第22話 遭遇戦

 兄から召喚獣の話を聞いて、俺はハイドレンジアとミモザにもそのことを話した。

 アルパイン、ヴォルテールも静かに聞いている。

 ちなみに、俺と紅、萌黄が深いところで繋がっていることは黙っている。

 漏れるかもではなく、俺に関する過激派がこの場に三人いるためだ。

 それなら、自分も召喚獣になるという、なれないのに、とんでもないことを言い出しかねない。

 いつか、時期をみて言おうと思う。

 ちなみに、俺に関する過激派はハイドレンジアを筆頭に、ミモザ、ヴォルテールだ。

 アルパインが良心の最後の砦なのだが、心根が優しいのでよく言い含められている。

 俺のために頑張ってくれ、アルパイン。


「……なるほど。つまり、我が君の召喚獣であるフェニックス殿とシルフィード殿は格好の的ということですね」


「そういうことだね。ところで、レンとミモザの召喚獣は?」


「私達はフィエスタ魔法学園には通っていないので、セレスティアル伯爵に直接講義を受けて、召喚出来たのはノームです」


「わたしもノームです」


 おおっ、ノーム! 前世のゲームでよく聞く名前だ。地の精霊だ。

 しかも、兄妹揃って。ということは何か関連があるのかな。


「ノーム同士は風の精霊とまではいきませんが、意思疎通が出来ます。なので、ミモザとの連携はお任せ下さい」


「なるほど……。じゃあ、召喚獣を捕まえに連中が来た時の作戦立ててみる? 王城内に入ってきたらの場合だけど」


 流石に城門から堂々とということはないだろうから、きっと上からか、死角のところからだろうな。


「ヴァル様、その作戦には僕やアルパインも入ってますか?!」


 何かを期待した目で、ヴォルテールとアルパインが身を乗り出して俺を見つめる。


「そのつもりでいたけど……もしかして、嫌だった?」


「逆ですっ! 僕達、ヴァル様の護衛なのに、ヴァル様が強いのであまりお役に立てていない気がしていたので」


「そんなことないよ。ヴォルテールの魔法もアルパインの剣技もないと俺が困るよ。それに、パーティーでやって来る貴族の子息子女から二人が守ってくれるおかげで、本当に助かってるから」


 パーティーでは本当に助かってる。最低でも月に二回しか会えないウィステリアと久々に会話したいのに、貴族の子息子女が邪魔して来る上に、年上のご令嬢が誘惑してくるわ、媚薬を盛ってくるわと本当に困ってる時に守ってくれるから、本当に助かってる。

