第2話 事件発生


「明石、なんでペットだってわかったんだ?」

 僕が尋ねると、明石は当然だと言わんばかりの顔で答えた。

「6歳の女の子が行方不明なのに、警察が事件性がないなんて判断するわけがないだろう?」


 そして明石は立ち上がると、ホワイトボードに何か書き始めた。だが、字が汚すぎて全然読めない。もはや古代文字レベルだ。


「明石、読めないから口で言ってくれ」

 僕が頼むと、明石は書くのをやめて、こちらを向いて言った。

「猫の行動範囲はそんなに広くないし、外へ出たことがないなら尚更だ。まだ自宅近辺にいて、怖くて隠れている可能性が高い。木の上に登って降りられなくなっている可能性もある」


猫の生態に詳しいんだ。でもそれは、探してやれって言ってるのか?


「今の話だと、早く見つけてやらなくちゃ可愛そうです! お願いします、一緒に探してください!」


 彼女は強く訴えた。普段なら断りそうなものだが、春日の顔に迷いはなかった。

「みんな、探しに行くぞ!」

この、ちょっとかわいいもんなあ。春日、鼻の下が伸びてるぞ。


「どうする?」

 僕が明石に問うと、

「この現場は、ワトソンに任せる」

要するに、自分は行きたくないってことだ。猫の生態に詳しいくせに、行く気はないのか。


 しょうがないので、僕は彼等について行った。人数合わせとはいえ、一応サークルメンバーだからな。


 明石の言ったとおり、まず彼女の自宅前まで連れて行ってもらって、手分けしてその周辺を探した。


 春日たちが「みゆきちゃーん」なんて呼びながら探したものだから、周辺の人が「迷子?」と尋ねてきたりした。全く紛らわしい名前をつけてくれる。


 僕は周辺の木を注視してみた。アメリカンショートヘアだというその猫が、木の上にいないかどうか、何本もの木を見上げては探した。


 すると、何の木かわからないけど、幹と伸びた枝の間に縞模様の何かが見えた。


「いた! おーいみんな、こっちだ!」

僕が大声を出すと、みんな集まってきた。

「みゆきちゃん! 無事で良かった」

彼女が笑顔で猫に呼びかけるが、猫は降りてこない。


「これはあれか」春日が言った。「明石君が言ったように、登ったはいいが降りられなくなったってやつか?」


梯子はしごを借りてこないとダメかな?」

末長すえなが君が言ったが、

「ちょっと待ってくれ、明石に聞いてみる」

僕はスマホで明石に電話した。

「明石、猫は木の上にいたけど、降りてこられないみたいだ」


 すると明石は、

「腹が減っていたら、エサを見せれば臆面もなく降りてきたりするぞ」

と言うので、彼女にそれを伝えると、彼女は「ちゅ〇る」を取り出した。すると彼女が、


「みゆきちゃん、これあげるから・・・」

というよりも早く、猫は勢いよく木を降りてきた。なんだ、一人で(一匹で)降りれるんじゃないか。


 全員が良かった良かったという雰囲気になったとき、僕は木の陰の草地にジャケットが落ちているのが見えた。


 目をこらしてみると、ジャケットだけじゃなくてスラックスも落ちている。変だなと思い、近寄ってみると・・・。


 スーツが落ちているんじゃなくて、人が倒れているのだった!


「誰か倒れているぞ! 救急車を・・・」

呼んでくれと言いそうになって、僕は自分がスマホを握っていることに気がついた。


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