第5話 剣と魔法と勉強より先に召喚獣がやって来た
両親から剣と魔法と勉強を習いたいとお願いした次の日から、俺に先生が就いた。
とても嬉しいのだが、あり得ない人達が俺を教えてくれるようで、緊張で胃が痛い。
剣はカーディナル王国の騎士団の総長のシュヴァインフルト伯爵。魔法は宮廷魔術師団の師団長のセレスティアル伯爵。勉強というか教養などは国王である父の母方の従兄弟で宰相のヘリオトロープ公爵。
……何で俺だけ国のトップなの?
兄には国のトップではないが、国王になるための選りすぐりの教育係が就いている。前世の姉達の話だとゲームの設定資料集では第二王子は普通の教育係と書いてあったはず。俺も見せてもらった記憶がある。俺の頭の中で疑問符がたくさん浮かぶ。
更に、ヘリオトロープ公爵は我が最推しで愛しのウィステリアちゃんのお父さんでもある。粗相が出来ない……!
とりあえず、今日は挨拶ということで、三人が同時に俺の部屋にやって来るそうで、ずっと胃が痛い。
俺の部屋の中には昨日とは違い(昨日は特別だったらしい)メイドと騎士もいるので、胃が痛い動きをすると大騒ぎになるので、部屋の本を読む振りをしている。ちなみに本のタイトルは「五歳でも分かる毒花の話」だ。
物騒……! 王族なら知っておくに越したことはないけど。五歳でも分かるって、俺、三歳ですが。
流し読みしながら、国のトップスリーを待っていると、扉を控えめに叩く音がした。
「はい、どうぞ!」
椅子から下りて、部屋の中央に立つと、騎士がゆっくり扉を開ける。
「殿下、失礼します。お生まれになってから何度かお会いしておりますが、覚えていらっしゃいますでしょうか。クラーレット・ディヴェール・ヘリオトロープと申します。この度、教養など必要であること全てを僭越ながら私がお教えさせて頂きます」
臣下の礼を取り、紫色の長い髪を後ろに緩く結い、藍色の目をした美丈夫のヘリオトロープ公爵は俺に挨拶をする。ウィステリアちゃんのお父さんというだけあって、美形だ……。目元がウィステリアちゃんそっくり……!
前世を思い出す前の記憶を呼び起こすと、何となく覚えていたが、顔をまじまじと見たことがないので、とりあえず、覚えていると頷いてみる。公爵が小さく笑ってくれた。
「ウェルド・ルアン・シュヴァインフルトと申します。俺の剣技を殿下にお教え致しましょう!」
筋肉で硬い胸をバンッと叩き、緑色の短髪、ギラッと輝く水色の目のシュヴァインフルト伯爵が白い歯を見せる。……胸筋羨ましい……。
シュヴァインフルト伯爵もうっすらだが会ったことを覚えていた。
「……セレスト・シャレイ・セレスティアルと申します。魔法を殿下にお教えさせて頂きます」
肩までの群青色の髪を揺らし、緑色の目をしたセレスティアル伯爵が静かに挨拶をする。冷静な感じがかっこいい。
セレスティアル伯爵もうっすらだが会ったことを覚えていて、ヴァーミリオンは記憶力は良いのだと俺は感じた。ゲームではお馬鹿なところがあったが、それなら、これから何とかなるかもしれない。
「御三方ともお忙しい中、無理なお願いを受けて下さり本当にありがとうございます。こちらこそ、これから宜しくお願い致します」
王国のトップスリーのそれぞれの格好良さに更に緊張してしまい胃がズキッと痛みつつ、俺は笑みを浮かべお辞儀をする。王子だから、本当はしなくていいのかもしれないが、本当に忙しい中来てもらっているし、何より俺より年上の人達だから、しっかり敬意を込めて挨拶したい。伝わっているとありがたいのだけど。
俺の挨拶にどんな反応をするか気になり、三人を見ると固まっていた。
……え? 何かマズかった?
「ヴァ、ヴァーミリオン殿下。殿下は三歳ですよね?」
ぷるぷる震えながら、三人を代表してヘリオトロープ公爵が問うてきた。
「あ、はい、そうです」
「三歳でもうそのような挨拶が出来るのですか?! うちの子でもまだなのに……!」
ガシッとシュヴァインフルト伯爵が俺の肩を掴む。
あ、マズったわ。ちょっと塩梅間違えたヤツだ。この反応は。
「神童だ……」
緑色の目を輝かせ、セレスティアル伯爵が呟く。
あ、マズイマズイ。何となく、明日からの内容がハードルが上がって、想定外のハードさになりそう。予習マジでしとこう。
そんな出会いをした王国のトップスリーに教わったことで、俺は後々、色々やらかしてしまうことをこの時の俺は知らない。
王国のトップスリーによる俺の教育が始まり、もう三週間が経った。
予想通りにハードルが上がって、ハードモードになっているが、何とか食らいついている今日この頃。俺は身体が動けるって素晴らしいと感じながら王城の庭を散策していた。
今日は週に一度の休みだ。本当は毎日お願いしたいが、根を詰め過ぎるのも良くない上に、三人から休むのも必要と言われたということもあり、週に一度休みを設けている。
三人共忙しい中、合間で見てもらっているのだし、三人にも休みが必要だ。
というわけで、気分転換がてら、王城の庭を散策している。もちろん、メイドや騎士も付いてきてくれている。まだ俺付きの側仕えや護衛がいないため、メイドや騎士は交代制だ。兄の話だと、俺のメイドや騎士役は毎回争奪戦らしい。
何故争奪戦になるのかよく分からないが、怪我しないようにして欲しい。
王城の庭を散策していると、大きな木の下で、よく見る鳥より少し大きめの赤い鳥が横たわっているのが見えた。
「赤い鳥?」
そう呟いて、俺は赤い鳥の方へ駆け寄った。
「殿下! お待ち下さいっ」
騎士の一人が俺に声掛け、慌てて付いてくる。
大きな木の下に辿り着くと、少し大きめの赤い鳥の様子を窺う。
身体の色が俺の髪と同じ紅色だったことで、少し親近感が湧き、もし生きているなら助けたいと思った。
赤い鳥にそっと触れるとまだ息があった。傷が多く血塗れだったので、メイドに大きな布を用意してもらう。
「ありがとう。鳥さん、少し抱っこするよ」
メイドにお礼を告げ、赤い鳥を抱き上げ、用意してもらった白い大きな布に乗せる。白い大きな布で包み、俺の部屋へ向かう。
俺の部屋へ辿り着き、中に入る。
「申し訳ないけど、温めのお湯と清潔な布巾を持ってきてくれる?」
すぐ、メイドにそう伝え、残りのメイドと騎士には外で待ってもらうように伝える。
部屋に入り、俺のベッドの上に布で包んだ、赤い鳥をそっと置く。まだ息があるか確かめる。
「良かった。まだ息がある」
これなら助けられるはずだと感じた俺はこの三週間、セレスティアル伯爵から教わった回復魔法を赤い鳥に掛ける。教わった回復魔法の呪文を紡ぎ、魔力を手に集中させる。
上手く回復魔法が赤い鳥に馴染まず、焦る。教わった時は出来ていたのに。
何故、出来ない?
「助けたいのに……!」
もっと手に魔力を集中させ、回復魔法を紡ぐ。
すると、頭の中に声が響いてきた。
『回復魔法の呪文を紡ぐな。回復することを思い浮かべたまま手に魔力を集中させろ』
頭の中に響く男の低い声に驚きつつ、考えるのは後にして、言われた通りにやってみる。
言われた通りに呪文を紡がず、回復することを思い浮かべたまま手に魔力を集中させてみると、赤い鳥の傷がみるみる塞がり、綺麗になっていく。
綺麗になり、赤い鳥の呼吸も安定したようで、俺はホッとして脱力する。
「良かったぁ……。助けることが出来たぁ……」
メイドから用意してもらった温めのお湯と清潔な布巾を受け取り、赤い鳥の身体を拭いていく。拭くとやはり俺の髪の色と同じ紅色の身体で親近感が湧く。
「目が覚めたら、友達になってくれないかなぁ」
『我を友と呼びたいか。変わった人間だな』
これが、俺の頼もしい生涯の相棒となる彼との出会いだった。
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