【Side 7】後悔と怒り(○○視点)※少し残虐ありかもしれません。

 何度も後悔をしている。

 後悔をする度に、怒りが沸く。

 誰に対して?

 母と姉と呼ぼうとしていた者に。

 俺と、大切な俺の半身、大切な最愛、大切な友人達を苦しめる、母と姉と呼ぼうとしていた者達に怒りが沸く。

 自分の力の影響で、俺はどうしても魔に堕ちない。

 もし、魔に堕ちたら、あの母と姉と呼ぼうとしていた者達を潰せただろうか。

 後悔と怒りが沸く前に、潰せただろうか。

 答えは分からない。

 魔に堕ちないから、何度も、たくさん考えても、答えは出ない。

 ……不毛だからやめよう。





 今の俺は、始まりのところだ。

 あと、少しすると、最愛の少女に出会う。

 最愛の少女に出会う度に、胸が躍る。

 何回、何十回、何百回、何千回とループを繰り返すが、ループしても、彼女との出会いで感じる、俺の気持ちだけは変わらない。

 愛おしい。ただ、ただ、愛おしい。触れたい。抱き締めたい。

 俺に向けてくれる笑顔もだが、側にいてくれるだけで、嬉しい。

 どうにか、このループを止めたくて、変えたくて、最期のところや途中を変えようとした。


 それでも、結末は一緒だった。


 姉と呼ぼうとしていた者とそっくりに似せた者に、最愛の少女を守るために庇った俺が命を落とし、その次に彼女の命が失われる。

 度重なるループを繰り返しても友人になってくれる、親友と呼んでいる彼も、その親友の最愛の彼女も、俺と最愛の少女の仇討ちと言って、姉と呼ぼうとしていた者とそっくりに似せた者に挑む。

 そして、二人共、命を失われる。

 魂になった状態でも、俺はその光景を何度も見せられる。

 魂が絶望や怒りの色に染まっても、自分の力の影響で元に戻される。

 守護と再生の権能は厄介だ。

 どちらもマイナスに働くと、枷になる。

 守護はを維持し、再生は絶望や怒りに染まっても、に戻す。

 ループの記憶だけが、積み重なっていく。

 その権能で唯一、プラスに働いてくれたと思ったのが最愛と友人達にだ。

 彼女達はこのループを覚えていない。

 俺だけが覚えている。

 それだけが俺にとっては救いだ。

 こんな辛い思いをするのは、俺だけでいい。

 だからといって、あの母と姉と呼ぼうとしていた者達を許す訳にはいかない。

 母と呼ぼうとしていた者は、俺と俺の半身を騙し、引き裂いた。

 姉と呼ぼうとしていた者と比べて、双子として生まれるはずの俺達が、権能を二つ持っていたからだ。二つある時点で、姉と呼ぼうとしていた者より上位の神だから。

 母と呼ぼうとしていた者も権能は一つで、俺と俺の半身より下位だった。

 姉と呼ぼうとしていた者を、母と呼ぼうとしていた者は可愛がっていた。生まれてくる俺達が、自分達より上位の神だったから、姉と呼ぼうとしていた者が余計に可愛かったのかもしれない。

 他の神達も言いくるめて、母と呼ぼうとしていた者は、俺と最愛、友人達の魂の一部を抜き取り、俺の半身を騙して、このループだけの世界を作らせ、閉じ込めた。

 姉と呼ぼうとしていた者に、俺の魂を一部ではなく、全てを渡すための準備として。

 これを知っているのは、俺と俺の半身だけだ。

 知ったのもごく最近。

 俺と俺の半身に、三つ目の権能があることを知ってからだ。


「リオン、大丈夫なの?」


 不安げに俺を俺の半身が見つめる。

 ループが始まる前の、合間。

 終わった後、始まりに戻る前の僅かな隔たり。隙間。今がその時で、精神的に疲弊している俺は少しでも休めるように椅子に腰掛けて、目を閉じようとしていたところを、俺の半身が声を掛けてくる。


「そう言う君こそ、ここに来て大丈夫なのか、ヴェル」


 ループだけの閉じられた世界に、別の世界を創造した女神が来るのはマズイ。

 特に、このループだけの閉じられた世界は、他の世界とは違い、ちゃんとした世界ではない。

 この世界は俺と、大切な最愛、大切な友人達の魂の一部と、姉と呼ぼうとしていた者とそっくりに似せた者しかいない。

 その他の生命はなく、ただ繰り返すだけの世界だから、他の者が来ると弾かれる。

 だから、この世界を知る者がいても、誰も手は出せない。


「……わたしは、この世界を騙されたとはいえ、創った女神だから、少しなら大丈夫」


 苦笑しながら、俺の半身が俺に近付く。


「そうか。権能を交換しに来たのか?」


「うん……。過去視で今までの状況も確認出来たから、次は未来視を使えるようにしておきたいの。人間の方のリオンを守らないと、神の方のリオンを守れない」


「確かに、人間の俺が死ねば、俺も死ぬ。それこそ、あいつらの思い通りになる。でも、流石、俺の本体。ヴェルからの助言もあるとはいえ、真実を知らないのに、よく見て、動いてる」