 それに、二人は同年代の友達と思っているから、役に立てていないとか言わないで欲しい。


「護衛ではあるけど、二人は俺の友達と思っているから、役に立てていないとか言わないで欲しいな」


 本音を伝えると、二人は同時に目を潤ませた。


「護衛でもしっかり出来るように、精進しますっ」


 アルパインが力強く宣言した。ヴォルテールもうんうんと大きく頷いて、俺を見つめる。


「ありがとう。話が逸れたけど、作戦立ててみようか」


 穏やかな気持ちで俺が微笑むと、嬉しそうにアルパインとヴォルテールが俺の机に近付く。

 その後ろで、ハイドレンジアとミモザが微笑ましい顔でこちらを見ている。


「レンもミモザも一緒に作戦立てるよ」


 俺が手招きすると、二人もこちらに嬉しそうにやって来る。

 こういう日常も良いなと感じる、そんな昼下りだった。






 作戦を立ててみた結果、調子に乗ってしまい、気付いた時には何パターンか出来上がっていた。

 状況によってパターンを変えていたら、ハイドレンジアに止められた。


「我が君がご聡明なのは承知していますが、これ以上考えますと、アルパイン殿の頭から湯気が出ます」


「あ、ごめん。つい、楽しくなって」


 俺の暴走を止めてくれたハイドレンジアとアルパインに謝る。


「いえ。僕が覚えるのが苦手なだけで……」


「次からは自重するよ。もっと考えたい時は騎士団用に作って、ヘリオトロープ公爵に提案してみるよ」


 意外と楽しくて、俺はお節介もいいことに作ったらヘリオトロープ公爵に丸投げしてみようと考える。


「ということで、ちょっと、南館の庭に行ってみようか」


 すぐに召喚獣を捕まえようとしている連中に出くわす、ということにはならないとは思うが、念の為、俺が住む南館の庭に行こうと伝える。

 南館の庭に入る前、庭へと続く扉を開ける前に、俺はこっそり魔力感知を使う。

 あ、いる。

 魔力感知を使った途端、庭の木々で覆われているところの数ヶ所、微動だにしない反応がある。

 微動だにしない時点で、見回りをする騎士ではないのが分かる。

 相手は手練なのか分からないが、こんなにも隠れている時点で、警備、駄目じゃん。

 これは早急に改善しないと、いつか王城が敵意を持った誰かに制圧され兼ねない。


『……いるな』


 敢えて姿を消してもらっている紅が呟く。

 溜め息を吐き、俺は一緒に庭に来た皆に小声で伝える。


「皆、早速なんだけど、いるよ」


 俺の一言で、アルパインとヴォルテールの顔が緊張の色を浮かべる。


「とりあえず、俺の正面に四人、左右にそれぞれ三人ずつ木々に覆われているところに隠れてるよ。もし、動きがあったら、作戦を立てた内の一つのパターンで、アルパインとレンが左、ヴォルテールとミモザが右。アルパインが主に剣で対抗しつつ、レンは魔法と剣でアルパインの援護。ヴォルテールは魔法で攻撃。ミモザは剣でヴォルテールを守りつつ、隙を見て攻撃。正面の四人は俺と紅が相手するよ。あ、それとレンとミモザの召喚獣は今回使わないで。どうやって召喚獣を捕まえるのか分からないから。情報は必要だから、もちろん、生け捕りだよ」


 小声で流れを伝えると、四人は神妙な面持ちで俺の話を聞いている。

 俺もアルパイン、ヴォルテールも子供なので殺すことはしないとは思うが、相手が口封じで自害とかも有り得るので、ちゃんと生け捕りと伝えておく。


「さぁ、行こうか。動きがあったら俺が合図するから」


 四人は頷き、俺が庭へと続く扉を開ける。

 開けた瞬間、動きがあった。

 俺が合図を出すと、それぞれ左右に四人は散る。

 俺は正面からやって来る黒ずくめの四人を冷静に見る。上から下まで黒ずくめで、顔を黒の頭巾で覆い、目しか分からない。

 懐からナイフを取り出し、俺を見た途端、目しか分からないが、相手は笑みを浮かべたのが見ていて分かった。

 格好の的がネギを背負って来た。そんな顔だ。

 見くびられているのが、少しだけ、腹が立つ。

 王国トップから教わった剣と魔法を嘗めないで欲しいね。

 そう思いながら、俺は腰に佩いた剣を鞘から抜く。

 魔法はセレスティアル伯爵直伝の無詠唱なので、こっそり俺の前方の地面に落とし穴と捕縛の魔法を点在させて設置しておく。

 流石に気付くかなと思っていたら、一人落とし穴に嵌まった。落とし穴は少し深めにしているため、這い上がるまで時間が掛かるが、相手にするのが面倒なので、気絶する程度の雷の魔法を穴に向けて放つ。


「ギャッ」


 穴に落ちた一人が小さな悲鳴上げて、沈黙した。

 まず一人目。

 残りの三人が驚きつつ、俺の周りの地面を警戒して止まる。

 こちらの様子を窺う三人に警戒しつつ、左右の相手をしているハイドレンジア達を見ると、あちらも難なく倒していっているようだ。

 こちらの三人は動かない俺に、段々焦れているようだ。

 焦らせてみようと俺が口を開こうとした時、背後から声が聞こえた。


「ヴァル、大丈夫かい!?」


 庭と南館を繋ぐ扉を勢い良く開けて、兄が叫ぶ。兄の横にはヘリオトロープ公爵の息子のヴァイナスがいる。


「兄上?!」


 驚きつつも、俺は周囲の様子を見ると、ヴォルテールとミモザが三人を捕らえていた。


「ヴォルテール、ミモザ、兄上達の護衛に回って! もう一つのパターンで」


「分かりました、ヴァル様!」


 俺の言葉で意味を理解してくれたミモザがヴォルテールに簡単に説明すると、すぐ彼が兄とヴァイナスに多重結界を張り、そのまま二人の前に立つ。

 ヴォルテールとミモザに兄達を任せることにして、俺は目の前の三人に向き直る。

 三人は先程とは打って変わって余裕な表情を俺に向けてくるので、召喚獣を喚ぶのを待っているのだろうか。

 ではこちらもあちらを焦らせてみようと思う。


「兄上達が来られたということは、シュヴァインフルト伯爵やセレスティアル伯爵がこちらに向かってると思うけど、そちらは自首するつもりで待ってるのかな?」


 俺がにっこりと笑い、近付いてみると、三人は少し焦った様子で身構えるが何もしてこない。


『リオン、奴等は我を召喚するのを待っているようだぞ。まぁ、あの程度ならリオンなら余裕だろう』


 念話で紅が教えてくれる。やっぱりか。


「もしかして、フェニックスを喚ぶのを待っているの? 残念だけど、君達程度じゃ喚ばないよ」


 喚ばなくても、既に俺の右肩に乗っている。

 紅曰く、気付かないのなら、その程度の力しかないということなので、相手する必要はないとのことだ。

 俺の挑発じみた言葉に焦った二人がこちらに向かって、ナイフで攻撃してくる。

 ナイフを剣で防ぎ、弾き返し、すかさず風の魔法で風を圧縮した玉を二人に放つ。

 結構、手加減して放ったつもりだったが、吹っ飛ばしてしまい、奥の大きな木に当たり、動かなくなったが、生きてはいるようだ。とりあえず、捕縛の魔法で二人を拘束しておく。

