第28話 深刻な不足

 カーマイン砦完成式典も無事に終わり、召喚獣を捕まえる連中を捕らえる作戦も解決した。

 色々、大変だったけど。

 召喚獣を捕まえる連中の首謀者ローシェンナ・シュネー・フォッグ伯爵夫人は、伯爵家の次期当主だったシスルと伯爵夫人の召喚獣の青薔薇の精霊の協力で捕らえることに成功した。

 何とかかき集めた証拠の中に、シスルの両親の遺体と遺品があり、馬車が崖から落ちて事故死し、遺体がないという報告が嘘だったことが判明し、それが決定打となった。

 偽装に加担した王都の役人の自白もあり、フォッグ伯爵夫人は言い逃れは出来なかった。

 かき集めた証拠の中には、誰がどのような召喚獣と契約しているかという内容のリストもあった。

 その中には父や俺、ヘリオトロープ公爵の名前もあった。

 兄やヴァイナスはなかったので、安心した。

 俺の場合は、四年前の国王夫妻襲撃未遂の時に、大立ち回りをしたことで知られたことだから仕方がない。

 見せてもらったリストの中でも、子供の俺はトップクラスの狙いやすさのようで、赤色のインクで二重丸が記されていた。

 何だか、侮られていて腹が立つが、その方が襲撃された時に制圧しやすい。

 カーマイン砦完成式典が終わり、王城に戻った後にヘリオトロープ公爵から報告があったことだが、フォッグ伯爵家の館の本館の地下にはフォッグ伯爵の遺体が安置されていたそうだ。

 亡くなって一年経つが、保存魔法で遺体は綺麗なままだったらしい。召喚獣の魔力を集めて、本当にフォッグ伯爵を生き返らせるつもりだったようだ。

 捕らえた後も、フォッグ伯爵夫人は監獄の看守の召喚獣を捕まえようとしたらしく、魔力封じの魔法道具を着けられ、独居房に入れられている。

 フォッグ伯爵夫人に、召喚獣を捕まえ、集めた魔力で夫が生き返ると唆した者はまだ分からないが、とりあえず、召喚獣を捕まえる連中の事件は終わった。

 王城の普段住む南館に戻ると、ミモザやアルパイン、ヴォルテールが待っていてくれた。


「ヴァル様、お帰りなさいませ!」


 輝かんばかりの笑顔で、ミモザが手を振ってくれる。


「ただいま、ミモザ、アルパイン、ヴォルテール」


 俺も笑顔で告げると、アルパインとヴォルテールが崩れた。たった数日で俺の笑顔の耐性が消えたのか。

 ミモザは逆に「嗚呼、ヴァル様の笑顔、久々のご褒美……」と嬉しそうだ。こちらはこちらで、ちょっと心配になる。

 そんな個性的な俺の侍女と護衛を見た、薬師と青薔薇の精霊が固まっている。

 ミモザ達に二人を紹介したいので、俺の部屋に戻り、早速、経緯を簡単に伝える。


「――ということで、俺の専属の薬師のシスルと、青薔薇の精霊だよ」


 と言いつつ、俺はずっと気になっていたことを青薔薇の精霊に聞いてみる。

 今の青薔薇の精霊はフォッグ伯爵領で擬態していた女性体ではなく、元々の男性体に戻っている。

 長かった藍色の髪ではなく、短い。

 顔も中性的な美人だ。

 青薔薇の精霊の中でも、男性体は稀で珍しく、女性体に擬態しているのが多いようだ。男性体は力や魔力が強く、戦闘も出来るそうだ。

 前の主であるフォッグ伯爵夫人によって魔力を全て奪われ、命も残り僅かだったが、伯爵夫人との契約を破棄し、俺の召喚獣になったことで紅と萌黄同様に俺の魂と契約する形となり、何故か奪われた魔力は伯爵夫人から彼に戻った。

 紅曰く、俺の魂と契約しても普通は奪われた魔力は戻らないらしい。更に俺の魔力も少ししか与えていないはずが、何故かもう少し多めに加わったらしい。何故だろう?

