第68話 火の精霊王と闇の精霊王と水の精霊王と第二王子
とても長く感じたフィエスタ魔法学園の一年生が終わり、俺達は二年生に進級した。
クラスはスピネルクラスで、クラスの面々はガーネットクラスからそのまま上がったので、変わらずだ。
正直な話、チェルシー・ダフニーとは別のクラスになって欲しかった。
魅了魔法の対処が、同じ学年の生徒では無理だから、俺と同じクラスにならないといけないのは分かっているが。
タンジェリン学園長も、クラス替えを考えていたが、チェルシー・ダフニーのことがあり、仕方なく同じにしたと申し訳なさそうに謝罪の手紙が数日前に届いた。
ちなみに、一年生最後の試験は一位が俺、二位がディジェム、三位がウィステリア、四位がオフェリア、五位がヴォルテール、六位がグレイ、七位がアッシュ、八位がピオニー、九位がアルパイン、十位がイェーナ、十一位がリリーだった。
アルパインもヴォルテールも十位以内だったので、ひどく安堵の息を漏らしていた。
あと二年、頑張らないといけないが、そこはきっと二人も分かっているが、今は考えないようにしているのだろう。気持ちは分かる。
そして、実技試験で強烈な印象を俺に残した、三年生で先輩のサイプレスは無事に卒業して、王城の南館の一室でオリジナルの魔法を一つの魔導書に収めるために俺の魔法を解明しているのと、俺が頼んだ魅了魔法を可視化する魔導具を作れないか確認してもらっている。
「素材集め、いつ行こうか……」
王城の南館の私室で、ぼそりと呟く。
こっそり持ち出した禁書にも、可視化する魔導具はあると載っていた。素材も作り方も載っていた。その素材が厄介だが。
必要な素材で貴重というか、手に入りにくいのがバイコーンの角、セイレーンの涙、妖精の鱗粉、聖の精霊王の魔力を宿した魔石だ。
聖の精霊王の魔力を宿した魔石なら、月白に用途を説明して、お願いすれば多分、もらえる。普通なら一番手に入りにくいものだと思うが。
問題はその他の手に入りにくい素材だ。手に入る物は既に用意してサイプレスに渡している。
「第二王子がふらりと魔物狩りはマズイよな」
一狩り行こうぜとなれないこの身分が時々、恨めしい。役に立つ時は役に立つが、身分で雁字搦めになることが多くて、厄介に思う。もう少し自由に動きたい。王太子や国王よりはまだマシだが。
禁書に載っていた素材を書き写したリストを見つめながら、呟く。
『ヴァーミリオン、何が一狩りなんだ?』
ふわりと後ろから俺の頭を撫でながら、俺の父になるはずだった聖の精霊王は神出鬼没にやって来る。
「あ、父様。ちょっと素材集めが必要で……」
『ああ、魅了魔法を可視化出来る魔導具のか』
俺が持つ素材リストを、顔を近付けて月白が見る。
顔が近い。俺と似た女顔だから、少し動揺する。
『ふーん。俺の魔力を宿した魔石、ね。これはすぐに渡しても構わないぞ、ヴァーミリオン』
「本当ですか?! ありがとうございます」
ちょうどお願いしようと思っていたところだったから、嬉しくて満面の笑みを浮かべると、月白の顔が赤くなった。
『……俺も人のことは言えないが、あまりその笑顔を他人に見せるなよ』
「う、すみません……。嬉しくてつい……」
『いや、俺としては、息子に笑ってもらえるのは嬉しいんだ。ただ、気を付けて欲しいだけだ』
「き、気を付けます」
『それで、話を戻して、素材のことだが、俺の魔力を宿した魔石以外だと何が足らないんだ?』
俺の頭をぽんぽんと優しく叩きながら、月白は尋ねる。
「バイコーンの角、セイレーンの涙、妖精の鱗粉です」
『幻惑、誘惑、変幻……見事に精神干渉系の素材だな。妖精の鱗粉なら、ローズに頼めばもらえると思うぞ?』
「え、ローズ伯母上ですか?」
『ああ。ローズの召喚獣は妖精女王ティターニアだからな。魅了魔法を可視化出来る魔導具を作るためと理由を言えば、協力してくれると思うぞ』
妖精と書いてあるのに、妖精女王って過剰じゃない?
