名称変更
ゴブスラ洞窟の掃討が終わり、フォンデール王国は本格的に開拓を進めるようです。最初の目標地点はファーストウッドから東に150ギタール(※距離の単位。1ギタールは約750メートル。約1.5メートルを表すガウルという単位もある。これは大人の男性が両手を開いた幅とほぼ同じ)ほどの位置にある、グラズク川の本流に支流が交わる地点になります。
「モンスターがいるのは洞窟だけではないんですよねぇ」
ついついため息が出てしまいます。
「どうしたの、ため息なんかついて」
「あ、ミラさんお帰りなさい」
ミラさんに見られてしまいました。国の開拓事業は冒険者とも深くかかわることとはいえ、あくまでもギルドは支援組織であって開拓の主体ではないのですが、今の戦力を考えると……前途多難です。
「何でもありませんよ、モンスター退治お疲れ様でした」
私は笑顔を作ってミラさんに返事をします。顔が引きつってないでしょうか?
「ゴブスラ洞窟は綺麗にしてきたっすよ!」
ヨハンさんが元気よくギルドの入り口から入ってきました。その後ろには満足そうなコウメイさんと肩をガックリと落としたマリーモさんが続きます。サラディンさんとコタロウさんは武器の手入れに行っているみたいですね。
「はい、スライムの捕獲おめでとうございます。追加報酬が出ますよ!」
この言葉に一番喜んだのはマリーモさんでした。危うくタダ働きになるところでしたからねー。
「魔宝石の生産法は期待してもらって大丈夫ですよ。エルフにも負けないぐらい完璧な技術を確立してみせましょう!」
コウメイさんが眼鏡をクイッとして言います。問題なさそうですね。宮廷魔術師組で魔宝石の使い道についての研究を進めてしまいましょう。
参加した皆さんに報酬を配分した後、私はミラさんとサラディンさんに相談しました。冒険者の職業と技能についてです。
「スキルが何を指すのかが紛らわしいとはたまに聞くわね」
「職業というより役割だからな。混乱を生むなら馴染みやすい名称に変えてもいいだろう。一度決めたらずっと変えてはいけないという考え方は多くの場合マイナスに働くものだ」
二人とも名称の変更に前向きなようです。話し合いの結果、ギフトとスキルはそのままにして、
試しに私達の登録情報を見てみましょう。
・エスカ・ゴッドリープ Sランク(ギルドマスター)
役割/職業:
・ミランダ・トゥルダクス Aランク(サブマスター)
役割/職業:魔術師/宮廷魔術師
・サラーフ・アッディーン Aランク(サブマスター)
役割/職業:
シンプルですね。冒険者の能力についてあまり詳しく載せると悪用される危険があるということで、これと現在地しか名簿には表示されません。皆さん隠しておきたいとっておきの技術があったりしますから。
そういえばマリーモさんの役割が魔術師というのもおかしいのではという意見がありました。攻撃もしていましたが、基本は仲間の支援ですからね。とはいえ
「仲間の支援だから……
「変にひねる必要もないし、分かりやすくていいんじゃない?」
ではこれを元にマリーモさんの登録情報をいじって……。
・マリーモ・コロリーナ Dランク
役割/職業:支援者/吟遊詩人
うん、分かりやすいですね!
「それにしても、スライム捕獲の追加報酬が全員に500デントってずいぶん太っ腹よね」
ミラさんが財布を撫でながら言います。この人は前回報酬無しでしたからね。
「いえいえ、もっと出てもいいぐらいなんですよ。現段階では魔宝石の生産が可能にはなっていないからその程度しか出せないだけで」
「ギルドで作り出せるようになれば、これまでエルフから買っていたものが国内で手に入る。金銭的な利益だけでなく、ネーティアの連中に頭を下げなくて良くなるのは相当な国益につながるからな」
サラディンさんが補足してくれました。そういうわけなんです。エルフは人間に対してあまり友好的とは言えませんからね。主に北の帝国のせいなので、フォンデール王国とは交易も行っているのですが。
「コウメイさんのことだから、大丈夫でしょう。それよりも他国から妨害されたり成果を奪われたりしないように気を付けないといけませんね」
莫大な富を生む魔宝石の製法は多くの政治的な問題も生んでしまう可能性が高いですが、人間の勢力拡大のためには避けて通れない道なのです。クレメンスさんが上手くやってくれるのを期待するしかありませんね。
「なるほどねぇ。ギルドの出番ももっと増えそうね!」
そうですね。今回のことで冒険者が増えてくれればいいのですが。特に聖職者が。
私は、これからやらなければいけない仕事の数々を思い、心の中で気合を入れ直すのでした。
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