、隣にウィステリアがいる俺は惑わされないんじゃないだろうか。この場合、ディジェムもヴォルテールも。


「私が以前、先輩冒険者に聞いた話だと、バイコーンの幻惑で、その冒険者の大切な人が突然現れて、不貞な場面を見せられて、しかも、その大切な人の姿で襲って来て、何とかバイコーンを倒せたそうですが、女性不信になり掛けたそうです」


「不貞……成程。バイコーンは不純を司るから、そういう幻惑を見せ、しかも、襲って来たようにするんだね。趣味が悪いな」


 俺の言葉にレイヴンが苦笑いをする。

 何処かの魔に堕ちた、誰かさんの権能の惑いといい勝負だ。


「……ということは、今、婚約者が隣にいる俺とディル、ヴォルテールがバイコーンを倒した方がいいかな? 隣にいるから、惑わされないだろうし」


「そうだな。でもさ、大切な人って、婚約者とは限らないだろ? 家族とか友人とか。そうなると俺とヴァル、ヴォルテールでも惑わされるんじゃないか?」


「……不純な気持ちがなければ、惑わされないと思うけど」


「不純……ああ、成程。大切な人って言葉の方しか頭になかったわ。不純はないな」


「僕もないですね。では、見つけ次第、さくっと行きますか? ヴァル様、ディジェム様」


 少し鼻息荒くヴォルテールが俺とディジェムを見る。


「そうだな。早く終わらせたいし、冒険者ギルドでまたヴァルの地雷踏むヤツがいるかもしれないし」


「バイコーンがいないかもの心配じゃなくて、ヴァル君の心配だなんて、良い友情だわ」


 棒読みでオフェリアが呟いた。


「俺じゃなくて、冒険者と建物の方の心配だと思うんだけど、オフィ嬢。しかも、棒読みなんだけど」


「あら。棒読みだなんて、人聞きが悪いわ」


 とっても面白がっている笑顔でオフェリアが俺を見る。


「面白がってる顔をしたまま言われてもね。まぁ、さくっと終わらせたいのは同意するけどね」


 そう言いつつ、腰に佩いている鋼の剣に擬態した、フラガラッハを鞘から抜き、数歩、森に入る。

 入った途端、森の奥から木の葉が擦れる音があちこちから聞こえた。


「……はぁ」


 俺が溜め息を吐くと同時に、ディジェムとヴォルテールがこちらを見る。


「……バイコーンの素材が必要な時は、先にヴァルを呼んでもいいか?」


「……その時は瞬殺でいいかな?」


 言いながら、鴇が俺の意図を汲んで、鋼の剣の擬態を解き、フラガラッハの形に戻る。

 木々の隙間から現れたバイコーン数体に向かって、ブーメランを投げる要領でフラガラッハを軽く投げる。

 投げたフラガラッハがバイコーン目掛けて飛んでいき、首をすぱっと切断していく。

 その場に現れたバイコーン全ての首を切断したフラガラッハが俺の手元に戻って来る。フラガラッハを鞘に戻し、俺は何事もなかったように倒したバイコーンの方に向かう。


「待て待て待て! 何事もなかったように、バイコーンのところに行くな!」


 ツッコミを入れながら、ディジェムが俺の後ろを着いていく。その後ろをウィステリア達が着いてくる。


「今の何だ?」


「フラガラッハの全体攻撃だよ。投げればひとりでに敵を倒し、手元に戻って来るんだよ」


「……凄いな。その攻撃方法、わらわら敵がいる時にとっても楽じゃん」


 目を輝かせて、ディジェムが鞘に納まったフラガラッハを見つめる。


『引かれなかっただろ、鴇』


『……うん、それは安堵してるんだけどさ、釈然としないのは何で?』


 念話で唸る鴇をそのままに、フラガラッハに首を斬られ倒れたバイコーンを確認する。


「……全部で十五体か。意外と多くて驚いた」


「……十五体も引っ掛けるヴァルの美しさに、俺は恐れをなしてるところだ」


 疲れた顔でディジェムが言うと、ヴォルテール達が頷き、ウィステリアは苦笑している。


「角は十体分くらいは俺達側の物として、五体分は冒険者ギルドに売ろうか」


 言いながら、バイコーンの角を十体分を、事前に買っておいた解体用のナイフで剥ぎ取り、空間収納魔法で収納する。


「ああ、我が君! 解体なら私に言って下さい! 何故、ご自身でなさるんですか!」


 ハイドレンジアが慌てた様子で声を上げる。


「いや、このくらいは出来るから……」


「何で出来るんだよ。ヴァル……」


「シュヴァインフルト伯爵から、万が一、拉致とかされて、山奥とかに幽閉されて脱出後に食材を現地調達出来るようにって、動物の血抜きとか、皮の剥ぎ取りとか色々教えてもらったんだ」