そんな顔をしていたのか、月白がニヤリと笑う。
『魔導具を作る際のコツだが、成功率を上げるなら上位の素材で作るといいぞ、ヴァーミリオン。これはあまり知られていないが』
「俺は授業もまだですし、魔導具の知識がないんです。興味はあっても紅やヘリオトロープ公爵達がさせてくれませんでしたから」
ヘリオトロープ公爵、セレスティアル伯爵はともかく、どうしてか、シュヴァインフルト伯爵まで魔導具に関しては止められた。
紅からも止められた。
俺にはまだ早い。もう少し待てと。
友人で相棒の召喚獣と師匠三人に全力で止められたから、仕方なく諦めた。知識に触れても問題なしと言われるまでは我慢した。
今は言われてないから、そろそろ解禁なのかなと思っている。
『当たり前だ。魔導具は魔法や魔力付与と比べて扱いづらい。それに、魔力操作はもちろん、魔法の知識、魔力付与の正確性、素材と素材の相性の見極め等、様々な知識が必要だ。だから、フェニックスもお前の師達も止めた。お前が賢いのは知っているが、魔導具作りに魅了されるとお前でも沼に嵌って戻れないかもしれない。とんでもない物が出来た時、封印しないといけなくなる』
……ん? その言い方は何故か、実体験のように聞こえる。
『……察しの通り、初代国王になる前に、ティアやローズ、フェニックス達に出会う前のグラファイト帝国にいた頃に魔導具をたくさん作ったことがある』
じっと見つめると、月白が目を逸らしながら溜め息混じりに教えてくれた。
「え、どんな魔導具ですか?」
『……魔法が使えるゴーレムや人工魔剣とかを少し……』
「……それは、魔導具なのですか?」
魔導具って何処から何処まで? と、思わずにはいられない俺は、父になるはずだった精霊王を見つめる。
『……まぁ、厄介なものを作ったから、機能を封印してからグラファイト帝国を出た時に粉々に壊した。置いておくと他国に厄介だからな』
うん、厄介だよ。
そのまま置いてて、その存在にグラファイト帝国が気付いたら、特に隣国であるカーディナル王国とエルフェンバイン公国が危険だ。
ゴーレムだけでも厄介なのに、魔法が使えるって……。
人工魔剣って、所謂、光の剣クラウ・ソラスやフラガラッハ、カラドボルグのそっくりさんだよね?
「……壊して頂いて助かりました。そのまま置いていたら、俺を含む、父様に連なる王族は生まれてなかったかもしれないので」
『本当にな。正直なところ、作った魔導具でグラファイト帝国を滅ぼす気だったからな』
本当に物騒だな、初代国王。どれだけ、グラファイト帝国に恨みがあるんだ。
「……どんな因縁なのか、ちょっと怖くて聞けないですね……」
『いつか話してやるよ。セイレーンの涙は水の精霊王に頼めばもらえるぞ』
苦笑しながら、月白がさらりと告げてきた。
「え? 水の精霊王、ですか? セイレーンの涙なのに? 水属性だからですか?」
『そうだな。セイレーンは水の精霊の、言葉は悪いが成れの果てだ。だから、水の精霊王からもらえばいい』
「セイレーンって、水の精霊の成れの果てなんですか? 初耳なんですけど……」
この数分間で衝撃なことを聞いた気がするのは、俺の気のせいだろうか。
「それに、水の精霊王に俺は会ったことがないのですけど……」
『そういえば、そうだったな。喚ぼうか?』