 俺は人間のヴァーミリオンの魂の一部だ。

 神としての部分を権能と共に、人間のヴァーミリオンから切り離された。

 そうしないと、姉と呼ぼうとしていた者が俺の魂を手に入れられないから。

 俺の権能は姉と呼ぼうとしていた者にも、母と呼ぼうとしていた者にも厄介だから。

 切り離されても、同じ魂だから、人間のヴァーミリオンの記憶も感情も考えも全て分かる。伝わってくる。

 逆に神としての俺の記憶も感情も考えは、あちらには伝わらない。

 母と呼ぼうとしていた者が妨害しているからだ。

 そう思考の中にいると、俺の三つ目の権能が勝手に働いた。


「……ヴェルが未来視を使うなら、人間の俺のことも安心かな」


「……どういう意味?」


「今、未来視で視えた。もうすぐ、この世界は消える」


 俺の言葉に、俺の半身が目を見開いた。


「人間の俺が、この世界の存在に気付いた。気付いてくれた。そのおかげで、やっと解放される」


 この世界は時間の流れが、他の世界と違う。

 こちらで動いたとしても、人間のヴァーミリオンがいる世界では、大体の計算で二ヶ月後から一年くらいの差が出る。

 それを人間のヴァーミリオンは、夢で見ることで無意識に時間の流れを飛び越えた。

 神である部分が多い俺からすると、人間のヴァーミリオンは面白いなと思う。


「待って。それだけで、この世界が消える訳がないわ。どんなに頑張っても出来なかったのに!」


「ヴェル。俺の権能は何?」


「何って、守護と再生、それに過去視と未来視をわたしと交換……。待って。まさか、人間のリオンが、権能を使ったの?」


「無意識にね。夢で未来のリアを視たことで俺に気付いた。守護で俺とリア、ディル、オフィの魂の一部を守ろうとし、再生でそれぞれの魂に戻そうとしているみたいだ。本人は分かってないけど、無意識は凄いな。母と呼びたくないあいつの妨害をさらりと越えてきた。これなら俺も、リア達を守れる。一つの魂に戻れば、俺の残りの全てを共有出来るし、権能も力も渡せる」


 今まで感じたことがない、癒やし、安堵の気持ちが広がる。人間のヴァーミリオンが無意識に権能を使ったことで、プラスに働いてくれたようだ。


「その分、人間の俺には負担が大きいから、しばらくは動いたりは出来ないだろうけど、それでもこれから、あいつらの思惑を出し抜ける」


 俺の言葉に、俺の半身が嬉しそうに微笑む。


「良かった……。どちらのリオンもわたしの半身だから、どちらも辛い目に遭うのは見たくなかったから、この世界をどうにかしたかった。それがやっと解放出来るのは嬉しい。あとは、人間のリオンを助けるだけ」