 結果、青薔薇の精霊は前の主の時より強くなったそうな。


「そういえば、伯爵夫人は貴方のこと、何て呼んでた? 名前はある?」


『名前はないですね。彼女は私のことをアオちゃんと呼んでいましたが、固有の名前ではありません。もし、宜しければ、ヴァーミリオン様が付けて頂けませんか?』


 にこやかに青薔薇の精霊は笑う。伯爵領の時と違い、とても生気に満ちている。

 それを見て、助けられて良かったと思う。

 青薔薇の精霊のつややかな藍色の髪と綺麗な青色の目を見て、名前が頭の中で閃く。


「青藍(セイラン)はどう? 貴方の髪と目、綺麗だし」


 紅は羽根と尾がとても綺麗で俺と同じ髪の色で、萌黄も目がとても綺麗で印象的だった。

 召喚獣はとても綺麗だなと思う。

 それを平気で魔力を奪って、殺したフォッグ伯爵夫人を俺は怖いと感じる。


『青藍……。とても、とても良いです! 好きです。ありがとうございます、ヴァーミリオン様』


 とても嬉しそうに青薔薇の精霊――青藍は微笑んだ。薔薇の精霊だけに、バッグに薔薇を背負っても耐えられる笑顔だ。


「あの、ヴァーミリオン殿下。僕は薬師として何をすればいいですか?」


 シスルがおずおずと俺に声を掛ける。

 彼は今回、伯母のフォッグ伯爵夫人の暴挙により、伯爵の爵位と領を国に返上することを決めた。

 俺が経緯を説明し、父の決断では爵位も領も返さなくても良いとなったのだが、シスルは元々伯爵家を継ぐつもりはなく、薬師を目指していた。

 なので、伯母の暴挙を止められなかった責任という名目でシスルは返上した。

 返上して身軽になり、実質平民になったシスルは俺の専属の薬師になった。

 王城に帰る前の父との話し合いで、俺の専属の薬師でも、平民となると何かと言ってくる輩はいるので、伯母の暴挙を俺に告発し、さらなる被害を防いだという体で彼自身に子爵の爵位を与えることになった。俺の特技、ああ言えばこう言う、だ。


「シスルには色々なポーションを作るのを手伝って欲しいんだ。と言っても、ポーションを作ったことがないのだけど、教えてもらえると嬉しい」


「ポーション、ですか?」


「そう。媚薬とか毒薬とかの対処もお願いしたいのだけど、それ以外で考えてるのが、色々なポーションを作りたいんだ」


「ヴァーミリオン殿下、理由をお聞きしてもいいですか?」


 色々なポーションという言葉に、シスルの目が輝いた。


「もちろん。俺の婚約者やレン達にはもう伝えていることだけど、将来、王位継承権を破棄したいと考えているんだ。これは陛下にも伝えている。放棄後は、王族としての公務はするけど、陛下から田舎の領地を下賜して頂いて、そこに婚約者と一緒に領地経営をするつもりなんだけど、その経営の資金として、ポーションを今の時点で少しずつ売ろうと思っているんだ。資金があれば、何かと領地経営にも役立つし、色々なポーションがあれば有事の時に領民を助けられる」


