【推理士・明石正孝シリーズ第2弾】猫探し殺人事件

@windrain

第1話 依頼人


 春日かすがは、自らが主催するサークルに「ミステリー・サークル」などというアホな名前をつけようとしたが、当然のことながら却下された。


 それだとミステリー・サークルを作る会だと思われてしまうから、当然の反応だ。


 日本中探したら、そんな名前のサークルもあるのかも知れないが、ウケを狙ってどうするんだ。


 結局、名前は普通に「ミステリー研究会」に落ち着いた。


 サークルメンバーはギリギリ10人で、大学の公認審査を通って、図書室の隣の会議室を活動場所としてあてがわれたが、4人位はいつも来なくて、幽霊会員のような気がする。


 僕たち2人は元々のサークルメンバーではなくて、春日に泣きつかれて渋々入ることにしたのだった。つまり、人数合わせ要員ということだ。


 で、僕、三上みかみ良郎よしろう明石あかし正孝まさたかは、会議室の片隅でパソコンをいじくっている。ほかの4人のサークルメンバーは、それらしくミステリー小説を読んでいた。春日を含めて、全員男だ。


 僕たちは Wi-Fi が使えることを理由に、人数合わせ要員になることを承知したのだ。図書室の隣だし、課題のレポートの作成にも便利だから。


「今度さ」サークルメンバーの末長すえなが君が言った。「ミステリードラマや映画のDVDを持ってきてもいいかな?」


「いいけど、DVDプレイヤーとモニターはここにはないから、持参するのか?」

 春日が尋ねると、

「うーん、2つ持ってくるのはしんどいなあ。そうだ三上君、ゲームプレイヤーを持ってくるから、そのパソコンに繋げさせてくれないか?」


 末長君は明石の方には振らずに、僕の方に言った。

 そうだろうな、明石はちょっと変わったやつで、口数は少ないし、人付き合いもあまりない。表情に乏しく、陰で「人造人間」などと呼ばれていたりもする。


 たぶん明石の友達といえる存在は、僕しかいないんじゃないかな。でも、僕はみんなが知らない明石の一面を知っているんだ。


 ・・・いや、BLみたいな展開は期待しないでほしい。決してそういうことではないから。


「このパソコンを使われたら、僕の仕事ができなくなるじゃないか」

 僕が断ると、末長君はあからさまにがっかりした表情になったが、やはり明石には同じことを頼んだりはしなかった。


 明石はというと、僕と同じくレポートを打ち込んでいるんだと思っていたら、どうも違ったらしい。部屋の隅に置いてあった、たぶん資料印刷用のプリンターだと思うんだけど、その電源を入れると、勝手にパソコンと Wi-Fi 接続して印刷しだした。


 そして2枚印刷したうちの1枚を持って、部屋を出て行った。


 5分ほどして戻ってくると、残った1枚を近くのホワイトボードにマグネット留めで貼り付けた。それには、こう書いてあった。


『推理士・明石正孝 学内事務所』


「ちょっ、明石!」


 明石は『何だ?』とでも言うかのように、平然としたまなざしで僕を見た。気づいた春日も唖然としている。



 その時、誰かが入口の引き戸をノックした。そしてガラリと引き戸を開けて顔を覗かせると、

「こんにちは。ミステリー研究会はこちらですか?」

と、1人の女性がおずおずと入ってきた。


「はい、こちらですよ!」入会希望者と思ったのか、喜んだ春日は声がひっくり返っていた。「どうぞこちらへ!」


「お願いがあって来たんです」

 春日に勧められた椅子に座ると、彼女は言った。

「きっとミステリー研の人たちなら、何とかしてくれるんじゃないかと思って・・・」


 あっ、そっちね? 入会希望じゃなかったんだ。謎解きとかの依頼だったら、うちのミステリー研で引き受けるんだろうか?


「みゆきちゃんが行方不明になっちゃったんです。探してもらえないでしょうか?」


 行方不明者の捜索? それはちょっとハードルが高いのでは?


「捜索願は出したんですか?」

 春日が訪ねると、彼女は首を横に振った。

「誘拐とか、事件性がないと積極的な捜査はできないそうです」

「誘拐ではないんですね・・・いつから行方不明なんですか?」

「今朝からです」


「みゆきちゃんは何歳?」

 パソコン作業をしていた明石が、突然尋ねた。会話を聞いていたんだ?

「6歳です」


「それは・・・」

次に明石が発した言葉に、僕たち全員が驚いた。

「犬? それとも猫?」


 なんて失礼なやつだ、と僕は思った。


「猫です」


 はあ?


「今までお外に出たことがないんです! 車に轢かれたりしないか、凄く心配で・・・」


 一番暇そうなサークルだから、探すの手伝って欲しいってことだったのか・・・。




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