さらりと月白が友人を呼ぶような気楽さで俺に尋ねる。
「え?」
『近々、会わせるつもりだったからちょうどいい。ティアと一緒に喚ぶぞ。ティア』
「え??」
困惑気味の俺を差し置いて、月白は花葉の名を呼ぶ。
『リアン、喚んだ?』
きらりと小さく光が輝き、にっこりと嬉しそうに花葉が笑顔でやって来る。その隣には結わずに下ろしたままの紺碧色の長い髪、竜胆色の目の少女が立っている。彼女が水の精霊王なのだろうか。よく見ると、顔立ちが何処となく花葉に似ている。
『ああ、喚んだ。連れて来たということは、今の話を聞いていたな?』
ニヤリと月白が笑うと、花葉もにっこりと微笑む。
『あら、知ってて貴方もヴァーミリオンに話したのでしょう? 魅了魔法を可視化出来る魔導具が必要なのは確かなのだから、どのみち話さないといけないことだし』
言いながら、花葉はちらりと隣に立つ少女を横目で見る。
『それに、この子もヴァーミリオンに会いたくて、本当に仕方がなかったのよね?』
頬に手を当て、花葉は困ったように俺と、話の流れで多分水の精霊王と思われる少女を交互に見る。
『そ、そうですわね……』
そわそわしながら、少女は俺をちらちらと顔を赤くしながら見る。
『……は、初めまして、ヴァーミリオンお兄様。み、水の精霊王です……』
ぺこりと小さく頭を下げて、俯き加減で水の精霊王は俺に挨拶をした。
「あ、初めまして。ヴァーミリオンです。ん? お兄様?」
『はい、わたくしの、お兄様です……』
『そうだな。この子は俺達の四人目の子供で、お前の妹になる予定だった』
月白が恥ずかしがる水の精霊王の代わりに教えてくれた。
「妹、ですか?」
まじまじと水の精霊王を見る。
前世でも姉と妹がいて、今世ではハーヴェストやアテナといった姉と呼ぶ人ばかりで、妹と呼ぶ人がいなかったので、何だか新鮮だ。
前世にはいなかった、兄は生まれた時から、弟は数ヶ月前に出来ましたが。
『そうよ。末っ子で、一番目と三番目の兄に溺愛されていたのに、二番目の兄に会いたくて仕方がなかった甘えん坊な娘よ』
にっこりと母の顔で微笑みながら、花葉は後ろから水の精霊王の両肩を抱く。
「そ、そうですか……。会って、幻滅したのではないですか?」
生まれる前に死んでしまったので、何と答えたらいいのか分からない。
なので、苦笑するしかなかった。
『いいえ……わたくしもお父様とお母様と一緒にお兄様が生まれた時から見ていましたので、幻滅してません。むしろ、わたくしのお兄様として、五百年前に生まれて欲しかったですわ……!』
見てたんかい。
やましいことはした覚えはないが、こうも色々な人からずっと見られてると何とも言えなくなる。
五百年前のことは、俺としては申し訳ないとしか言えない。罪悪感はずっとあるし。
『だから、ずっとヴァーミリオンお兄様と言葉を交わしたかったのです』
小さく微笑み、水の精霊王が俺を見つめる。
あ、これ、また俺の召喚獣が増えるヤツだ。
既視感しかない。
『ヴァーミリオンお兄様。わたくしも、お父様とお母様や三番目のお兄様のように、ヴァーミリオンお兄様の召喚獣にして下さいませんか? あと、出来れば改まった言葉ではなく、普段の砕けた口調で構いませんわ。わたくし、妹ですもの』
あー、やっぱり、そうですよね……!