「なるほど……。分かりました。お任せ下さい。ポーションはどのようなものがいいですか?」


「回復のポーション、魔力回復ポーション、状態異常回復ポーションが主にあるといいかな。下級、中級、上級があるとなお良しかな。もちろん、俺も一緒に作るよ」


 ポーションは様々な薬草と魔力が必要だ。

 特に俺は魔力がセレスティアル伯爵百人分の魔力があるらしい。

 薬草さえあれば、下級、中級はもちろん、上級も大量に作れるはずだ。


「それと、青藍。貴方にも頼みたいことがあるのだけど」


『何でも仰って下さい。ヴァーミリオン様』


「その田舎の領地と、この南館の庭に青薔薇を咲かせたいのだけど、一緒に手伝って欲しいんだ」


 これは俺の願望だったりする。

 ウィステリアに色々なグラデーションの青薔薇をプレゼントしたい。

 ウィステリアの瞳と同じ藍色の薔薇や青藍の髪の色と同じ青色、空と同じ色の薔薇とか。

 藍色の薔薇なら、俺もドライフラワーなりポプリなり作って身に着けたい。ウィステリアと同じ瞳の色を纏ってみたい。

 ついでにもし出来るなら俺の瞳の色の薔薇を作れるかも試したい。自惚れだがウィステリアなら、俺の瞳の色の薔薇を身に着けたいと言う気がする。

 上手く軌道に乗れば、青藍と相談して大量に生産しても良いものなら、領地の特産品として売っても良いかもしれない。青薔薇はカーディナル王国では珍しい色の薔薇で、なかなか作れないと言われているからだ。

 将来の計画が色々と捗る。

 不謹慎だが、早く王位継承権を放棄したい。


『それはもちろん、青薔薇の精霊の領分ですので、お力添えさせて下さい』


 青藍の言葉に、俺は満面の笑みを浮かべた。







 今回の囮作戦の事後処理をヘリオトロープ公爵と共に、俺は怒涛の如く二日で終わらせた。

 俺の出来ることは全てしたので、後は偉い人に任せます。

 報告書の作成や伯爵領で取った調書の作成で疲れた。ベッドで一日中眠りたい。

 机に突っ伏して、俺は積まれた書類を眺める。

 書類は王城にいなかった間の、国王や王太子に決裁することのものではない、急ぎでもない嘆願書だ。

 普段はヘリオトロープ公爵に行くはずの書類なのだが、国王である父が仕事を溜め込むせいで、彼は溜め込まれた書類の処理に追われ、俺の方に申し訳なさそうに回ってきた書類だ。

 これ、十二歳のする仕事じゃない……。

 いい加減、仕事を溜め込む父に対して、紅、萌黄、青藍を連れて説教に行こうかと思っている。

 ちゃんと仕事しないと出ていくと脅してみるか?

 俺が疲れている時の思考はとても物騒になる。

 ちなみに、紅やハイドレンジア達は皆、それぞれの自由時間だ。

 ずっと俺と一緒だと、お互い息が詰まると思うので、自由時間は必要だ。

 若干名、俺とずっと一緒でも良いと言う側仕えと侍女がいるが、それは却下だ。

 とりあえず、仕事を早く片付けた方が楽なので、俺はのそのそと机から起き上がり、書類に目を通す。

 嘆願書を見て、俺の裁量で良いのか? と思いつつ、可と否で分けていく。

 この嘆願書を書いた人も、まさか十二歳の第二王子が目を通して、可か否か選んでるとは思わないだろうなぁ……。

 選び終わった書類を整え、再度、可か否か確認する。

 何度も繰り返し、結果、可が一割、否が九割になった。

 読んだほとんどの嘆願書が、ない陰謀をさもあるように書かれ、相手を陥れようとしているものだったのだから、少なくても仕方がないと思う。

 結局、嘆願書の処理を全て終わらせた俺は、ちゃんと休んでいるか様子を見に来たハイドレンジアと青藍に休めと怒られることになった。

 理不尽だ。

 怒られて、更に疲れた俺は、部屋のソファに寝そべる。若干、不貞寝も入っている。

 ソファに寝そべっているが、眠くならない。むしろ、疲れているのに目がギンギンになっている。

 そこで気付く。

 今の俺は、深刻なウィステリア不足だ。

 空焚きでも誤魔化せない、駄目な状態なのだと思う。

 約三週間会えてない。

 この三週間、紅のさらさらふわふわな羽根と身体を撫でることでどうにか耐えたが、もう駄目のようだ。


「……呼んだら、来てくれるかな」


 小さく消えるような声で、俺は呟く。

 忙しいのは知っている。

 王位継承権を放棄するとはいえ、一応、第二王子。王族なので王太子の婚約者とまではいかないが、第二王子の婚約者もそれなりに教養等が必要だ。

 ヘリオトロープ公爵家も外戚の王族だ。

 男女関係なく、カーディナル王国は長子が王を継ぐ。

 前国王は女王で、つまり俺の祖母にあたる。女王の弟がヘリオトロープ公爵の父で、公爵は父の母方の従兄弟になる。

 それなりに教養が必要というが、既にウィステリアはヘリオトロープ公爵から教えてもらっていると思う。

 それでも、王族に嫁ぐからという体裁で更に教養を学んでいる。

 ウィステリアも頑張っているからと、俺も頑張っているが、深刻なウィステリア不足でもう駄目だ。

 供給が足りていない。

 そんな状態の俺に、タイミングが良過ぎる天使の来訪があった。会ったことはないが、この世界の女神様からのご褒美か?