 俺に抱き着き、俺の半身が涙をぽろぽろと流す。

 心優しい俺の半身の頭を撫で、やっと俺も微笑む。


「戻る前に、権能を交換するよ。俺が過去視、ヴェルが未来視でいいか?」


 そう尋ねると、俺の半身が頷く。彼女の手に触れ、権能を交換する。

 双子だから、出来ることだ。


「母と呼びたくないあいつは、俺とヴェルのこの権能に気付いているのかな」


 ふと思ったことを呟く。

 俺と俺の半身の三つ目の権能は、未来視と過去視。双子だからなのか、お互いのこの権能は交換が出来る。守護と再生、創造と豊穣は交換出来ないが。

 おかげで、俺も俺の半身も真実を知った。

 やらかしまくった、諸悪の根源である母と姉と呼びたくないあいつらのことは他の神達に俺の半身が伝えてくれた。

 三つ目の権能の過去視で視せた。

 その母と呼びたくないあいつの権能は、未来が視えること。

 俺達の三つ目の権能の未来視の劣化版だ。

 全てが視える未来視と違って、劣化版は未来のいずれか一つか二つ程度しか視えない。それも、視えるだけ。他人に視せられない。


「答えは視えたでしょ。知らないって」


 俺の半身の言葉に、苦笑で答えるに留めた。

 そこで、ポケットから金と銀で出来た金属の帯で編まれ、紅色の石が付いたブレスレットを取り出す。


「ヴェル、これをリアに渡してくれる? 出来れば、リアが覚醒した直後に」


「さらりと言ったけど、覚醒の直後なの? 渡すのは構わないけど……」 


「タイミングとしては、そこがヴェルがリアに会いやすいタイミングだと思うけど? 覚醒した直後なんだから」


「そうだけど……。もしかして、魂も覚醒の時に戻るということ?」


「そうみたいだ。良いタイミングだよ。違和感なく戻れる。もちろん、俺も」


 小さく微笑む。神としての部分を切り離された俺は、本体である人間のヴァーミリオンの魂に戻りたがっている。

 だが、この世界の長いループで感じた絶望も怒りも、まだ十五歳の、人間のヴァーミリオンにまで味合わせる訳にはいかない。

 魂の一部とはいえ、神としての部分を渡すだけ渡して、人間の俺に丸投げにはしない。

 これからは魂が一つになるのだから、共に背負う。

 やらかした母と姉と呼びたくないあいつらをもう、野放しにさせない。

 人間の俺と、最愛達の魔法学園の卒業までに終わらせる。

 最愛達には幸せになって欲しい。

 それには俺の権能や力、ループの経験は役に立つと思う。

 腹立たしいことだが。


「……分かったわ。貴方のお願いだもの。ちゃんとウィステリアに渡すわ。ついでに、わたしの創造の権能で守護の石をもう一つおまけしておくわ」


 そう言って、俺の半身は濡羽色の石を創造し、俺が作ったブレスレットに付ける。


「過保護だな」


「リオンに言われたくないわ」


 口を膨らませて、俺の半身が上目遣いに睨む。

 珍しい仕草に驚く。

 人間の寿命どころか、俺の半身が世界を創った時から俺はこの世界に閉じ込められていた。

 この世界はループだけの世界だから、時間の流れが他の世界と違う。流れが遅い。

 それでも長い間、この世界に閉じ込められ、なかなか俺の半身に会うことが出来なかった俺がやっと解放されて、気が緩んだのかもしれない。

 ずっと俺の半身には苦労させてしまったから、強くは言えない。


「リアにもヴェルにも、ディルとオフィにも俺が過保護なのは認める」


「……十五歳の人間のリオンより大人なのに、愛情表現がストレートよね。母と姉への憎しみもだけど」


「人間の俺と記憶も感情も考えも繋がっているとはいえ、経験と対人関係がこのループでしかないのだから無理な話だ。ああ、でもリアに対する愛情表現なら、人間の俺より引き出しがあると思う」


 ループだけの世界で、このループを止めたくて、変えたくて、最期のところや途中を変えようとした。その時々に、俺の最愛に対する愛情表現を何度も変えた。

 反応は滅茶苦茶可愛かった。


「神でも人間でも、リオンはリオンだったわ。安心というか、何というか……」


 俺の半身が呆れていると、不意に気付いた。

 周りの風景が溶け始めた。


「……この世界が消えるみたいだな」


 俺の最愛と親友、親友の最愛の魂の一部が、在るべきところへ帰っていくのを感じた。

 一安心だ。

 俺も人間の俺の元に戻るのだろう。

 その前にしないといけないことはあるが。


「リオン。貴方が人間のリオンの元に戻ったら、一度、様子を見に行くから」


「しばらくは寝込んでいると思うけど、待ってるよ」


 笑顔で頷くと、俺の半身も同じ笑顔でこの世界から、神界へ帰っていった。


「……帰る前に、この世界が消える前に、試してみようか」


 俺の半身が帰ったのを確認し、俺はこの世界の中心へ向かう。

 ループが始まり、途中で遭遇するはずの、姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者がそこにいる。

 まだ遭遇しない時だからなのか、姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者は、俺を見て、驚きの表情を浮かべる。

 度重なるループで、俺自らこいつに会いに行こうとしなかった。

 何回目かのループで、遭遇した瞬間、こいつを消そうとしたが、この世界によってそれは防がれた。

 まだその時ではないと、意思があるかのようにこの世界から告げられた。

 それなら、いつなら良い?

 機会を探り、考えられるパターンを何度も試した。それでも無理だった。

 そして、今回。

 この世界が消える。

 機会なら今だ。

 こいつも、姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者だ。俺達のようにそれぞれの魂の一部ではないが、あいつの肉塊の一部で作られた人形だ。

 それが、姉と呼びたくない者の元に戻ってしまうと、要らぬ情報が渡る。

 それは人間の俺が不利に回る可能性が起きる。

 不安の種は潰すに限る。


 そして、何より、俺はこいつを許さない。


「ヴァーミリオン? わたくしの、いえ、貴方のお姉様のところに来てくれたの?」


 白磁色の長い髪を揺らし、首を傾げてくる。黒ではない、暗黒色の目をした姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者が俺を期待に満ちた目で見てくる。