そんな気はしたよ。
これは俺に聞いているけど、拒否権のないヤツだ。
五百年前の関連は、もう俺には無条件に拒否権がない。
仕方がない。やらかしたのは俺だ。
企てたのも、実行したのも俺ではなく、花葉に毒と呪いを掛けた貴族令嬢だが。
「俺で良ければ、これから宜しく。水の精霊王」
右手を差し延べ、穏やかに微笑む。
『はい! こちらこそ、宜しくお願い致しますわ、ヴァーミリオンお兄様。でも、わたくしには名前は付けて下さらないの?』
そうですよねー。名前を考えるのは恒例だよね。
なので、じっと水の精霊王を見る。
水の精霊王の目の竜胆色もやっぱり綺麗だなと思う。
「言うと思ったよ……。名前は
花の名前ではあるけど、色の名前でもある彼女の目は、光に当てるととても綺麗に輝いている。
いつも俺の召喚獣になってくれる彼等の名前を考える度に綺麗だな思う。
『竜胆。お花の名前にもありますわね。好きなお花の一つなので、とても嬉しいです』
嬉しそうに水の精霊王――竜胆が微笑む。
花言葉は一般的な方をイメージしたから、他のは考えないでねと言った方がいいのだろうか。
深いところで繋がったから、今更かもしれないが。
『わたくし、ヴァーミリオンお兄様とお話が出来て、とても嬉しいですわ。でも、一番目のお兄様が可哀想ですわね……』
竜胆のその一言で、あ、と思った。
思わず、声も漏れる。
これ、初代国王家族を召喚獣にしちゃうフラグじゃないだろうか。
きっと、初代国王の一人目の子供も精霊王になってると思う。
萌黄は次期だけど、風、水、闇、光、聖の精霊王は俺の召喚獣だから、火と地、無の精霊王のどれかが初代国王の一人目の子供だと思う。
『察しが良いな、ヴァーミリオン。俺達の一人目の子供は火の精霊王だ』
俺と召喚獣は深いところで繋がっているから、月白がニヤリと笑う。
二回目だけど、そうですよねー。
溜め息が思わず漏れる。
何で、初代国王の家族が全員、精霊王なのだろうか。
本人に聞いてはいないけど、多分、ハーヴェストの配慮なんだと思うけど。
五百年前に俺が生まれる前に死んでしまったから、家族になれなかった彼等を精霊王にすることで俺に会わせたのだと思う。
俺の半身は、俺に甘い。俺も、俺の半身とウィステリアに甘いけど。
『ついでに喚ぶか。一人だけ放置は流石に可哀想だからな』
『そうね。しっかりした良い子だから、つい、甘えちゃうけど、ヴァーミリオンに一番会いたかったのはあの子だしね。生まれた時から一番見ていたのもあの子だし』
月白と花葉が父と母の顔で微笑む。
『わたくしが喚びますわね。お兄様!』
竜胆が声を掛けると、小さな炎が宙を舞った。
炎が舞ったと同時に、ひらりと深緋色の髪、東雲色の目の色をした月白や俺より少し男性寄りの美青年が現れた。
……何だろう。
今世の兄といい、どうして俺の兄にあたる人は女顔ではなく、精悍だが、整った綺麗な容姿なんだろう。
無いものねだりだし、兄達にとっては不可抗力なのは分かってるが。
火の精霊王は俺を見た途端、ふわりと微笑んで、抱き着いてきた。
兄のセヴィリアンの溺愛の仕方に似てる。
『やっと会えた、ヴァーミリオン!』
「は、初めまして……」
切ない、悲痛な火の精霊王の声を聞き、俺はそれしか言えなかった。
『……冷たくない……』
俺にしか聞こえないくらいの、恐らく無意識に漏れた火の精霊王の小さな声が、ひどく切なくて、罪悪感に支配される。
この人は、生まれる前に死んでしまった俺を抱いたことがあるのだなと悟る。
『ヴァーミリオン。五百年前、君の兄になるはずだった者だ。今は火の精霊王をしている』
火の精霊王は固い言葉とは裏腹に、嬉しそうにへにゃりと笑う。
『……単刀直入だが、俺も、君の召喚獣にしてもらえないか?』
