【Side 2】全ては我が君のために(ハイドレンジア視点)
いつか見つけたいと思っていた、心から尊敬する主が、まさか、三歳の第二王子だとは思わなかった。
私はホルテンシア伯爵の三男として生まれた。上の兄二人とは母親が違う。所謂、異母兄弟だ。下には同じ母から生まれた四歳下の妹がいる。
母は他の伯爵家の次女で宮廷魔術師だったことも、私と妹が強い魔力を持っていることを父にはどうやら言わなかったようだった。
理由は後から知ったが、父は傾きかけたホルテンシア伯爵家を立て直すために母を側室にしたらしい。その際に、母方の伯爵家から言葉巧みに騙して金を巻き上げた上に、母を人質同然に側室にしたようだった。
更に、正妻からは屋敷の小さな別館に母を住まわせ、出られないように監禁していた。
妹は私が成人と認められる十五歳になった時に、父に連れて行かれ、セラドン侯爵の人質にされた。
その時にセラドン侯爵に会い、まだ幼いヴァーミリオン殿下をセラドン侯爵の傀儡にするように教育するように命令された。さもないと妹の命はないと。
見ず知らずの幼いヴァーミリオン殿下より、妹が大事だった私は従うしかなかった。
その後、三歳のヴァーミリオン殿下にお会いし、その日に殿下と召喚獣のフェニックス殿に私と妹は助けられ、心から尊敬する主を見つけた。
それからはヴァーミリオン殿下――我が君の側仕えとしてお側にいる。
三歳の時も思ったが、我が君のご尊顔はとても美しく、紅色の髪はフェニックス殿と同じ色で綺麗で、金色と銀色でそれぞれ色が違う両の目は全てを見透かすようなお姿が、八歳になると女神様の最高傑作ではと思える。
この方が成人されたら、と思うととても心配で不安になってくる。ヘリオトロープ公爵令嬢以外に、周りに虫が群がるのは避けたいと考えてしまう。
その前に、我が君には一言お伝えしておこうと思う。
話は逸れたが、我が君は五年で私や妹を苦しめたセラドン侯爵を捕えた。
建国記念式典が国王夫妻を襲撃未遂で流れてしまい、一ヶ月後に再度行われることとなった。
我が君のご尽力で、国王夫妻襲撃が未遂に終わった次の日の夜、このお方は昨日、魔力をたくさん使われ、お疲れのはずなのに、笑顔で私に言った。
「長かったね、レン。五年は流石に長かった……」
「お疲れ様です、我が君。セラドン侯爵のこと、本当にありがとうございます」
我が君は五年は長いと仰るが、私からするとあっという間だった。
セラドン侯爵には確かに苦しめられたが、それを忘れるくらい、我が君にお仕えするのがとても楽しかった。
我が君は気遣いがさり気なく、ちょっとした一言がとてもお優しい。
なのに、大事な時には王族としての責任や威厳を出される。まだ幼い八歳で。
そのお姿を間近で拝見し、このお方をお支えしたいと思う。
そんな風に思っていると、我が君が私にいつもと違う笑顔を向ける。
「レン。俺からちょっとしたお礼を受け取ってくれる?」
ん?? 我が君からのお礼と聞いて嬉しいはずなのに、何故か寒気がする。
「……どういう、お礼でしょうか」
「レンの、この五年間の功績を認められて、子爵になるよ。俺が陛下に推しておいた」
「……え?」
父と正妻、異母兄二人が罪を犯したことの責任で、母とミモザと共に平民になると思っていた私は我が君の一言に固まる。
平民になっても、側仕えから外されても、我が君の元でお支えしたいと思っていた。
それが、まさかの私が子爵。
伯爵家の妾腹で三男。父や正妻、異母兄二人からは何の役にも立たないと蔑まれてきた私が。
言葉が出ない私に、我が君はいたずらっぽく笑みを向ける。
「もしかして、自分の父親達のせいで、平民になるから側仕えを外されると思っていた?」
図星を指され、私は狼狽えていると、我が君は更にいたずらっぽく笑う。その笑みだけを見ると年相応だ。中身は大人顔負けの内容だが。