 気持ち悪い。

 俺の最愛が同じ仕草をしたら可愛いが、こいつにされても何も感じない。

 目の前のこいつに感じるとしたら、怒りと不快な感情くらいだ。


「……五百年、待った。この不毛な世界で、お前に何千回、それ以上殺された。一度くらい、反撃しても誰も咎めないよな?」


 目の前のこいつの問いには答えず、右手に力を込めると、パキリと指の関節が鳴った。

 実際は五百年ではない。

 この世界はループだけの世界だから、時間の流れが遅い。人間の俺がいる、俺の半身が創った世界の時間に換算するとざっと千年。

 この世界で五百年、我慢した。

 神の中でも、辛抱強い、我慢強い部類ではないだろうか。

 記憶を見る限り、人間の俺も我慢強い方だと思う。最愛に対して。


「え? どうして、そのようなことをするの? わたくしは貴方には何もしていないわ? お姉様はヴァーミリオンが欲しいのに、どうして殺さないといけないの?」


 尚も、首を傾げて、姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者が眉を寄せる。

 ループの度に俺以外は覚えていないとは思ったが、やはりこいつも覚えていなかった。

 腹立たしい。

 やった側は覚えていないが、やられた側は覚えている。

 特に、俺は。


「――ああ、そうか。お前もこの世界の記憶は引き継がないんだったな。失念してた。じゃあ、俺の権能で再生してやるよ」


 パチンと指を鳴らす。

 時間の流れは違うが、五百年分のこの世界のあいつの記憶だけを再生してやる。

 姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者が大きく目を見開いて、記憶が再生されたのか、歪んだ笑みを俺に向ける。


「……ふふ。どうして、忘れていたのかしら。貴方を殺して、何度も、何度もその綺麗な魂を手に入れたのに、すぐにわたくしの手から滑り落ちる。その喪失感をたくさん味わったのに。どうして忘れていたのかしら? でも、今日、貴方を完全に手に入れられるのね。そのために貴方から来てくれたのでしょう? ヴァーミ」


 最愛も半身、親友、親友の最愛、人間の俺の周囲の人達でさえ言わない愛称を口にして、姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者が歪んだ笑みを尚も浮かべる。

 もう少しマシな愛称を考えればとも思うが、それでまた新しい愛称で呼ばれるのも嫌なので言わない。


「まさか。誰が好き好んでお前のところに行くか。この世界が消える前に、たった一度の反撃をしに来ただけだ。それと、その気持ち悪い愛称で俺を呼ぶな。穢れる」


 溜め息を吐き、少し長い前髪を掻き上げる。

 人間の俺とは違い、俺の髪の色は俺の半身と同じ濡羽色だ。目は人間の俺と同じ色。

 目の前のヤツと同じ色を纏ってなくて良かったと、今更ながらに思う。

 同じ、母と呼びたくない者から生まれたのに、色が全て違う。

 似ているのは双子の俺の半身だけ。

 目の前の者は姉と呼びたくない者の偽者だが。


「照れなくてもいいのよ、ヴァーミ。この愛称はわたくしが考えた、わたくしだけの貴方の呼び名だもの。今後も呼ぶに決まっているわ」


「ネーミングセンスが絶無だな。俺が知る、五番目に嫌いなヤツでも、まだマシな愛称を考えて呼んでいた。お前、それ以下だな」


 その五番目に嫌いなヤツは、人間の俺の前世の記憶で視た、ゲームのヒロインだ。ヴァーと呼んでいたから、どっちもどっちな愛称だが。


「どうして、お姉様に酷いことを言うの? わたくしはヴァーミのお姉様なのに。貴方は優しくて、そんな酷いことを言う子じゃないわ」


「勝手に俺の偶像を作るな。酷いこと? お前の方だろ。俺達に散々やっておいて、どの口が言う?」


 冷たい笑みを浮かべると、姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者の表情に怯えが滲む。


「――フラガラッハ」


 神だけが持つ属性と俺の魔力に耐える、人間の俺が持つ光の剣クラウ・ソラスに似た形状の剣の名を喚ぶ。

 飾るためのものではなく、武器として戦えるように落ち着いた飾りが鍔にあり、鍔の中央には俺の髪と同じ濡羽色の宝石が嵌め込まれてあり、柄は黒紅色で、柄頭にも同じ濡羽色の宝石が嵌め込まれている。鞘は艶のある滅紫色で先端に鍔と同じように濡羽色の宝石が嵌め込まれている。

 柄を握り締め、鞘から抜くと、俺の魔力に反応して、銀色の刀身が明るい薄い赤――鴇色になる。


「――お前の最期の言葉は不要だ。聞くだけ無駄だし、俺の耳が腐る」


 剣の切っ先を姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者に向け、告げる。


「ひっ……」


 俺の魔力と、フラガラッハの魔力を当てられて怯え、がくがくと小刻みに震えている。

 剣を振り上げる前に、思い出したことを伝えようと思い、一度、剣を下ろす。

 命が繋がったと思ったのか、姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者は安堵の表情を俺に向ける。


「――ああ、そういえば。最期だから、お前に真実を伝えよう」


「えっ?」


 姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者が驚きの表情を浮かべる。


「お前は俺の姉ではない。俺はヴァーミリオンの魂の一部だから分身と言えば分身だが、お前は姉の肉塊の一部を使い、そっくりに似せた作られた存在。魂の一部でも何でもない。ただのニセモノだよ。そして、ここはループをするだけの世界。お前が欲しいと言っていた俺は分身でも神だが、お前は人形。人形如きが、神の俺を手に入れたとしても魔力に耐えられずに消滅する。手に入れても、手から滑り落ちるというのは的を射た言葉だな。よく分かっているじゃないか」


