第2話
「はあーーー!!」
目の前に佇む『ホーン・ラビット』と名前の表示された耳の間に金色の角が生えたウサギを剣でなぎ払う。満タンだったホーン・ラビットの体力ゲージが一気に削られていく。ゲージの色が緑色から黄色、そして赤色になり、最終的には空になる。
ホーン・ラビットは身を光らせると光子となって静かに消えていく。その後、素材やアイテム、そしてお目当てである『コイン』が出現した。それらはホーン・ラビットを倒した私の元へと吸収される。
メニューバーを覗くとコインの所持額が上がっているのが伺えた。
初めてVRMMOと言われるものをやってみたが、中々楽しいものだ。これはみんながハマるのも納得できる。
一定の所持額が貯まったところで私は草原から街へ戻るため、メニューバーからリープ機能を発動する。これは指定の場所に行くことができるスキルだ。
指定場所として街を選択すると、視界が真っ白になり、すぐに目の前に町のシンボルとなる噴水が現れた。
街に戻ったところでステーキを焼いていたお店へと歩いていくことにした。草原へ出る前にこの街の店を一通り下見をしておいたのだ。
昨日、バラエティ番組で見た『VRダイエット』なるものを私は早速始めることにした。
VRダイエットはその名の通り、食事制限する代わりにそれに関するストレスをVRMMOの料理で補うと言うものだ。
五感を刺激するだけのVRではどんな料理を食べたとしても、味だけを堪能できて自分の体に摂取されるカロリーはゼロ。つまり体を気にせず自由に食べることができるのだ。
テレビの情報曰く、VRで料理を食べさえすれば、現実世界に戻ってきた時に『お腹は減っているが、食欲はあまりない』という状況になるらしい。それにより、食事制限ができるようになるという。
まだ私は試していないため本当なのかどうかはわからない。
ひとまず今はVRMMOで食べることのできる料理の味を楽しみにすることにした。
料理を食べるためにはクエストを達成したり、モンスターを倒すことで得られるコインが必要だった。
最初は面倒に思っていたが、やってみると案外楽しく、モンスターに攻撃を食らわせた時のエフェクトは日頃たまったストレスを解消させてくれるほど清々しいものだった。
私はルンルンと鼻歌を奏でながら店へと入っていく。
モンスター討伐という重労働を終えた後の絶品料理。それはさぞかし美味しいことだろう。
店は多くのプレイヤーで賑わっていた。テーブル席でビールを飲んで話す客。カウンターでワイン片手に静かな時を過ごす客。大量の食器を前に積んで食べることに勤しむ客と多種多様だ。
彼らが机の上に置いている料理は全て美味しそうで思わずよだれが垂れそうだった。
私は空いているテーブル席に座ってメニュー表を見た。メニューはパネル式となっており、ボタンを押すと注文が完了されるそうだ。
ひとまず、美味しそうなのを片っ端から注文することにする。
厚切りステーキ、ハンバーグ、スパゲッティ、ドリア、ポテト、ムニエルなどなど。
何にしようかと悩んでいると注文した料理が出てくる。その瞬間、私の所持金が減った。
どうやら、注文して料理が運ばれた瞬間に出てきた料理の代金が所持金から引かれるようになっているらしい。
料理がやってきたため、注文するのを一時的にやめて食べることに専念する。
まず最初にやってきたのはミートスパゲッティだ。テーブルの上に盛られたスパゲッティを見て、思わず口元が緩んだ。熱々でトロトロになったトマトソースが、麺にからみつき、鮮やかな赤と黄色の組み合わせが目を楽しませてくれる。
フォークを手に取り、ひと口すくって口に運んだ。そこには、柔らかくもちもちとした麺の食感にトマトソースの酸味がじんわり広がる。五感を刺激されただけなのに、実際に食べているような妙なリアルさがあった。
食べる前に匂ったニンニクとオリーブオイルの香り。どうやら、このパスタにはニンニクとオリーブオイルがたっぷりと使われているようだ。フォークを回して麺をからめ、もう一口すくった。ニンニクの香りとオリーブオイルのコクが、トマトソースの酸味と相まって、深みのある味わいを生み出していた。
続いてやってきたポテト、ハンバーグ、厚切りステーキ、ドリア。末てが鉄板の上でジュージューと音を立てている。油がしぶきを上げ、飛び散る。見た目はリアルの店でよく見る料理だ。
厚切りステーキをナイフで切ると中に溜まった肉汁が鉄板へと流れ込む。湯気を立てる肉に特製のソースを絡め、口へと入れる。噛みごたえは柔らかく、噛めば噛むほど口の中に肉汁が広がっていく。
ステーキに合わせたソースは、フルーティーな香りがあり、スパイスがほどよく効いていた。ソースをかけた肉は、より深みのある味わいを生み出し、私を魅了させた。二つの料理をいただいただけでも、満足感は計り知れなかった。
しかし、料理はまだまだやってくる。
私はそれからも大いに多種多様な料理を堪能することにした。
****
すっかりVRMMOを堪能した私は現実世界へと帰ることにした。
ログアウトボタンを押し、ヘルメットを外す。始める前は真上にあった太陽はすっかり西の空へと沈みかけていた。
ベッドから起き上がるとお腹が鳴る。何も食べていない私の体は食を求めていた。だが、意外にも私自身の食欲はそんなにない。先ほど大いに堪能したからかすっかり料理に飽きてしまっていたのだ。
夕食はどうしたものかと冷蔵庫を開ける。サラダを取り出し、いただく。先ほどまでこってりしたものしか食べていなかったからか、今まで嫌っていたサラダを美味しくいただけた。
お腹も少し満たしただけで満足している様子で、お腹が減ったと言う感覚はなくなった。今日一日試してみたが、これはもしかすると効果があるかもしれない。流石に夕食サラダ一つというのも何だか味気がない。次はもう少しVRMMOでの食事を抑えるとしよう。
私は今日の経験を生かし、リアルとデジタルでの食生活について計画を立てることにした。
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