「え、はい。宜しくお願いします」
もう拒否権はないのは分かっているので、素直に頷いた。
『それで、その、俺も名前を付けてもらえないだろうか?』
気恥ずかしげに火の精霊王は目を逸らしながら、俺に言った。その仕草は月白そっくりだ。
親子だな、とふと思う。
そして、再び、恒例の名前考えタイムが始まる。
火の精霊王をじっと見る。
月白と俺の髪の色と白色が混ざったような、ピンクとは違う、火の精霊王の東雲色の目が綺麗だなと思う。
「
『東雲か。良い名だ。ヴァーミリオンが考えた名前だからとても嬉しいよ。ありがとう。これから宜しく』
火の精霊王――東雲は穏やかに微笑んで、俺を見つめた。
本当に兄のセヴィリアンと同じだ。
「は、はい。宜しくお願いします……」
兄の溺愛と同じ匂いがする東雲の微笑みが、照れ臭くて居た堪れない気持ちになりつつも、俺も小さく笑う。
月白やタンジェリン学園長に何度も気を付けるように言われていた、上目遣いと微笑みをついしてしまい、東雲と彼の隣にいた竜胆からひぇっ、と小さな悲鳴が聞こえた。
しかも、膝から崩れた。
『……ヴァーミリオン、だから気を付けるようにと俺は言ったんだがなぁ……』
『二人共、間近で見たのは初めてだから、免疫ないものね……』
溜め息を吐く月白と、困った顔の花葉が呟く。
「すみません……そんな気は全くなかったのですが……」
『ヴァ、ヴァーミリオンの笑顔が間近で見られて、俺は嬉しいよ……』
東雲が爽やかな笑顔で、拳を握り、親指を立てて上に向ける。
やっぱり、兄のセヴィリアンと同じにしか見えない。カーディナル王家の血筋は、弟を溺愛するのが遺伝しているのだろうか。
『わたくしもヴァーミリオンお兄様の笑顔を近くで見られて、本望です……』
竜胆はミモザみたいなことを言ってて、ちょっと心配になった。
あれ、エクリュシオ家というか、ホルテンシア家って、カーディナル王家の血って流れていたっけ?
『ただ単に、娘は拗らせてるだけだと思うぞ、ヴァーミリオン』
俺の思考が流れていたらしく、月白が紅のように突っ込んだ。流石、元相棒。
そこで、ふと本題の魔導具の素材のことを思い出した。
「あ、そういえば、竜胆にお願いが……」
『何でしょう? ヴァーミリオンお兄様』
竜胆が目を瞬かせて、俺を笑顔で見る。
「魅了魔法を可視化出来る魔導具を作るために、素材でセイレーンの涙が必要なんだけど、もらうことは出来る?」
『もちろんですわ。わたくしの魔力を込めた水が、セイレーンの涙の代わりになりますわ。今までのヴァーミリオンお兄様の状況は知っていますから、利用用途は仰らなくても大丈夫ですわ。作る際に仰って下さい。いつでも出しますわ』
花葉とタンジェリン学園長に似た笑い方で、竜胆が微笑む。流石、親子で姪と伯母だ。
「ありがとう。とても助かるよ。あの、父様、紫紺も喚んでもいいですか?」
流石に、初代国王の家族勢揃いなのに、紫紺を喚ばないのは本当に可哀想なので。
『もちろん。不公平なことはしないし、ちょっと色々あったが、あの子も俺達の息子だからな』
「良かったです。紫紺」
月白の様子を見て、何があったのかは聞かない方がいい気がしたので、そのまま触れずに紫紺の名を喚ぶ。
『よ、喚びましたか。ヴァーミリオン兄上……』
深いところで繋がっているから状況が分かっているのに、紫紺は居た堪れないのか、俺を見つつ、他の四人には目を合わせずにいる。
しかも、徐々に俺に近付いて来る。
まるで、背丈は俺より高いが、小さな弟のようだ。
何だ、どうした、闇の精霊王。もとい、弟。
「うん、初代国王の家族が揃ったから、紫紺も喚ぼうと思って。迷惑だった?」
『いえ……。その家族の中には、ヴァーミリオン兄上も入ってますよね?』