 扉を叩く音が聞こえて、俺はソファから起き上がり、応答する。

 扉から、ウィステリアが顔を覗かせる。


「今、中に入ってもよろしいですか?」


 心配そうに顔を覗かせるウィステリアが申し訳なさそうに声を掛けてくれる。

 むしろ、ウィステリアならノック無しに遠慮なく入っちゃって! と喉まで出掛かったのを、俺はぐっと抑える。

 一応、ウィステリアには優しい紳士を目指している俺は、彼女を困らせることは言わないと決めているので理性がどうにか動いてくれて助かった。


「大丈夫だよ。中にどうぞ」


 疲れを隠し、にこやかに俺はウィステリアを部屋の中に招く。

 ソファに座ってもらおうと連れて行こうとしたら、ウィステリアが手をぎゅっと握ってきた。


「……リア?」


 思春期に片足を突っ込んでいるお年頃男子の俺の内心は春一番が吹き荒れる。もうすぐ春ですね。

 そんな状態を隠し、ポーカーフェイスを貫き、ウィステリアの真意を探る。


「ごめんなさい、リオン様。端ないことをしているのは重々承知です」


 顔を赤くしつつ、頭一つ分低いウィステリアが俺を見上げる。可愛い。

 手を握ってくれることが端ないことになると、今まで、ウィステリアに手を握ったり、抱き着いたりしてきた俺は破廉恥になってしまう。


「端なくないよ。手を握ってくれて嬉しいよ」


 むしろ、俺へのご褒美です。ありがとうございます。


「ありがとうございます……あっ、そうではなくて、リオン様、お疲れではありませんか?」


「大丈夫だよ」


 大丈夫ではないが、俺の性格上、好きな女性の前では強がってしまう。前世でも身体が辛くても、姉と妹の前では強がっていた。


「父と兄から聞きました。この三週間、リオン様はずっと動き回っていらっしゃったと」


「動き回っていたね、確かに」


 確かに動き回っていた。

 椅子に座っても、頭はフル回転だった。

 それで助けられた命もあったのだから、疲れているが動き回って良かった。後悔はない。


「リオン様、無礼を承知の上で、言わせて下さい」


 ウィステリアが俺の両手をぎゅっと握る。

 強い意志を宿して、藍色の目が俺を見つめる。

 ゲームでもよく見た綺麗な目だ。


「婚約者である私の前では強がらないで下さい。弱さを、見せて下さい。貴方はいつも私が欲しい言葉を下さいます。私はリオン様に貰ってばかりで、私も貴方に想いを差し上げたいのです。だから、お疲れなら疲れた、お辛いなら辛いと私には言って下さい。私はどんなリオン様でもお支え致します。も、もちろん、介護も……」


 嬉しかったのだが、最後の介護という言葉に少しボディーブローを食らった気がする。

 ウィステリアも顔を赤くしている。


「……参ったな。リアには格好良い俺をずっと見せたかったんだけどなぁ」


「リオン様はどんな時も格好良いです。でも、何処かで弱音を吐かないと、いつか心が壊れてしまいます。私はそうなって欲しくありませんし、その、弱いリオン様も私は嫌いにはなりません」


 顔を赤くしながら、ウィステリアは俺の両手を握り続けている。

 ウィステリアの言いたいことはちゃんと伝わったし、嬉しかった。

 この子を絶対、俺が幸せにしたいと改めて思う。


「ありがとう、リア。実を言うと、かなり疲れてて限界だったんだ。ついでに言うと、深刻なリア不足。この三週間、リアに会えなくて、俺の需要が供給を上回ってて、リアに会いたくて仕方なかったんだ」