「五年前に俺は言ったよ? 優秀な人材を失う方が損失だって」
我が君のその言葉にハッとする。この方の気遣いは本当にさり気ない。
「それに、こんなにも俺のことを考えて、支えてくれる優秀な側仕えをむざむざ失うようなことはしないし、例え陛下でもさせないよ。レンもミモザも俺の大切な家族みたいな人達なんだから」
にっこりといつもの優しい笑みを我が君は向けて下さる。
「でも、もちろん、今朝言ったように、レンもミモザも自由だよ。子爵になるよと言ったけど、もちろん辞退してもいいよ。俺の、第二王子の権力も少なからずあるから、君が望むことを可能な限り聞くよ。どうする?」
この方は本当にお優しい。五年前の我が君に救われたあの日も選択肢を与えて下さった。王族なのだから、命令すればいいのに、それをなさらない。
どうしたいかちゃんと聞いて下さる。
答えは決まっている。
貴方を今まで通り、お支えすることだ。
そのために、子爵の爵位は有り難い。
平民だとどうしても相手が貴族の場合、反抗出来ない。
子爵なら下から数える方が早い位置だが、まだマシだ。最悪、功績を今後も挙げて、伯爵、侯爵とのし上がればいい。
母もミモザも、そのまま貴族としての生活が保障出来る上に、妹もこのまま我が君のメイドが続けられる。
全ては我が君のために、私もこのままお支えすることが出来る。
「もちろん、お受け致します。私は我が君の側仕えとして、お側を離れたくありません」
私の言葉を聞いて、我が君は嬉しそうに笑って下さる。その笑顔を拝見するだけで、私は全力を賭してお支え出来る。そして、癒やされる。
「そっか。ありがとう。改めて、宜しくね、レン」
「はい。改めまして、宜しくお願い致します。我が君」
最敬礼のお辞儀をして、私は我が君に少し、お願いを伝えてみる。
「我が君。一つだけ、お願いを聞いて頂けないでしょうか?」
「もちろん、俺で聞けることなら」
「子爵の爵位を頂くにあたって、家名を変えたいのです」
「確かに、そうだね。俺がもしレンと同じ立場なら家名を変えるね。分かった。陛下に言ってみるね」
我が君はすぐに頷き、理解して下さる。
さらっと理解されていらっしゃるが、普通の八歳ならこうはならない。
本当にこの方は、聡明な方だ。
「家名は何にするか決まってる?」
「今決めたのですが、我が君のお名前から頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん? 名前? ヴァーミリオンから?」
まさか我が君の名前からとは思っていなかったようで、首を傾げられる。
「二つ目のお名前の、『エクリュ』から頂いてもよろしいでしょうか?」
「もちろん。どんな名前か聞いてもいいかな?」
「ハイドレンジア・デルフト・ホルテンシアから、ハイドレンジア・デルフト・エクリュシオに変えようかと思いますが、如何でしょう?」
私が答えると、我が君はすぐ頷いた。嬉しそうな笑顔だ。
「何だか、恥ずかしいけど、いいんじゃないかな?」
恥ずかしそうに頬を掻きながら、我が君は私に笑った。
そして、私はホルテンシア伯爵家の領地と屋敷等を国王陛下から頂いた。
後から知ったのだが、我が主であるヴァーミリオン殿下はホルテンシア伯爵家の実情を調べて下さり、シュヴァインフルト伯爵の部下の騎士達によって母を救い、正妻、異母兄二人を捕らえて下さった。
親子揃って我が君に救われ、本当に心から尊敬する。この方に一生を掛けて恩を返したい、忠誠を誓いたいと思った。
全ては我が君のために。
私は貴方様から絶対に離れません。
王位継承権を放棄し、田舎の領地に行かれるとなっても付いて行きますよ。
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