「え、うん。そうだね……。俺だけ、王家の家族が二つあるけど……」
ついでに言うと、どちらの家族も空気感が似ているから、違和感はあまりない。
罪悪感は凄くあるが。
『……何度も言いますが、ヴァーミリオン兄上のせいではありません。悪いのは顔は見たことがないですが、貴族令嬢です。ヴァーミリオン兄上も被害者なので悪くありません。むしろ、ヴァーミリオン兄上が助けてくれたから、俺も、妹も生まれたのです。そうではなかったら、母上は命を落とし、俺も妹も生まれてませんでした』
『そうですわ。えっと、紫紺お兄様の言う通りですわ。ヴァーミリオンお兄様がお母様を守って下さったから、紫紺お兄様もわたくしも生まれたのです。もちろん、その時にヴァーミリオンお兄様がいらっしゃったら、尚良かったのですが』
竜胆が慰めるように俺の手を取り、微笑む。
精霊王になる前の名前ではなく、俺が付けた紫紺の名前を呼んで、彼にも微笑む。
『俺はヴァーミリオンが生まれて欲しかったけど、命を掛けて守った君の代わりに、母上と弟や妹を父上と一緒に守るとあの時、決めたんだ。その時に、もし、今後、ヴァーミリオンの魂が生まれることがあったら、今度こそ俺が守るって決めていたんだ。君が生まれた時に、本当はすぐ召喚獣になるつもりだった。父上に重いと止められたが』
東雲の話を聞きながら、ちらりと月白を見る。
どっちもどっちだと思う、と言ったら怒られるかな。
見られてたのは恥ずかしいが、それでも俺を心配してくれたり、見守ってくれていたのは素直に嬉しかった。
ウィステリアのことを妄想していたところも見られていたかもしれないと思うと、辛いが。
「そうだったのですね。見守ってくれて、ありがとうございます」
それしか言えなくて微笑むと、東雲、紫紺、竜胆が抱き締めてきた。
『俺達は、ヴァーミリオンの兄弟だから、困ったことがあればすぐに相談して欲しい。頼ってくれると嬉しい』
兄弟、と言われて、戸惑いと嬉しさ、罪悪感等の感情がない交ぜになって、抱き締められたままの俺の身体が固まる。
『俺達兄弟、家族はヴァーミリオンの味方だから。ヴァーミリオンがどんな選択をしても、俺達兄弟は絶対に裏切らない。だから、何かあればすぐに頼って欲しい』
東雲の言葉に、違和感を覚える。
紅と月白にしか話していない、俺の今後の動きを知っているのだろうか。
「分かり、ました……。あの、ありがとうございます。し、東雲兄様、紫紺、竜胆……」
兄上と言うと、セヴィリアンと混同すると思い、兄様と言ってみたのだが、恥ずかしさが上回り、俯き加減に言ってしまった。ツンデレか。
ただ、俺の兄様呼びは強い攻撃力だったようで、東雲が固まってしまった。
『…………』
「あの、呼び方、変えた方がいいですか?」
抱き締めたまま固まった東雲から離れ、彼の様子を窺う。
兄さんの方が良かったか? チョイス間違えた?
不安に思っていると、再起動した東雲が首を横に高速に振った。目眩はしないのだろうか。
『いや、兄様が良い。兄上やお兄様はあるが、兄様呼びは新鮮だ。兄様と呼んで欲しいな、ヴァーミリオン』
『良かったですわね、東雲お兄様。念願のヴァーミリオンお兄様からの敬称ですわね』
ニヤニヤと誂うように竜胆が東雲に言う。
そこは月白にそっくりだな、竜胆。
『報われましたね、兄上』
紫紺も珍しく追撃している。兄弟関係は良好のようだ。
『う、そうだな……。ヴァーミリオン、今後は色々と話そうな』
兄のセヴィリアンのように俺の頭を撫で、東雲は微笑んだ。
「はい……」
俺も東雲に釣られて微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます