第3話

 四ヶ月の時が過ぎた。

 私のデジタルでの食生活は充実し、最初に買ったVRMMOの料理はおろか、他に発売されたVRMMOの料理にも手を伸ばすようになっていた。


 様々な世界で提供される料理は、それぞれが独特な匂い、食感、味を醸し出していた。私はゲーム内における自分の行動範囲を広げつつ、寄った街で提供される料理は一通り手をつけることにしていた。


 そして、様々なゲーム及び様々な街の料理を食べ比べることで『甘いものが食べたい場合はどこに行くべきか』、『たくさん料理を平らげたい場合はどこに行くべきか』を自分の中で決めていた。


 まるで自分の中のフルコースを決めるような感覚で、私はとても充実したデジタル食生活を行うことができた。また、料理を食べたいという欲求のおかげか、ゲームの操作技術は大いに上がり、レアアイテムも多くを所持することができた。


 そのためゲーム内で猛者が集まるグループに所属することに成功。彼らと行動を共にする利点はボスモンスターが稀に落とす高級な食材をゲットできる可能性があることだ。それを街にいる一流の調理師に依頼することで、高級料理を召し上がることができる。


 もちろん、VRの技術だけではない。

 目的であるダイエットも順調そのものだった。


「よしっ!」


 私は体重計に乗り、自分の体重に目をやると思わずガッツポーズをとった。

 56.2キロと数値が記載されている。ダイエットにおける理想のペースは自分の体重の5%減だ。それを目安に、一ヶ月目は3.5キロ。二ヶ月目、三ヶ月目は3.0キロ。四ヶ月目は2.8キロ減量することに成功した。


 160センチの女性の標準体重は56.3キロなので、私は無事、標準の女性と同じ美貌を手にすることができた。腹回りも四ヶ月前と比べれば、細くなったように感じる。唯一の汚点としては『筋肉がほとんどついていない』と言ったところだろうか。


 これに関しては、リアル世界での筋トレが必須事項になるので、私には到底できなさそうだ。落ち込みはするものの、目的であったダイエットには無事成功したのだ。それに、充実したデジタル食生活を手に入れた私はもう太る心配をする必要はないだろう。


 最近はデジタルでの豪華な食生活に慣れ過ぎたせいか、今まで好きだったリアル世界の肉類や炭水化物をあまり好まなくなってきた。そのため、完全に腹の中に入れるだけの作業となり、味わって食べるのはデジタルの料理で行うようになっていた。


 だからこそ、もう太ることはないと自負している。

 上機嫌になり、鼻歌を歌いながら私は部屋着へと着替える。洗面所を出て、リビングを出るとパソコンの前へと座った。


 スリープを解除すると、画面にサイトが映し出される。画面上部にある通知の有無を知らせる鈴のマーク。その右上に赤色の光が灯る。通知の内容を確認すると、誰かが私のブログをお気に入り登録とコメントをしてくれたみたいだ。

 

『紹介していただいたお店を今日食べに行ったのですが、めちゃくちゃ美味しかったです! これからもおすすめのお店の紹介を楽しみに待っています!』

 

 私はコメントを読み、思わず口が綻んだ。

 VRMMOでの食生活に満足していた私は、他の人たちにもこの魅力を教えてあげようとブログを立ち上げた。


 ブログには、私のおすすめのお店や料理、食材を紹介している。

 お店や料理に関しては、どのゲームのどの街にあるものなのかを載せ、ゲーム内で撮った写真と食べてみた感想についても掲載している。


 食材に関しては、どのモンスターやクエストを攻略するとゲットできるのか。また、モンスターの場合は倒し方や有利となるアイテムを紹介している。クエストの場合は何人いると有利かなどの攻略法を載せている。

 

 さらに、新しく赴いた店で出てきた料理のレビューも食べるたびに載せていた。今反応のあったものもその類のレビューに対してだった。数多くの料理を堪能している私のレビューは多くの人に反響があった。

 

 ブログの収益はここ一ヶ月で凄まじく上昇し、このまま頑張れば本業としてやっていけるレベルかもしれないと考えたものだ。今はまだ副業程度の稼ぎとして、更新を続けている。

 

 近々、動画サイトに食事風景を投稿することも考えている。VRMMOの世界では写真を撮るだけでなく、動画の撮影もできる。現在も多くの動画配信者がVRMMOでの冒険の様子を動画サイトに載せている。


 パソコンに目を通していると、パソコン横に置いてあったスマホから通知が飛んでくる。

 画面には配達業者からの『配達完了』を告げるメッセージが表示されていた。


「おっと、来ました、来ました!」


 パソコンをスリープにして画面を閉じる。スマホを手に取り、ポケットにしまうと玄関へと足を進めた。靴を履かずに扉を開けると視界に段ボールが映り込んだ。それを手に取って再びリビングへ歩いていく。テーブルに置いてあるハサミを使って、段ボールを開けると中からはゲームソフトが出てきた。


 本日新しく発売したVRMMOのゲームだ。買った目的はもちろんゲーム内のデジタル料理を食するためだ。副業で稼いだお金のほとんどは新しいVRMMOゲームを買うために使っている。少しでも、皆からもらった収益を還元できるようにしているのだ。


「さて、早速初めていきますか!」


 ゲームソフトを装置にさすと私はヘルメットを頭へと被せた。

 今度はどんなデジタル料理と出会えるのか私は胸をときめかせながら、ゲームの世界へと没入した。

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【短編】VRダイエット 結城 刹那 @Saikyo-braster7

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