 だから腹立たしい。

 そんな人形如きに、俺達は幾度も殺され続けたのだから。


「嘘よ……! わたくしは女神よ! ヴァーミと同じ神で、貴方のお姉様よ! 嘘を言わないでっ!」


「――それなら、どうして俺の魔力に怯える? 俺のこの魔力は神だけが持つ属性、滅だ。アクア王国とグラファイト帝国では破邪と言われているようだが。まぁ、どのみちここでお前は消えるから、アクアや他のことを教えても関係はないか」


 わざとらしく息を吐き、剣の柄を握り締め、一歩前に進む。

 姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者は怯えた表情で、一歩下がる。開いた分、また近付く。


「神ではない、似ているだけの人形だから、本能的に俺の神の魔力に怯える。お前がもし、姉と呼びたくはないが、本当の姉だとしても、怯えるだろうけど。本当の姉も俺と違って権能が一つしかない。神としての格が違うし、同じ属性でも魔力の質も違う」


「やめて、ヴァーミ。ごめんなさい。わたくしが悪かったわ。お願い……」


 魔力を当てられ過ぎて、恐慌状態なのか、自分の足に引っ掛けて、姉と呼びたくない者とそっくりに似せた者が尻餅をつく。

 怯えた表情で涙を流している。

 そんな表情を見ても、俺には通用しないし、何も感じない。

 人形とはいえ、こいつはどれだけ俺の最愛達を苦しめた?

 何回目かのループで、俺の最愛と親友の最愛は必死にこいつに訴えてくれた。

 話し合えないのか、姉弟なのだから家族として側にいるのは駄目なのか、魂を手に入れても心は手に入らないのにそれでも欲しいのか、殺す意味があるのか等、色々な方向で訴え掛けたが通じなかった。

 そんな奴の話を、こちらが聞いてあげる必要はあるか?


「まぁ、そのホンモノも神から転落して、既に神じゃないから、どのみち俺の魔力に怯えるのは知ってる」


 尻餅をつきながらも、俺から離れようと後退る姿は滑稽だ。


「そろそろ、お別れだ。長い間、苦しめられたが、俺はお前から見たら優しいらしいから、一撃で仕留めてやるよ」


 フラガラッハの切っ先を一度、姉と呼びたくない者に似せた者にピタリと向け、振り上げる。


「……あ、ヴァ、お、あああ、や……っ!」


 がくがくと震え、姉と呼びたくない者に似せた者は言葉にならない声を上げる。


「――もう、二度と会うことはない。消滅しろ」


「ヴァーミ、いや、消え、たくな……」


「さようなら、おねえさま」


 この状況とは正反対の、穏やかな笑みを浮かべ、俺はフラガラッハを振り下ろした。

 身体に当たった瞬間、俺とフラガラッハの魔力が弾け、姉と呼びたくない者に似せた者の原型がなくなる。神だけが持つ属性の効果で、身体と血が霧散し、消滅する。

 姉と呼びたくない者に似せた者がいた場所を見つめ、剣に付いた肉片と血を払うと、それらも霧散して消滅する。

 完全に消滅したことを確認して、息を吐く。


「消滅しても、全てが終わっていないから、達成感は得られないな……」


『でも、やっと抜けられるじゃないか、リオン』


 フラガラッハから声が響く。

 剣の形から、ふわりと人間の俺と同じくらいの年頃の、少年から青年に変わる頃の姿になる。

 滅紫色の髪に一房だけ鴇色の髪、金色の目で、穏やかに俺を見る。


『この不毛な世界から君は抜け、やっと魂が一つになる。僕もここ以外の世界が見られる。ありがとう、リオン』


「俺は何もしていない。お礼を言うなら俺の方だ。ありがとう、フラガラッハ」


『君と一緒に人間のリオンがいる世界に僕も行くつもりだけど、人間のリオンは僕のことを選んでくれるかな?』


「それは何とも言えない。俺はヴァーミリオンの魂の一部とはいえ、神の部分が強いから、人間の俺と感覚が違うからどう答えるかは分からない。君は人間の俺に選んで欲しいのか?」


『神のリオンは僕のことを選んでくれた。人間のリオンにはクラウ・ソラスがいるけど、僕のことも選んでくれたら嬉しいなって。君と同じ魂だから、どんな感じなのか触れてみたいんだ』