 サバイバルも出来るように、シュヴァインフルト伯爵から子供の頃から教わったのが活きた。


「……シュヴァインフルト伯爵は、ヴァルをどうしたいんだ……?」


 ディジェムが更に疲れた顔で呟く。

 それなら、ヘリオトロープ公爵もセレスティアル伯爵も人のことは言えないくらいの知識と技術を俺に詰め込んでますが。言わないけど。

 それはさておき、俺は角を取った残りの首と胴体、角をそのままにしている五体分のバイコーンを見下ろす。


「傷付けてないし、これなら素材として高値で売れるかな?」


「俺としては、バイコーンの肉が美味いのか知りたい」


 ディジェムはいつの間に食いしん坊キャラになったのだろうか。


「あ、ディジェム様。やめた方がいいですよ。バイコーンの肉、と言いますか、バイコーン自体が不純を司る魔物なので、身体も魔力も穢れてますし、その、将来的に子供が授からないことになりますよ」


 グレイが慌てた様子でディジェムに小声で伝える。闇の精霊王の子供だからなのか、そういう魔物事情とか知っているのだろうか。

 グレイの言葉を聞いたディジェムの顔が青くなる。


「うん、やめよう。グレイ、教えてくれて助かった。でも、何で知ってるんだ?」


 ディジェムが問い掛けると、グレイはホッとした表情を浮かべた。


「あ、その、父から聞いたことがありまして……」


「へぇ、そうなのか! グレイのお父さん、詳しいんだな!」


「お、恐れ入ります……」


 ディジェムに紫紺のことを褒められ、グレイが照れた。嬉しそうだ。


「とりあえず、全部持ち帰って、角以外は冒険者ギルドで売ろう。目的の物は手に入ったし、王都に帰ろうか」


 倒したバイコーン全てを空間収納魔法で収納し、萌黄を喚んで、王都まで風で運んでもらった。










 王都に戻り、冒険者ギルドで必要なバイコーンの角以外を買い取ってもらえるか買取窓口で聞くと、買取担当の職員にまた声を上げられ、ハイドレンジアとミモザに追加でレイヴンが参戦し、代わってもらうことになった。

 ただ、俺の空間収納魔法にバイコーンを収納しているので、窓口ではなく倉庫に呼ばれて、その場で角が付いたままのバイコーン五体と、角を取った十体のバイコーンを出して、置く。

 五十代くらいの解体担当の男性職員が呆然とバイコーンを見つめた後、俺達の方に顔を向ける。


「バイコーンを倒したのは誰なんだ?」


 解体担当の男性職員が尋ねると、全員が俺に顔を向ける。倒したのはフラガラッハこと鴇ですが。


「……あんたがやったのか。凄いな! こんなに綺麗に倒されたバイコーンを見るのは初めてだ。全て見事に一撃だな」


 俺の肩をバンバンと叩きながら、解体担当の男性職員が歯を見せて笑う。


「これなら、高く買い取れるぞ。どうする?」


「買い取って下さい」


 俺がにやりと笑うと、解体担当の男性職員は一瞬ポカンとした表情をするが、すぐニヤリと笑い返した。


「よし、分かった。数も多いし、査定するのに時間がかかるから、明日、支払いでもいいか?」


「はい。その時は私ではなく、代理でも構いませんか?」


「ああ。構わないが、代理が誰なのか教えてもらえるか? お互い知っておいた方が今後も楽だろ?」


 詐欺等で代金を渡した、貰ってないで揉めるのは面倒なのか、解体担当の男性職員は俺を見る。


「そうですね。彼が私の代わりに行きます」


 そう言って、ハイドレンジアに顔を向けると、彼もにこりと笑って、一礼した。


「宜しくお願いします」


「分かった。彼以外には代金を渡さないようにしておくから、確認のためにあんた達のギルドカードを持って来いよ」


 解体担当の男性職員は尚もニヤリと笑う。

 俺の容姿に左右されない、職人気質な解体担当の男性職員に、凄く好感を持つ。

 こういう人なら、信用出来るなと小さく笑って頷いた。

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