 残りは一人で、よく見るとリーダー格のようだ。

 リーダー格らしい相手は、尚も召喚するのを待っているようだ。

 こちらがあちらに合わせる理由はないので、俺はリーダー格らしい相手にちょっと氷の魔法で攻撃を仕掛ける。

 十本の氷柱の形の魔法を放つと、相手はそれを防ごうとするが、防げず二、三発当たる。

 その間に捕縛の魔法を放ち、相手を無効化する。

 ハイドレンジアとアルパインも無事に捕縛出来たようで、こちらにやって来る。


「我が君、お怪我は?」


「ないよ。そっちもない?」


「私もアルパイン殿も大丈夫です」


「良かった。と、言いたいところだけど、もう一人発見っ」


 念の為、魔力感知を使うと一人、奥の大きな木の上に隠れていたのが分かり、先程出した氷柱より大きめの氷柱を魔法で出し、隠れているところへ放つ。

 氷柱の魔法を避け、木から降り、地面に着地した瞬間、最後の一人は落とし穴に落ち、小さな雷の魔法が当たると、小さな悲鳴と共に静かになったので、捕縛の魔法も放っておく。


「はい、これで終わりかな。二人共、お疲れ様」


 ハイドレンジアとアルパインを労う。

 そのまま二人を連れて、ミモザとヴォルテールが守る兄とヴァイナスのところに向かう。


「兄上、大丈夫ですか?」


「私はヴォルテールとミモザに守ってもらったから大丈夫だよ。というより、助けに来たつもりが守られることになったから、逆に申し訳なくなったよ」


「兄上は王太子なんですから、そろそろ守られることに慣れて下さい。僕のことが心配なのは分かりますが、僕はこういうことがあった時に対処出来るようにシュヴァインフルト伯爵達に鍛えてもらってます。お願いですから、飛び出さないで下さい。泣きますよ?」


 少し膨れた顔を見せると、兄は困った顔をした。


「ごめんね、ヴァル。それでも、大事な弟だから心配になってね。次は気を付けるよ。それにしても、良い連携だったね。これもシュヴァインフルト伯爵から?」


「いえ、先程考えました。こういうことも起きるかもしれないということで、色々パターンを考えて」


「私が来るかもしれないというのも、想定内?」


 想定内というか、先程考えたパターンの中にたまたま入っていたから対応出来ただけで、上手く出来て良かったとは思っている。

 もう少し考えた方が良いかもしれない。


「想定内ではないです。たまたま、こういうこともあるかもしれないと考えていたものの中にあったので対応出来ましたけど。まだまだ考える余地があるなとは思ってます」


「ヴァーミリオン殿下、大丈夫ですか!」


 シュヴァインフルト伯爵が騎士を連れてこちらにやって来た。


「シュヴァインフルト伯爵、捕縛済みです。恐らく、召喚獣を捕まえている連中です。僕がフェニックスを召喚するのを待っていたようでした」


 先程の状況を更に詳しく説明すると、シュヴァインフルト伯爵は苦い顔をする。


「……警備を強化する必要がありますな。陛下やヘリオトロープ公爵にも報告をしないと」


「宜しくお願いします。あ、アルパインも頑張って捕縛してくれましたよ。あとで褒めてあげて下さいね」


 小声で俺が言うと、シュヴァインフルト伯爵は歯を見せて笑う。


「分かりました。あとでたくさん褒めておきます。お気遣いありがとうございます、殿下」


 そう言って、シュヴァインフルト伯爵は騎士と共に捕縛した連中を連行していった。

 兄とヴァイナスも、しばらく周囲の様子を確認した後、兄が住む東館へ戻っていった。

 俺達も南館の俺の部屋に戻る。


「遅くなったけど、ミモザもヴォルテールもお疲れ様。兄を守ってくれてありがとう」


「い、いえ、私達はヴァル様の言われた通りに動いただけですから……!」


 うっかり俺は微笑んでしまい、ヴォルテールが慌てる。そろそろ、慣れて欲しい。


「ヴァル様、先程の連中はやはり召喚獣を狙っている連中ですか?」


 ミモザが皆に紅茶を配りながら、俺に尋ねる。


「多分ね。俺が紅を喚ぶのを待っている感じだった。さっき、捕縛した連中が詳しく知っていたらいいけどね……」


「蜥蜴の尻尾切りにならないといいのですが」


 ハイドレンジアが息を吐きながら呟く。


「実行犯は大体のところ、下っ端だろうね。あとは陛下やヘリオトロープ公爵達に任せるよ」


 俺はそう告げて、紅茶を一口飲む。

 任せると言いながら、多分、俺は巻き込まれるんだろうなと思う。

 なので、先程みたいなことも起きるかもしれないだろうから、考えておこう。






 それから一週間後、国王である父から予想通りの命令が来た。

 所謂、俺と紅、萌黄を囮にして捕まえる内容だった。

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