 あどけない、少年のような笑みを浮かべ、フラガラッハは言う。


「人間の俺に問えばいい。その時には俺も一つになっているから、また君と共に戦えたら嬉しい。長い間、共に居てくれた相棒だから」


『人間のリオンの記憶が君から流れて来てたから知ってるけど、君も無意識に人を口説くよね。そういうところは同じ魂だね。だからこそ、人間のリオンにも選んで欲しいな。クラウ・ソラスは嫌がるかもだけど。選んでくれたら、どちらをリオンが使ってくれるか、クラウ・ソラスと喧嘩になるだろうね』


 面白そうに、いたずらっぽい笑みを浮かべ、フラガラッハは俺を見る。


『この世界ももう終わり。君がちゃんと終わらせた。次は人間のリオンが終わらせる番だ。僕は次の舞台も、神と人間の部分が一つとなった君と一緒なら、楽しく過ごせると思うんだ。だから、帰ろう。リオン』


 穏やかな笑顔と共に、フラガラッハが俺に向けて手を伸ばす。


「そうだな」


 フラガラッハが伸ばす手を掴み、消える世界を後にした。











 完全に消えた世界を覚えているのは、俺と俺の半身とフラガラッハだけ。

 やっと抜け出した世界に未練は全くなく、振り返ることなく、数多の世界を渡る。

 時間の流れが遅い閉ざされた世界から、俺の最愛達が在るべき場所へ帰ったのは二ヶ月前になる。

 ちょうど人間の彼等が魔力の覚醒をした時だ。

 姉と呼びたくない者に似せた者を殺し、閉ざされた世界が消滅したのは俺の感覚では先程だが、人間のヴァーミリオンの世界では二日経っている。

 本体の、人間のヴァーミリオンが生きる世界に引っ張られるように進む。

 帰りたがっているのが、分かる。

 だが、その前に、もう一つしておくことがある。


『君も何だかんだで心配性だね』


 俺がしたいことが分かったのか、フラガラッハは苦笑する。


「仕方がない。いきなり神の部分が戻ったら、眷属神も驚くだろう? 彼も巻き込まれた一人だから、挨拶くらいはしておくべきだろ」


『そうだけどね。まぁ、その眷属神も君を見て泣いて喜ぶんじゃない?』


「どうだろうか」


 人間のヴァーミリオンの記憶を視た限り、彼はそのような感じの者ではない気がするが……。

 人間のヴァーミリオンが生きる世界の、カーディナル王国の上空で、俺の眷属神が住む家を探る。

 神の目のおかげで、すぐ見つけたので、そこへ向かう。

 人間のヴァーミリオンの記憶で視た、俺の眷属神の彼はドラジェ伯爵の子息でロータスというそうだ。

 そのロータスの部屋に彼が居ることを確認し、ドラジェ伯爵邸の上空で止まる。

 気配を完全に消して、そのままロータスの部屋へ瞬間移動して降り立つ。


「――っ!?」


 突然、現れた俺を見て、読書をしていたロータスが椅子から転げ落ちた。

 心底驚いたようで、転げ落ちたままロータスが俺を見つめて、呆然と固まっている。

 人間のヴァーミリオンの記憶でも、こんなに驚いたロータスは見たことがない。

 何だか、申し訳なくなった。


「……えーっと、こんばんは? ロータス」


 生まれてこの方、閉ざされた世界で決められた人しか会ったことがないことを思い出し、人見知りのようなものが発動する。

 人間のヴァーミリオンの記憶や感情、考え方が繋がって、分かるとはいえ、対人の経験値が少ない俺はこういう時、どのようにしたら正解なのか即座に出て来ない。まさかの弱点が判明した。


「……ま、まさか、ヴァーミリオン様、ですか? 神の方の……」


 ロータスの方が立ち直りが早く、転げ落ちた体勢を整えて慌てて立ち上がり、震える声で俺の名を呼んだ。


「そうだな」


 そうだねと優しく言うつもりが、人見知りが発動してしまった俺は、偉ぶった神のような、傲岸な態度になってしまった。

 神だからって何だ。相手も神だ。


「……どうして、こちらに……。閉ざされた世界で、貴方は……」


 事情を知っているロータスはとても悲しげに、俺の身を案じるように見た。


「ああ、その世界なら先程、と言ってもここの時間軸だと二日前に消滅した。閉ざされた世界にいたウィステリア達の魂の一部も、ここの時間軸だと二ヶ月前、彼女達が覚醒した時にちゃんと元の場所に戻った」


 人見知り発動中のせいか、早口でロータスに伝える。左手に持つフラガラッハが笑っている。


「消滅……?! 何故ですか!? 元女神を片付けないと、あの世界はなくならないとハーヴェスト様の母君」


「――その名を呼ぶな。あれは俺にとっても、ハーヴェストにとっても母と呼びたくない」


 被せるように静かに告げると、ロータスが目を見開いた。


「呼びたくないとは、どういうことです?」


「ハーヴェストも他の神達に伝えたことだし、君にも伝えるよ、ロータス。手を、少しだけ貸してくれないか? それで分かる」


 そう言って、俺はロータスの前に右手を差し出す。

 ロータスはつられるまま、右手を出してくれた。

 その手を握り、俺の権能の過去視で生まれた時に起きたことから全てを視せる。

 全部視た後、ロータスが俺を見つめ、頭を下げる。


「……申し訳ございません、ヴァーミリオン様。まさか、このようなことになっていたなんて……。貴方の眷属神なのに何も知らず、のうのうとしていたなんて……。この体たらく、どのようにお詫びしたらよいか……! 私の命で宜しければ、すぐにでも……!」


