第4話 推理①
明石は、遺体の発見現場を見てから帰りたいと言うので、僕は現場まで案内した。
現場はまだ一部に立ち入り禁止のイエローテープが貼られて通行規制が敷かれ、警官が通行人を誘導していた。
明石は遠巻きに遺体の発見箇所を確認すると、周辺を歩き回った。僕も一緒に歩いたが、ここは住宅街でコンビニもなく、喫茶店が1軒あるだけで居酒屋の
信号からも離れているので、監視カメラもなさそうだ。
死体をここに遺棄していった犯人は、少なくとも土地勘のあるやつかもしれない。ここは繁華街から離れており、夜中の人通りは少なそうだから。
この後大学に帰った僕たちは、ミステリー研の連中に質問攻めにあった。いや語弊があるな、質問攻めにあったのは僕の方だ。
警察に何を聞かれたとか、疑われなかったかとか。疑われるどころか、捜査情報を教えてもらったと言うと、みんなびっくりしていた。
それで僕は、明石が解決した
「そうだったのか明石君」春日は興奮した様子で明石に話しかけた。「君はミステリー研にふさわしい名探偵だったんだな」
「僕は『推理士』だ」明石は、ホワイトボードにマグネット留めしてある看板代わりの紙を指差して言った。「可能性のある推理をいくつか提供するのが役目と言っていい」
そうして僕がみんなに説明していた間に打ち込んで印刷していた紙を6枚、ホワイトボードの空いている場所にまたマグネット留めした。
①『被害者
②『家族構成は、ほかに妻と大学生の娘と高校生の息子』
③『死亡推定時刻は、今日の午前0時から2時の間。死因は、後頭部を鈍器で叩かれたことによる
④『凶器は見つかっていない』
⑤『同僚に出世争いで敗れたため、昨夜は一人でだいぶ酒を飲んで荒れていたらしく、午後10時頃に酒場を追い出されている』
⑥『遺体の発見現場は、追い出された酒場から家に向かうのとは反対方向であるため、別の場所で殺害されて車で運ばれ、現場に遺棄されたと警察は考えている』
おいおい、捜査情報をみんなに知られていいのか? だが、みんなは現実のミステリーにワクワクしている。
「この状況で真っ先に疑われるのが誰か、三上、わかるか?」
急に問われた僕は、戸惑った。
「警察からは、まだ容疑者については教えてもらってないよな?」
「そうだが、常識的に考えたら真っ先に疑われる人間がいる」
「わかった!」サークルメンバーの
「ご明察」明石はビシッと僕を指差すや否や、「つまり犯人は三上、君だ」
みんな一斉に僕から離れた。ちょっと待てよ、何をいきなり?
「冗談はそのくらいにして」
明石が言った途端に、みんなコケた。おおっ、明石が冗談を言うのを聞いたのは初めてかも知れない。
「第一発見者が犯人だったら、浅見光彦は生涯で何回捕まらなければならないというのか。まあ実際何回か捕まってたけど」
「おおっ、明石君は浅見光彦シリーズを読んでいるのか?」
春日が嬉しそうに尋ねたが、
「いや、ドラマの再放送でしか観ていない」
と、つれない返事。
「それより、今日の猫行方不明事件の依頼者の名前はなんていうんだ?」
この明石の問いには、みんなキョロキョロ見回すばかりで誰も答えない。誰も聞いていなかったんだ?
明石はため息をついて、②『家族構成は、ほかに妻と大学生の娘と高校生の息子』と書いた紙を指差して言った。
「彼女の名字がもし『江藤』だったらどうするんだ?」
僕もみんなも驚いた。この事件は、彼女によって仕組まれたものだったというのか!?
「誰か彼女の名前の聞き込みに行ってくれ」
明石が要望すると、春日が、
「よし、それじゃあ
自分が行かないのは、まだ明石の推理を聞きたいからに違いない。
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