 今度は俺がウィステリアの両手を握る。かなりマイルドにして俺は深刻なウィステリア不足を訴えてみた。また強がってしまい、ちゃんと弱音が吐けない俺がいる。


「し、深刻な私不足、ですか?」


 顔を真っ赤にして、ウィステリアは俺を見上げる。

 俺は静かに頷く。切実です。


「……じ、実は、私もリオン様にお会いしたくて。でも、リオン様は公務でカーマイン砦に行かれて、いらっしゃらないですし、戻られたら戻られたで事後処理でお忙しいですし。私も、深刻なリオン様不足でしたっ」


 更に顔を真っ赤にして、ウィステリアは俺を見上げた。熟れた林檎のように赤い。そして、ウィステリアも深刻な俺不足だったようで、何だか嬉しい気持ちになる。

 今回の囮作戦の移動中に企んでいたことをウィステリアに誘ってみる。


「それなら、リア。お互い、深刻な不足状態を解消するために、俺と一緒に王都に行かない? 所謂、お忍びデート」


「お忍びデート……行きたいです! でも、父にも内緒ですか?」


「いや、ヘリオトロープ公爵とハイドレンジアには伝えておこうと思ってるよ。流石に俺の父みたいなことはしないよ」


 お忍びという言葉に、俺のいたずら心が騒ぐ。

 これが父に似ていると言われる所以だろうか。

 でも誰にも言わずに母とお忍びデートに行こうとする父と違い、俺はヘリオトロープ公爵とハイドレンジアには伝えておく。他には内緒だが。

 ちなみに、両親のお忍びデートはシュヴァインフルト伯爵とセレスティアル伯爵にはしっかりバレて、こっそり護衛が付いている。


「護衛は紅、萌黄あと、新しく召喚獣が増えたよ。後で紹介するよ」


 念の為の護衛は俺の召喚獣達だ。過剰戦力かもしれないが、ウィステリアを守るためには十分に必要だ。


「今日は流石にマズイから、来週、行かない?」


「はい! 宜しくお願い致します!」


「じゃあ、早速、ヘリオトロープ公爵に伝えに行かないと」


「リオン様! 今日は駄目です。休んで下さい!」


 口を膨らませて、ウィステリアは動こうとした俺の両手をまたぎゅっと握る。

 何、この可愛過ぎる生き物は……!

 しかし、ウィステリアの休めという言葉に、何だろう、俺の顔はそんなにヤバイ状態なのかと思ってしまう。


「……もしかして、そんなに俺の顔、ヤバイ?」


「目の下の隈が酷いです。病んでいるリオン様も良いと言う人がいるかもしれませんが、私は解釈違いです。元気で健康な、綺麗なお顔のリオン様が良いです」


 そういえば、鏡も見る暇がなかった。

 手を握られたままウィステリアと共に、鏡台の前に立つ。

 鏡を見ると、確かに目の下に隈があり、病んでいるように見える。

 母似の綺麗な顔な分、病んでいるヴァーミリオンはちょっと怖い。

 逆にウィステリアの目の下に隈があったらと想像してみる。

 ……確かに、病んでいるウィステリアは俺も解釈違いだ。


「俺も病んでいるリアは解釈違いだなぁ。今の健康で可愛い綺麗なリアが良いな」


 ゲームの悪役令嬢のウィステリアちゃんは凛とした、気品のあるご令嬢だった。病んでいたら、推しにならなかったと思う。


「それなら、リオン様。今からリオン様は何をなさるべきか分かりますよね?」


 笑顔でウィステリアが言う。可愛いのにヘリオトロープ公爵とヴァイナスに似た圧力を感じる。やはり親子で兄妹か。


「……そうだね。リアが帰ったら、寝るよ」


 ウィステリアの圧力に降参し、俺が言うと愛しの婚約者は安堵したように微笑んだ。

 少しだけ、ウィステリアを供給出来た俺は今なら眠れそうな気がした。

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