「待て待て、落ち着け! ロータスが悪い訳ではないのに、無闇に命を終わらせようとするな。俺は別に気にしてない。詫びはいらない。むしろ、人間の俺をよく支えてくれてるから助かってる。君に感謝したいのに、命を終わらせると俺が困る」


 人見知りの発動を慌てて止めて、ロータスを労うように言う。


「気にしてないとは言ったが、それはロータスや他の神達のことであって、諸悪の根源である母と姉と呼びたくないあいつらには、しっかり落とし前をつける。だから、ロータスが命を終わらせる必要はない。初めて会った俺の眷属神がすぐいなくなるのは困る」


「そう仰って下さり、嬉しいです。ありがとうございます。あの、ヴァーミリオン様。閉ざされた世界が消滅したと仰いましたが、そこにいた元女神に似せた者はどうしたのですか?」


「俺が殺して、消滅させた」


「……え?」


 ロータスの目が点になった。

 この姿も、人間のヴァーミリオンの記憶でも見たことがない。

 今日はどうしたのだろうか。


「あの世界で五百年。この世界の時間で換算すると千年。俺達は殺され続けた。最期のところや途中を変えてみても結末は同じ。ループを覚えているのは俺だけなのが唯一の救いだった。三つ目の権能の未来視で、あの世界が消滅することが分かった。俺の大切な最愛達が解放されたのを確認して、偽者を殺して、消滅させた。偽者だが、元々は姉と呼びたくない者の肉塊の一部。消滅させないと、姉と呼びたくない者の元に戻ってしまうと、要らぬ情報が渡る」


「そういうことでしたか。同情の余地はないとはいえ、ヴァーミリオン様自ら手を下されるとは思いませんでした」


「あの世界のあいつには恨みしかないからな。こちらは何千回以上も殺されているのに、あちらは世界が消滅して、あっさり消えましたというのは割りに合わない」


 溜め息混じりに告げると、ロータスが苦笑した。

 この顔は、人間のヴァーミリオンの記憶でも見たことがある。


「あの、ヴァーミリオン様。三つ目の権能は、どういうものですか? いつ権能に気付かれたのですか?」


「三つ目の権能があることに気付いたのは、本当にここ最近だ。三つ目の権能は未来視と過去視。ハーヴェストと交換が出来る。今は俺が過去視、ハーヴェストが未来視を持っている。この権能のおかげで真実に気付いた」


 三つ目の権能が俺と俺の半身になければ、真実に気付かなければ、俺はまだあの世界で殺され続けていただろう。


「そう、でしたか……。凄い権能をまた持たれましたね。あの、今日こちらに来られたのは、私に会うためですか?」


「それもあるが、君に頼みたいことがある」


「何でしょうか? ヴァーミリオン様の御命令ならいくらでもお聞き致します。何でも仰って下さい」


 目を輝かせて、ロータスが俺を見つめる。

 人間のヴァーミリオンの記憶でも、本当にこのロータスも見たことがない。


「今、俺が話したことは人間のヴァーミリオンにはまだ言わないで欲しい。言うとしても、あの世界があるつもりで言って欲しい。何処で、誰が聞いているか分からない。どのみち、俺が人間のヴァーミリオンの元に戻れば、自ずと分かる。それまでは言わないで欲しい。それと、権能の使い方を彼に教えて欲しい」


「それは構いませんが、ヴァーミリオン様はどうなさるのですか? 一つにならないのですか?」


「もちろん、人間のヴァーミリオンの元に戻る。ただ、一つになるのに時間が掛かる。俺の神としての部分――権能や力、魔力、記憶、ループの経験は役に立つと思う。だが、ここの時間でいう千年分を人間のヴァーミリオンと混ざるのは時間が掛かる上に、魔力の覚醒以上に身体に負担が掛かる。しばらくは寝込むことが増えると思う」


 そう説明すると、ロータスは俯いた。


「そうですね……。そこは、本当に心苦しいところですが、私はどちらのヴァーミリオン様も大事なので、一つになって頂きたいと思います」


 確かに、ロータスが言っていることは理解出来る。

 今のヴァーミリオンは、人間と神で魂が分かれ、不完全だ。

 ただ少しだけ不安なのが、一つになることで「混ぜるな危険」にならないかということだ。

 それぞれが、それぞれで問題を解決するために、得た力がある。

 例えば、光の剣クラウ・ソラスとフラガラッハ。

 クラウ・ソラスは人間のヴァーミリオンの力に耐えられる。フラガラッハは神である俺の力に耐えられる。

 どちらも諸悪の根源を滅ぼすのに必要だが、力の均衡がカーディナルに偏るのではないかと、一応、神としては懸念ではある。

 だからといって、エルフェンバインの公子の、人間のディジェムやその他の者達にあげる訳にはいかない。

 どちらも大切な俺の相棒だ。

 あとは、召喚獣。

 人間のヴァーミリオンが助けたり、家族になるはずだった者達が強い力を持つ召喚獣としてついたことで、こちらも懸念ではある。

 客観的に見ると、人間のヴァーミリオンはやろうと思えば、持つ力で世界征服が出来る。

 神の俺から見ても、面倒だし、しないだろうが。


「……ヴァーミリオンの在るべき姿というのは果たして、神なのか、人間なのか。どちらだろうな」


 ぽつりと漏らす。

 つい先程まで、閉じられた世界にいた俺には答えが見つからない。

 人間のヴァーミリオンも、神の俺も、どちらに転がっても、最愛と幸せにひっそりと暮らしたいという望みは同じだ。

 邪魔が入らなければ、どちらでもいいと思う。

 だから、在るべき姿というのは俺には分からない。


「……以前、人間のヴァーミリオン様も似たことを仰っていました。ですので、私としては元々、貴方の眷属神として生まれる予定でしたから、神として配下になるのは何の躊躇いもありません。ただ、私にとっては貴方をお支え出来るのなら、神でも第二王子でもどちらでも構わないと思っています」


 穏やかな笑みを浮かべ、ロータスは俺に言う。

 蜜柑色のロータスの目が優しい。

 本当に人間のヴァーミリオンの記憶でも、この姿はほとんど見たことがない。


「ありがとう。一つになるのは決まっていることだから、一つになった後にどちらを選ぶか考えることにするよ。そろそろ、人間のヴァーミリオンの元に行く。魔力の覚醒が始まる。俺の眷属神に挨拶もお願いもしたから安心した。また会おう、ロータス」


「はい、ヴァーミリオン様。また王城へお伺い致します」


 臣下の礼をして、ロータスは微笑んだ。

 それを見て、ふと思ったことを口にした。


「あ、ロータス。一つお節介かもしれないが、そういう笑い方の方が、胡散臭い笑い方より君に似合ってると思う。そちらの方が俺は嬉しいな」


 そう言うと、ロータスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、固まってしまった。


「何か、変なことを言ったかな……」


『リオン、リオン。アレは完全に口説き文句だよ。君、閉ざされた世界に五百年も居たせいで、対人関係ほぼゼロだから、距離感がリアちゃんに口説いてるのと同じになってるよ』


 慌てて念話で、フラガラッハが俺に教えてくれた。

 そんなつもりはないが、口説いてることになるのか。それは俺の最愛に勘違いされてしまう。

 言い方を訂正しようと慌てて口を開こうとすると、ロータスの方が回復が早かった。


「これは私なりの処世術のつもりでして……。私の家族や友人にはこの笑みを見せていました。人間のヴァーミリオン様にも時折お見せしていたのですが……。分かりました。今後はヴァーミリオン様には常にお見せします」


 顔を赤くして照れながら、ロータスが早口で捲し立てた。


「すまない……。閉ざされた世界で限られた、決められた人達しか会話をしたことがないから、口説いたつもりはなくて、思ったことを口にしただけなんだ。無理しなくていいから」


「いいえ! 私の主であるヴァーミリオン様からのお願いです。叶えるに決まってます」


 ぐっと拳を握り、ロータスの目が輝いた。


「ですが、人間のヴァーミリオン様と一つになるのでしたら、今後は神のヴァーミリオン様の部分も現れる可能性が高いので、出来る限りフォローさせて頂きます。勘違いする者達が増えて、最愛の婚約者様を悲しませる訳には参りません」


「俺も気を付ける。俺は彼女以外は愛する気はないし、家族や友人、配下達、人間のヴァーミリオンと良好に関わる者達以外の人間は正直どうでもいい。変な勘違いは鬱陶しい」


「神である部分が多いヴァーミリオン様は、ストレートですね」


「そこはあまり関係ない。閉ざされた世界にいたせいで対人関係がほぼないから、情がないだけだ」


 俺が苦笑すると、ロータスは優しく微笑み返す。

 本当に叶えるつもりのようだ。


「とりあえず、帰る。これから宜しく、ロータス」


「はい、ヴァーミリオン様」


 もう一度、臣下の礼をして、ロータスは微笑んだ。

 俺も微笑み返し、ロータスの部屋から瞬間移動した。








 それから、魔力の覚醒中のヴァーミリオンの元へ向かい、俺の神としての部分――権能や力、魔力、記憶、ループの経験を全て渡した。


「同じ魂だから、俺も背負う。だから――」


 ――ウィステリアを、幸せにしよう。

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